第76話 野営の準備
一時の休息の後、ひたすらに街道を進むと、
両脇の木々が鬱蒼と茂り森が濃くなってきていることを感じる。
そんな中でも街道は続いていることから、長年しっかりと整備されてきていたことが分かるが、逆にここしばらく封鎖されていたのが不思議なくらいだ。
「そろそろかな?」
御者台の中央で、少しでてきた風に灰色の外套をなびかせながら、ソーンが訊ねる。
それには同じく御者台の左側で退屈そうにしていた友人が、艶のある白と黒の両耳をぴくぴくさせながら答える。
「・・・たしか、正面に巨大な岩がでてきたら右にいくゾ」
___ほどなくして、言われたとおりに、目の前に巨大な岩山が出現したので、少し迂回するように作られた街道ではなく、右手側の未舗装道へと進んでいく。
比較的使われている道なのか、馬車の轍の後などもあり、それなりに道幅もあるので、すんなりと目的の場所へ到着できたが、それでも日が落ちてくる直前だった。
「えーと、じゃあ予定通り、今晩はここで野営をします。すぐに暗くなると思うので、食事の用意と夜の明かり用の薪を多めに集めてもらえますか」
到着したとたんに、あわただしく指示をするソーンだったが、ほぅと声をだして隣で感心する幼なじみの態度に、急になんだか照れてしまって、小声で続けて答える。
「・・・ミリアは食事の準備を手伝ってもらえるかな。鍋はこれと、水は流れの元から汲むからちょっと一緒に・・・」
それを聞いて、素早く鍋を拾いあげたミリアが答える。
「了解!リーダー。今日は定番の鍋料理ね」
道中、思ったより大人しかったのは、たまたまかなと思いながら、一緒に開けた場所の端へと移動すると、小さな池に流れ込んでいる水源が見えたのでそこで水を汲むことにした。
その間、アイリ達はあまり遠くない範囲で、森に入り薪を集める。
「・・・しばらく封鎖されてたのもあるのか、薪は拾い放題ね」
アイリがそう呟きながらすぐに必要な数が集まったので、野菜を洗ったりしているソーンに手伝いを申し出る。
同じくそうそうに用事がすんだアルフが停めてある馬車の横を何気なくみていた時に、気づいて思わず声をだしてしまった。
「・・・えっ。それってヒメがつくったのか」
声につられて、ソーン達も集まってきた。馬車の近くの隣合う木の上にいつの間にやら糸が張られてちょっとした巣のようなものが出来ていた。
寝心地を確認するようにその中心にいた白大蜘蛛は、声に反応するようにうなづいた後、ソーンの頭の中に答えた。
『・・・ん。ちょっと探索してきていい?』
あわてて、ソーンが答える。
「えーと、そうですね。食事は・・・大丈夫そうですし、すでに暗くなってて夜が近いので気をつけて。あんまり遅くなると心配なので・・・」
それには了解するように、うなづいた後、すっと近くの木に飛び移っていく。
『・・・ん。分かった。なるべく近くにいる・・・』
その様子をみていた暗くなってくると周りと溶け込んでいくような髪を揺らしながら、マイが呟いた。
「不思議ね、あれだけの巨体で木の上を渡れるって、何か仕掛けがあるのかしらね・・・」
その姿をみかけたソーンが近くに寄ってきて答える。
「あっマイ先生。えーと・・・それって2本も持ってますけど、見張りは交代ですから、そんなに飲んだら駄目だと思いますよ」
闇にまぎれて食事中にこっそり飲もうと運んできていたお酒を、優秀な生徒に指摘されて渋々1本を馬車へ戻しにいく途中で、ふよふよと浮かぶ茶色い毛玉に遭遇した。
「ほう、聞き分けがいいのう。まあソーンの言葉には逆らえんじゃろうがのう」
茶色の縞のある尻尾を揺らして答える毛玉に、普段はみせない鋭い目つきでマイが答える。
「そうね。まあ可愛い生徒のアドバイスに答えてあげてるだけよ。貴方もそろそろ散歩にでかけたいんじゃないの。夜の闇が好きなんでしょ」
それには嬉しそうにふさふさした尻尾をゆらして答える。
「ほうほう、それはそれは気がきく台詞じゃ、お言葉に甘えてお出かけしようかのう。今日も楽しい夜になりそうじゃ」
そう言って、夜空にふよふよと消えていく姿を、きつく歯をくいしばりながら見送ったマイは、腹いせにクーマが馬車の荷台に隠していたリンゴをいくつか頂戴して夕食時に皆に配るのだった。
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