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第71話 交渉

 白いベールが何層にも垂れ下がり、所々、鉄製の鎧や盾も糸でぐるぐる巻きにされて吊されているのは、何か芸術的なオブジェのようにも見えなくもないかもと、ソーンは心の中で呟きながら奥へと進んでいく。


 その間も、先頭を行く白い蜘蛛の後につづけて進むソーン達を遠巻きに、少し距離を離してついてくる蜘蛛の数が膨大な数になっていることは、あまり考え無いようにした。



___時折、ベールをかき分けて黒い姿をみせた蜘蛛達がガチガチと牙を打ち鳴らして音を立てるが、その度に、白蜘蛛が動きを停めると、慌てて遠ざかっていく。


 そんなやり取りを何度か繰り返しながら、


 しばらく進むと、白いベールで大部分を包まれているが、

 半分燃えて灰になっている比較的大きな木が見えてきた。


 開けた広場のようだが、

 雲がかかっているのか少し薄暗い。


 その景色を見つけたソーンが、

 振り返ってすぐ後ろにいたアイリと目をあわせると

 何やら思い出したのかお互い苦笑いをしている。


 その様子をアルフとミリアは何だかちょっと羨ましそうに

 見ていると、ソーンが答えた。


「そうですね、そろそろ谷の壁が見えてくるはずなんですが・・・」


 少し先を進んでいた白蜘蛛が広場の真ん中あたりで歩みをとめた。



 たどりついた広場は、地面がところどころむき出しで土が見えたりしているが、ベールが垂れ下がり、あたり一面、白く染まった壁のようだ。


 すると、正面の白いベールに動きがあった。


 何層もあったベールが次々に裂けるように左右に分かれて、

 まるで扉が開くように視界が開けていく。



___その間、白い蜘蛛は、じっと何かを待っているのか広場の中央でとまったままだ。


 その姿を見つめていたソーン達は、そろそろと何かに気づいたように視線を上へとあげていく。



___白いベールが開いた正面の壁に、

 とてつもなく巨大な黒い影が差している。


 そのまま見上げるように上を向いたソーン達は、

 目を見開いたまま動きを停めた。


 以前であれば空が見えていたところに、びっしりと糸が張られていて、

 そこに今まで見たことないぐらいに巨大な黒い塊が空を覆っていた。


 

 あまりの景色に、思わず声をあげそうになった赤髪の少女が、手で必死に口を抑えて、あらためて空を見上げて心の中で叫んだ。

『こ、ここまで巨大だったの、ソーン大丈夫なの・・・』


すると大きく息を吐き出した後、決心がついたのかソーンが声をあげた。


「再びお会いすることができて光栄です。僕の想像を遙かに超えていて、今驚愕しています。白き谷のぬし様。話をお聞きいただけますでしょうか」



___ソーンの声があたりに響く。

ひと呼吸置いたあと、ソーン達の頭上から

巨大な牙を勢いよく打ちつける破砕音が耳に鳴り響いた。



 それを合図にするかのように、ソーン達の左右の頭上から2体の大型の蜘蛛がソーン達めがけて落下してきた。



それにいち早く反応を見せて、ソーンの後ろから声がした。

 

「気の早い蜘蛛達ダ、コレはボクの出番ダナ」


 白い胴着をなびかせながら跳ねるように飛び出した獣人アルフが落下してくる蜘蛛の1体を右足で蹴り上げる。

 身を捻ってそのまま地面に叩きつけるとバウンドしながら蜘蛛が転がっていく。


 同じく、ソーンを庇うように盾を構えた女騎士アイリが覆い被さってきた蜘蛛に勢いよく盾を中心に身体ごとぶつけると、ゴッと鈍い音と共に蜘蛛が吹っ飛んでいった。

「意外とね、あれから鍛えてるんだからね」


 その様子を目を丸くしてミリアとマイが見ている。


 起きあがった蜘蛛が再度飛びかかろうとしたところで、

 今度は広場の中央でこちらを振り返った白蜘蛛が大きく牙を鳴らした。

 途端に、蜘蛛達の動きがとまる。


 するとソーン達の頭の中に、どこからか突然声が聞こえてきた。


『ほう、意外に気に入っておったのか。なればもうよいわ』


 その間にソーン達の側へ白蜘蛛が近づいてきたので、

 動きを見守っていると、ソーン達の目の前で突然、そのまま振り向いて頭上を見上げて、あろうことか運んできていた鉱石を頭上の谷のぬしめがけて投げつけた。


『はっ、そう怒るな。そなたに免じて話ぐらいは聞いてやってもよいぞ』


 頭の中で響く声がそう答えたと思うと、 

飛んでくる鉱石を、谷の主は器用に牙でキャッチした。



それを見たソーンが不思議に思いながらも声にだして質問する。


「えーと、何かの試験は合格ということで良かったですか?そろそろ話を聞いてもらえそうでしょうか」


 意外とソーンも負けず嫌いなのか、先ほどの口調から少し語気が荒い気がしたが、この状況に少し慣れてきたミリアもそれは仕方ないのかもと思ってしまった。


 すると、一瞬の間のあと、今度はソーン達の目の前に山のような黒い塊が頭上から振ってきた。


 衝撃で足が地面から浮かびあがり、姿勢がくずれそうになる。

ソーンは手に持っていた松明を杖がわりになんとかもちこたえた。

ミリアとマイはそれぞれ、アルフとアイリが咄嗟に手で支えたので大丈夫そうだ。


 目の前に降りてきた山のように巨大な谷の主がソーンに話だした。


『お前は見覚えがあるな、そっちの鎧の女もそうだ、後で食おうと思っておったら逃げた奴だな、なかなか良さそうな鎧だったから覚えておるぞ』


それにはアイリが答える。

「その説は、お世話に。大事な鎧だから残念ですがあげられないんです」


つづけてソーンが答える。

「それで、今、主様が持たれている鉱石ですが、これについて話をさせてもらってもよいですか。あと、それは今回の手土産ですので、どうぞお納めください」


『ミスリル鉱石か、たしかに我が欲していたものではあるが、何を企んでおるのだ、小さき者よ』



___はじめはどうなることかと思ったソーン達だったが、案外機嫌は悪くないのか・・・果敢に話しかけてくる者が珍しいのか、谷の主が話を聞いてくれるようだ。


 さっきからソーン達の側にいる白蜘蛛もイライラとしていたのか何度も打ち鳴らしていた牙の動きをとめたので、同じく話しを聞くようだ。



 そんな中、ソーンは内心では心臓がはげしく鼓動して声が震えそうだった。

 

『ここからが、正念場だ、僕に巧く伝えることができるかな・・・』


 ぎゅっと歯を食いしばり、震えがとまるように念じていたが、

なかなか巧くいかない。


 するといつの間にか隣にきたミリアとアルフが、静かにソーンの背中に手をそえていることに気づいた。


___ソーンは、大きく息を吐く。なんとか心が落ちついたので、話し始めた。


いつも読んでくださりありがとうございます。続きも読んで頂けると嬉しいです。

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