第77話 動くもの
パチパチと木が燃えて爆ぜる音が、暗闇の中で静かに響く、
遠くの方で獣の鳴き声と、木々がさざめく音が聞こえる。
目の前でゆらゆらと揺れる炎を見つめながら、
ソーンは不思議な高揚感を得ていた。
交代での火の番と見張りを行うということで、今はソーンとアルフの順番だ。アルフは座っていると眠くなるからと、定期的に広場の周囲を歩いて回っている。
ソーンはその間、火が消えないようにという理由をつけて、少しづつ薪をくべて時間をつぶしている。
あたりは完全に夜の闇の中だが、わずかな火の明かりと闇に慣れてきた目のおかげか、うっすらと見えている。
それでも以前であれば、夜を、闇をずっと恐れていたように思っていたのだが、ゆらめく炎とそれに照らされてより濃くなった闇が踊る様子がとても心地良く思える。
ふと目を瞑ると、まるで黒い水面が寄せては返すような不思議な感覚が内に生まれて、それが何なのか深く考えようとした時に、声がかかった。
『・・・ん。何か大きいのが3つこっちへくる・・・』
ヒメからの警告を得て、ソーンはハッとしたように立ち上がり、
少し離れた場所の木上の巣にいるヒメに訊ねる。
「それは、どのあたりから、皆を起こした方がいい?」
異変を察知したのか、アルフもすぐ側まで駆けてきた。
『・・・仕掛けた糸の感触から、まだ遠いところ・・・すぐにはこない』
それを聞いたソーンは、交代までの時間はまだあったが、調べたいこともあり、馬車の中で休んでいる、マイ達を起こして相談することにした。
___まずは現状を知るべきということで、まだ少し酔いが残っているのか寝ぼけているのか、ろれつがおかしいマイが答えた。
「ふぁ、そうね。丁度いいのがあるのれ。それで様子を探りましょう」
ふむふむといいながら、馬車から這いだしてきた、マイが身を起こすと、さっと右手で螺旋状の髪留めをなでたあと、さっきまではと違ってよく響く声で唱えた。
『風・歌・知・輪』
一瞬、マイを中心に無風になったかと思うと、すぐさま一陣の風が吹いた。それは木々を伝って森の中を駆け抜けていく。
それを見た木上の巣にいたヒメがそれを避けるように少し高いところの木へと跳び移ったりしている。
「・・・これは違う、これも数は居るけど獣ね・・・これかしら?」
ぶつぶつ呟くマイがそれらしき気配を見つけたのか声を出す。
「たしかに3つ、こちらから見ると先の街道から森へ少し入った位置に、何か動くものがいるようね。獣にしては反応が大きいけど、モンスターというほどでも無いような、人?のような反応ね」
それを聞いていたアイリが訊ねる。
「盗賊か、3人の他には居ないのか?」
つづけて集中したままマイが答える。
「・・・そう、近くは3人だけのようね。あまり遠くまでは分からないわ。ただ、さっきから場所は移動していないようよ・・・ここまでね」
そういうと、ふぅと息を吐いて、マイが訊ねる。
「さて、どうするリーダー」
___話し合った結果、夜の森の中を移動するのは危険だということで、ここで待機して様子をみることにした。
ただ、それが盗賊だとするならば、もう少しすると定番の時間帯になるので、十分に警戒しての待機だ。
火の番を完全武装のアイリと交代して、ソーンは馬車の御者台で身を屈めて、他の皆は馬車の中で、すぐに動ける準備をして時を待つことにした。
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