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第7話 ギルド長

まるで黒い箱のような。

 一番しっくりくる形がそれだ。ギルドの建物は真っ黒の壁に囲まれた、四角い箱のような見た目をしている。塗り固められた漆喰のような壁は真っ黒で、その一角に白い扉がついていて、そこから中にはいって行った。


 中は意外にも結構広い。

 少し薄暗い感じだが、いやな雰囲気ではなく、どちらかというと落ち着く、どこか家に帰ってきた時のような気持ちになる場所だ。

 入り口すぐの右手には、濃い茶色をしたカウンターテーブルがあり、いつもそこには、ぐったりとした姿勢でこの建物の主人が、椅子にもたれかかっている。

「えーと、ちょっといいですか、ギルド長?」

 少し高いカウンターなので、背伸びするようにして、手をかけたソーンは、ぐったりしている主人に話しかける。しばらく返事を待ってみた。

 _____微動だにしないのは、何でだろう。


 とりあえず、気持ちを切り替えるために、建物の中を見渡してみた。

 部屋の中央には、このギルドの代名詞ともいえる、告知板がある。

 不思議な仕掛けで動いているそれは、人の背丈ほどの高さで、厚さはだいたい扉くらい、真っ黒の板のように見えるもので、床から真っ直ぐに立っている。よく見ると表面には白い文字がいくつも光って見えている。それは、しばらくすると別の文字に変わり、またしばらくすると元の文字に戻る。

 文字の内容は、明日の天気だったり、遠く離れた港町の事件のことだったり、少し先の日程の祭りの開催地のことだったり、色々と書かれているが、読んでる途中で別の文字に変わったりするので、正直、全部読むのは大変だ。

 そのため、ギルド員の中に、この告知板の内容を、少しづつ内容を模写する仕事をしている人もいて、皆はその紙を見せてもらっていることの方が多い。でも今日は、そのギルド員の人も不在なようだ。


 告知板から目を離すと、その奥にみえるのは、これまた変わったものしか売っていない商品陳列棚がある。何に使うのか、よく分からないような、穴だらけの壷とか、骨を削って平らにしたような皿とか、古い読めない文字がびっしりと書いてある本に、やたらと大きな羊皮紙巻物、小指の先ほどのガラス瓶には七色に光る液体がはいっている。

 本当に売る気はあるんだろうかと、疑問に思いながら、部屋の隅をみると、上の階にあがる階段をみつけた。そこから上には行ったことがないので何があるのかはよく知らない。ギルド長がたまにそこから、陳列棚に変なものを並べようと持って降りてくるので、きっと倉庫かなんかだろう。

 そんなことを思い出しながら、ぐるりと見て回っていると、カウンター付近から眠そうな声が聞こえてきた。

 「んあぁ、ソーン君か、何の用だね」

 みると椅子からのそりと起きあがって、今度はカウンターに寄りかかっている灰色のシャツに黒いベストの背中が見えた。

 ついに話ができそうということで、ギルド長へと歩みよりながら、またぴくりとも動かない様子をみて不安になってきた。

 「えーと、起きてます?ギルド長」

 心配そうに見つめるソーンの横から、ふさふさした茶色の尻尾がのびてきて、カウンターにうつぶせになっている、さらさらした長髪の上から頭を、何度かポン、ポンとつついた。

 その刹那、ギルド長の地面すれすれまで、だらんと垂れていた両腕が、一瞬にして頭上に差し出され、片手で茶色のしっぽをつかみ、もう片方の手で抱き抱えた形で、がばっと身をおこし、してやったりという顔でこう言った。

「アルーフ!宿の仕事がやっと終わったか、こっちの仕事の出番がきたぞ」

 不意をつかれたのか、あっさりと尻尾をつかまれて、更に抱きつかれたクーマが、じたばたしながら声をあげた。

「ふぉ、いきなり、なんじゃお主は」

 すると、いつもと違う感触にやっと気づいたのか手元をみて言った。 

「ん、アルフにしては、小さいな、なんだビーストか?」

 そう言うと、興味を無くしたかのように、尻尾から手を離して、また、ぐったりとカウンターへ倒れ込もうとしたので、今度は、ソーンがその体を下から支えた。

「そろそろ、起きてくださいギルド長。アルフは隣の旅の宿に手伝いに行ってるんですか?」

「これは、ソーン君か、いつの間に来たんだね」

 体を下から支えられながら、真剣な顔で尋ねてきた主人に、驚いてそのまま一緒に倒れそうになったソーンだったが、苦労の甲斐があったのかギルド長が、ようやく、真っ直ぐにソーンに向かって上体を起して、話し出した。

