第78話 かがり火
明かりに魅入られた虫のごとく。
それは、突然、夜の闇から飛び出してきた。
すでに隠す気もないのか、ガチャガチャと大きな音を立てながら、
鎧を纏った腕を森の木々の間からつきだして、必殺の矢を放つ。
火の前に屈んだように座っている女騎士めがけて飛来した矢が、
次の瞬間に、鉄に弾かれたような音と共にあらぬ方向へと飛んでいく。
マイによってあらかじめ仕掛けられていた不可視の盾の魔術により、無効化された矢の合図で、馬車の荷台からアルフとマイが姿を現す。
既に臨戦態勢のアイリも剣を抜きはなって駆けていく。
森から姿を現したのは、3体の全身鎧の襲撃者。
その内の1体目が、手にしたクロスボウに新たな矢をセットしようとするところへ、駆けつけたアイリが剣を振り下ろしクロスボウをはたき落とす。
そこへ割って入るように2体目の全身鎧が、手にした盾でアイリを剣ごと弾く。
姿勢を崩しながらもすかさず横へとびのくアイリの、元にいた場所に、巨大な戦斧が振り下ろされ地面に勢いよく刺さる。3体目の全身鎧は戦斧で武装しているようだ。
地面から引き抜いた斧を再度振り下ろそうとしたところで、
今度は、全身鎧のわき腹に衝撃がはしる、白と黒の尻尾をなびかせながら力強い拳が突き刺さる。
「ハッ、これはボクがもらっていくよ」
つづけざまに身をよじり、しなやかなフォームで風を切るような回し蹴りが全身鎧の肩口に炸裂し、たまらずよろけて膝をつく。
それを見て駆け寄ろうとする剣と盾で武装した全身鎧の前に、同じく剣を持った女騎士が立ち塞がる。
「あんたはこっちよ。何人も相手出来るような器用な奴には見えないけど?」
その間に、はたき落とされたクロスボウを拾おうとした1体目の全身鎧に、駆けつけたソーンが手にした棍棒を思いっきり叩きつける。
激しい音と衝撃で、全身鎧がよろけた隙に、地面のクロスボウを後ろから隙をうかがっていたミリアが飛び出して拾いあげる。
「危ないよ、ミリア!前にでちゃ駄目だよ」
幼なじみの勇ましい行動に驚いた様子でソーンが叫ぶ。
それには赤い髪を揺らしてミリアが叫んだ。
「それはソーンも同じでしょ、こっちは大丈夫だから前をみて」
みると、全身鎧が体勢を立て直して、目の前のソーンにつかみかかろうとしている。
すんでのところでソーンが身をひねって、すれ違いざまに棍棒で突き離すが、思ったほどの距離はとれていない。
少し離れた場所でクロスボウを放り投げたミリアが、戻ってきて目の前のソーンの攻防にハラハラしながら声をあげる。
「もう、ソーン。駄目、そんなんじゃ捕まっちゃう!」
叫びながらミリアは腰のあたりに備えているポーチの中を手で探るが、乱戦に有効なものはなさそうだ。
再び地面に戦斧が叩きつけられる音がする、獣人特有の素早い動きは完全に全身鎧の動きを上回っているようだが、それを気にする様子も無く、必殺の一撃を繰り出す相手に、獣人は戸惑っているようにも見える。
すぐ近くでは、剣を持った相手に盾を駆使して何度も打ち合う金属音が響く、こちらも手数では女騎士が有利に、鎧ごしだが斬撃が何度も打ち込まれている。ただその度に激しい反撃がかえってくるので、なかなか気が抜けない状況だ。
その間も何度も場所を入れ替わりながら、全身鎧がつかみかかろうするところをソーンが凌いでいたが、突然体当たりに切り替えた一撃を交わせずに、ソーンが鎧に正面からぶつかって吹っ飛んだ。
それを見ていたミリアが悲鳴をあげる。
「危ない、ソーン!」
「・・・くっ、しまった」
あわてて起きあがろうとしたソーが、迫ってくる全身鎧に対して棍棒をかざして受け止める。
力任せにのしかかるようにしてソーンに覆い被さってくる全身鎧の圧力をギリギリで支えながら、絞り出すようにしてソーンが声をあげる。
「・・・よしっ!今なら・・・ヒメお願い」
それを合図に、地面に倒れ込むソーンに釣られて、姿勢を崩した全身鎧の頭上からするすると糸を使って降りてきた白大蜘蛛が背後から抱きつく形で全身鎧を拘束した。
ギチギチと力がぶつかる鈍い音が聞こえるが、手足をガッシリとつかむ力が上回っているのか地面に押しつけられる形で、じたばたと、全身鎧がもがいている。
その力の衝突をうまく転がってかわしたソーンが肩で息をしながら、途切れ途切れに答える。
「・・・ふぅー。急遽・・・だったけど・・・上手く連携できたみたい、ありがとうヒメ。・・・さて、どうしよう。手足を縛れば大人しくしてくれるかな?」
ソーンの問いかけにも襲撃者の反応は無く、力一杯拘束から逃れようと地面の上でバタバタと抵抗している様子に、こちらに駆け寄ってくるミリアに向けて少しだけ困った顔を見せる。
手にした棍棒を杖代わりにし身体を預けて、大きく息を吸って深呼吸したことで落ち着つきを取り戻したソーンが、辺りを見渡すとそれぞれの場所で2組の戦闘が繰り広げられていた。
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