第64話 凱旋
村外れの林の中に続く道を、白いローブに赤とオレンジの模様が踊るように跳ねている。
辺りはだいぶ日が落ちてきていたが、通り慣れているのか颯爽と駆け抜ける。
白いローブがはだけた頭の部分から赤い髪がサラサラと流れて、急いだせいか、呼吸が大きく乱れていた。
目的の建物についたときには、肩で大きく息をしていたが、このところ真っ暗だった窓に明かりがついている。
大きく深呼吸して息を整えたところで、玄関の扉を勢いよく開いた。
「ソーン!帰ってきたんだ」
きらきらと大きな瞳を輝かせながら、赤い髪の少女が嬉しそうな声をあげて玄関に姿をみせる。
「あら、ミリアさんお久しぶりね」
そこに流れるような金色の髪を解いて、テーブルに座って黒い前あわせのラフな格好でくつろいでいるアイリが手をひらひらさせながら答えた。
つづけて、少し驚いた顔をしている赤毛の少女に、すみれ色の髪を耳元で鮮やかな飾り紐で束ねた、こちらは黒い少し薄手の透ける感じの羽織を着た女性が、手にした水差しから陶器のコップに水を移すところで、手をとめて声をかけた。
「どうしたの、お嬢さんそんなに慌てて」
そう言われてから、気づいたように慌てて乱れた髪を手で押さえながら、きょろきょろと室内を見回す幼なじみに気づいたのか、水桶を一緒に運んできていたアルフとソーンが奥の方から駆けてきた。
「久しぶり、ミリア。いつも通り元気ダナ」
こちらもいつもの黒いベストは脱いで、白い胴着から白と黒の艶やかな毛並みが動きにあわせて綺麗に明かりを反射している友人がミリアの手を引いて、室内へと導いた。
遅れて水桶をいつもの位置に置いた後、旅の間着ていた灰色の外套は入り口のところにかけていたので、今は薄い緑色の服を着たソーンが駆け寄ってきて答える。
「ただいま、ミリア。元気?そうだね、よかった」
そう言い終わるかどうかで、赤毛の幼なじみが、勢いよく銀色の髪の少年に抱きついてきた。
あわてて抱きとめるソーンに、ミリアが声をかける。
「今度帰ってきたらまずは教会に来てっていったよね」
すこし頬をふくらませながら、怒っているのか紅潮した顔でじっとソーンの目をみて、ミリアがそう言った。
その勢いにたじたじになりながら、ソーンが答える。
「えーと、そうだっけ?・・・そうだ、ミリアありがとう。時々部屋の掃除もしてくれてたんだよね」
そう言うと、テーブルの上にのった花を指さして、にっこりと笑顔で、ミリアの目を見つめ返す。
思いの外、その距離が近いことを今頃気づいたミリアが、さっと離れて、懐から出来たばかり薬瓶をテーブルに並べながら、答えた。
「そうね。薬草を採取するついでにここに寄ってたから、後、布団とかも時々干しておいたから、それと採取ルートの地図も更新しておいたから安心してよね」
そうなんだ、ありがとうミリアと、再びお礼を伝えるソーンに、今度はちょっと照れくさそうに横を向いているミリアだったが、鋭い目線が、テーブルの席についている見慣れない女性をとらえてソーンに訊ねる。
「それで、ソーン。あの女の人は誰かな?どういった関係なの」
ん?という顔をしたあとソーンが答える。
「そうだミリアには紹介がまだだったね。今度から魔術を教えてくれる、学者のマイさんだよ。遺跡とかにも詳しいから色々教えてもらうんだ」
紹介されたマイがすっと立ち上がってお辞儀をする。
それにあわせて艶のある髪がするりと肩口から流れた、顔をおこしながら片手で軽くすくうようにして後ろへ髪を流すと、明かりを反射してか紫色の光が流れていくかのようだ。
「よろしくね。ミリアさん。ソーン君に魔術を教えることになりました・・・そうね、クーマちゃんから依頼されてね。色々教えてあげる予定よ」
何か含みをもった言い方で、優しく微笑むマイだったが、ミリアの反応をみて何やら嬉しそうだ。
きょとんとしているソーンの横で、ミリアが激しく何かを探しているがほどなくして見つけたようで、震えるように答えた。
「こちらこそよろしくですマイさん。・・・そう、なるほどね。またクーマね。・・・ちょっとお話してこようかな」
そう言うと、階段をすっと人知れず移動していったクーマの後を追って、ミリアが駆けていく。
そのとき思い出したように、ソーンがミリアに声をかける。
「そうだ、ちょっとまってミリア。忘れるところだったよ」
入り口の側に置いていた旅の間担いでいた荷物から、何かを探しだしたソーンがようやく見つかったのか、赤いリボンで結ばれた小さな袋を取り出した。
「これ、ミリアへのお土産だよ。中を見てみて、どうかな?」
すっと差し出された袋を受け取って、言われるままに袋を開いたミリアが中身を取り出した。
銀色の小さな宝石がついたチョーカーが明かりの中で輝いている。
「えっ、あっ・・・ありがとうソーン。大事にするね」
もう一度、銀色の宝石を眺めたあとに、首にチョーカーを着けながらミリアがソーンに答える。
ミリアが喜んでくれたみたいで、ほっとした顔をした後、ソーンがつづけて答える。
「そうそう、僕のこの赤いチョーカーと、どことなく同じように見えないかな」
そう言って、首元をはだけながら、ミリアが着けたチョーカーと見比べるようにソーンが訊ねる。
「そう、そうね。よく似てると思う。・・・うん」
あわてて、答えながら顔を赤らめてミリアが頷くが、最後の方は、なんだか、声が震えているようだった。
不思議そうな顔でソーンがそれを見ていたが、荷物を探しているときに取り出した、黒い瓶をみて、ハッと気づいたように声をあげた。
「そうだ、燃料を買い足したんだった。今日は久々にお風呂を沸かしますね。これで旅の疲れもとれるよ、ミリアもクーマに会ったら伝えておいてね。喜ぶよ」
___早速、釜の状態を見に行くソーンを見送りながら、アイリが嬉しそうに席を立つと、マイも珍しそうにお風呂あるんだと感心している。
「なっ、お風呂って、あっ、あたしも入る。ちょっと準備してくるから。アイリさんソーンに伝えておいて」
そう言うと、急いで来た道を帰っていくミリアを、見送るアイリ。
成り行きをじっとみていたマイも心の中で小さく呟く。
『そう、なるほどね。なかなか楽しそうじゃない、ソーン君も隅に置けないな』
___その日の夜、だいぶ記憶も薄れてきたのか、安心した夜を過ごしてきたところに、あれを目撃してしまったと翌朝、家族に証言していた。
それは、微かな月明かりの夜空に黒い翼を広げて黒々と飛び立っていった。
ただ、前のように暗い鳴き声は聞こえず、心なし機嫌良く飛んでいるようだったので、引き続きぐっすり眠ることができて良かったということだ。
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