「まあ、それは冗談だが。なるほど、テイムできたのか、ビースト?それにしては、あまり見ない種類だな、しかもしゃべっていたなさっき、これの相談にきたのかね」

 じーっと、見定めるような視線を感じてクーマがすっとソーンの後ろに回り込んだ。

「えーと、そうなんです。奇跡的にテイムできたんです。クーマっていう名前なんです。毛皮もふわっふわで、、、いあ、相談はそれじゃなくてですね。最近、噂の空間の歪みの件を聞きにきました」

 手をふって目の前の空間を斜めにきるような仕草をしながら、こんな感じですと、身振りを加えるソーンだったが、それを見ているのかどうなのか少し目を細めながら、ギルド長が、何かを思い出した風な顔をした後、唐突に尋ねてきた。


「噂といえば、そちらのクーマ君は夜の散歩が好きだったりはしないかね?」

 そう言うと、今やソーンの後ろに完全に隠れたクーマをじっと見つめながら、更に質問してきた。

「散歩ついでに夜空を飛んだり、大きな鳴き声をあげたりとかしないかね?ソーン君」

 質問の意図がよく分からないソーンだったが思いつくところを答えた。

「えっ、夜ですか、散歩とか一緒にはしたことないですね。いつも一緒に寝てますよ。すっごいふわふわであったかいんですよぉ。あと、鳴き声とか、イビキとかはないですね、寝てるときも静かですよ」

 そう答えながら、後ろにいたクーマを目の前にもってきて抱きかかえ、このあたりがとくに、フサフサしてると説明していると。

「ふむ、まあ静かにしているなら、よしとするか。君たちも、夜の散歩には気をつけたまえ。さて、歪みの件だが、こちらは結構、深刻な問題になっているな」


_______ギルド長によると、あの日、至るところに発生した空間の歪みにより、多くの問題が発生しているとのことだ。そのひとつに、大街道の封鎖があり、きっかけは歪みだが、原因は別にある。どうやら、その歪みから本来このあたりに生息しない生き物が出現しているようで、その対応でギルドはこのところ忙しいそうだ。

「あと、それに関連した仕事の依頼もいくつかきていてな、ついでに受けていくかね。どうやら人手が足りないそうだ」

 そういうと、手元から巻物スクロールをとりだして目の前に広げた。それを遠目にみていたクーマが興味深そうに質問した。

「仕事の依頼とな。報酬が良いのはあるのかの?しばらく食べ物に困らなくなるくらいの奴じゃ」

「えー、クーマそれは、、、報酬が良いのは大体、危なそうなのばっかりで、僕にはちょっと無理じゃないかな?」

 そのやりとりを見ていたギルド長は、意外にもこう答えた。

「ん、そうでもないな、たとえばこの護衛の仕事だが、『馬車の護衛任務、経験不問、職業・レベル問わず、途中離脱も可』みたいだな、ただし、成功報酬にはなっているが。別の仕事の村周辺の障害物除去よりは報酬が、かなり高額だぞ」

 「そうなんですか、でも護衛ってそんな誰でも出来ないと思うんですが、、、あの、報酬はかなり高いんですか?」

 甘い条件で報酬がいいという魅力に、ちょっと、このところの食費の出費を考えると、心が揺らいできたソーンだった。

 「そうだな、この内容で報酬はなかなかだな、まあ詳細はアルフが依頼人から受領して発行した依頼だから、よく分からんがな。はっはっはっ」

 かなり無責任な回答がかえってきて、この村のギルドは大丈夫なんだろうかと不安になるソーンだった。

 結局、クーマが折角なら儲かるやつにしようと言いだし、渋るソーンを押し切る形で、じゃあよろしくとギルド長が契約を発効してしまった。

 


「えーと、護衛とか大丈夫かな。いつも依頼とかって森で採集とかぐらいしか、したことないんだけど。迷惑じゃないかな・・・」


 ギルドを出て帰り道で、立ち止まっては、断りに行こうとするソーンであったが、

その度、クーマに人手不足と食費不足を解消するには打ってつけじゃからと説得されて気がついたら家に着いていた。

「まあ、なるようになるかな。今日はもう寝てしまおう・・・」


そういって、寝床について目を瞑った。

『うーん、ギルドのことを思い出した時点で、こうなる運命だったのかな、あの時の僕に気をつけてってアドバイスしてあげたかったね・・・』


 瞼を閉じて、眠りに向けてゆらぐ意識の中で、ひとり苦笑いをした。


いつも読んいただきありがとうございます。また読んでいただけると嬉しいです。

追記:誤字脱字を修正致しました。

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