第75話 休息地
___整備された石畳の道を軽快に馬車が駆けていく。
チャカチャカチャカと独特のリズムにのって聞こえるその音は、
長く聞いていると心地よい子守歌のようだ。
時々あらわれる分かれ道をひたすらに真っ直ぐ進むように伝えていると、優秀な馬車の引き手には、次第に道を聞かれることも無く順調な旅がつづいていた。
のどかな景色に誘われるように、灰色の外套をうつらうつらと揺らしていると、左腕を掴んで離さない友人が思い出したように答えた。
「ソーン、そういえば、そろそろ休憩するには丁度いい開けた場所にでるはずだゾ」
それにつられて同じように右腕を掴んでいた赤毛の幼なじみが答える。
「そうね、いいんじゃない。だいぶん進んだし、ヒメにも休憩してもらいましょうよ」
的確な意見にもっともだと思いながら、いっそリーダーも代わってもらおうかなとチラリと右側に座ったしっかり者に視線をかけると、それは駄目って顔で返されたので、振り返って馬車の中の皆に声をかける。
「えーと、そろそろ休憩をしたいと思います、広場にでたら停まりますので、支度をお願いします」
ほどなくして、それらしく道が大きく開けた場所に辿りついた。
街道はまだまだつづくようなので、ここで一旦の休憩だ。
何度か話すうちに、白大蜘蛛を皆が愛称で呼び出したがとくに嫌がる様子でもなかったので、ソーンも同じくそう呼ぶことにした。
「ヒメ。そこの広場で停まってもらえるかな。休憩しよう、お疲れさま」
『・・・ん、分かった。あっちに停メル』
そう答えた後、ゆっくりと速度を落としながら、広場の端の方へと移動して馬車をとめる。
馬車の荷台から、アイリとマイも降りてきて、背筋を伸ばしている。
御者台から降りた、ソーンは、すっと前へと回り込んで、ここまで馬車を引いてくれたことに感謝の言葉を述べる。
「ありがとう、ヒメ。凄く順調だよ。休憩にあわせて食事にしようと思うんだけど、君の分はやっぱりアレになるのかな?」
それには、コクンとうなづくようにした後、白大蜘蛛は身を乗り出して、馬車の天板の手すりに糸で取り付けていた鉄の塊をはずしだした。
馬車の周りに各自散らばって、持参した食事をひろげる。
ソーンが持ってきたのは、簡単な携行食だったが、パンに挟んだ野菜達がまだ新鮮な状態だったのと、思った以上にお腹が空いていたのかすぐに平らげてしまった。
その様子をみていた、ミリアが同じく持ってきていたパンを半分にしてソーンに差し出した。
「半分食べてもらえる?ちょっと馬車に酔ったのか、あんまり食べれそうにないの」
そう言われて、心配そうにソーンがミリアの顔をのぞくと、朝いっぱい食べ過ぎたのも原因かもと笑って返事をするので、ありがたく頂戴することにした。
そんな食事の間、皆の関心が集まったのは新しく仲間に加わったヒメの食事風景で、丸くなった鉄の塊をベリベリと野菜の皮をむくように大顎ではがしながら口の中に破片を放り込んでいく。
バリボリと鈍い音がかすかに聞こえるので、きっとかみ砕いてるのだろうがその顎の強さに皆、戦々恐々だ。
ほどなくしてアイリとアルフがソーンの近くにやってきたので、この後の予定を確認することにした。
はじめに、休憩中もずっと寝たままのもふもふした毛玉を抱えてアイリがたずねる。
「この進度だと、どこで野営になるかしら。さっきから馬車とすれ違うことがないのは、まだ街道封鎖が解かれたことが知れ渡ってないからかしらね」
それには、アイリが抱えたもふもふのお腹を真剣な顔でつつきながらアルフが答える。
「そうだナ、本来なら商隊とすれ違ってるくらいの通行量のハズだ。まあ気楽に進めていいけどネ。たしか野営するのにいい場所がしばらくいったところにあるからそこまで案内するゾ」
つづけてソーンが答える。
「うん、早めに野営の準備にはいれるところにしよう。ヒメにも初日からあんまり無理させるのも悪い気がするし、元気そうだったら約束の探索もさせてあげたいしね」
方針が決まったので、少し離れた場所で休んでいたマイにも説明すると、リーダーが決めたことなら異論は無いわと同意を得た。
皆が話をしている間に、半分くらいになった鉄の塊を器用に元の場所へと取り付けたヒメが戻ってきたので、再び出発することにした。
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