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第63話 魔術

「えーと、反省はしているってことで・・・いいですよね」


 目の端にうっすらと滲んだ後がみえる。

ちょっとトラウマになるんではと思うくらいに説教された、まだ幼い少年ソーンは、時折先ほどの出来事を思い出したのかびくっと体を震わせながら、岩に座ったままじっとこちらを見ている学者マイに告げた。


 それを聞いて少し考えた後、マイが答えた。

「そうね・・・少し早まってしまったみたい、ごめんなさい。貴方のことをもっと知っていれば、先に相談できたかもしれないわね」

 そう言うと立ち上がり、伏せ目がちな銀色の髪の少年ソーンの側にきて、頭を下げた。


 それを受けてソーンが答える。

「はいっ、分かってくれてたらいいんです。それで、この後の予定を相談したくて・・・あっ、頭を上げてください」

 

 傍らで、ずっと頭を下げたままのマイに、あわてて手を差し伸べながらソーンが答える。

 

 その手にすっと自分の手を添え、すみれ色をした髪が肩口を流れるようにして顔をあげたマイが、少しソーンの体を引き寄せる。


 あっと、小さく声をあげた後、ソーンが体勢を崩してマイにもたれ掛かった。ちょうどマイの口元付近にソーンの頭がくる形だ。


 囁くようにマイが答えた。

「そうね。優しいソーン君なら、色々と相談してもいいかな」


 その刹那、鋭い殺気が、二人の和やかな雰囲気で触れていた手の上に重なってきた。


 音もなく獣人特有のしなやかな足取りで忍び寄ってきていた、友人アルフがソーンの耳元で呟く。


「オイっ、この後の予定を決めるって話だったよなソーン」


 続けてソーンの両脇に突然、手が差し込まれ、両足が宙に浮いたかと思うと、マイから引きはがすように強制的に移動された。


 それを見て、あらあらとマイが声をあげるが、次の声を聞いて黙る。


「ソーン君がどうしてもと言うから、今回の件は黙っててあげるけど、調子にのってると痛い目をみますからね。あたし達はソーン君ほど優しくないんだから」

 様子を見ていた女騎士アイリが真剣な顔でそう告げる。


 ___静かな、にらみ合いがつづく現場の雰囲気に耐えられなくなったのか、ソーンが話し出した。


「・・・それで、マイさんも反省しているみたいだし、良かったら一緒に僕の村に来ませんか、遺跡の件も詳しく聞きたいし、学者さんのお仕事にも興味あるし・・・」


 それにマイが答える。

「ありがとうソーン君。たしか貴方の村にも学者が来てたそうね、それは私も興味があるわ、それとは別に私もソーン君に用事があるの」


 それを聞いた、アルフがソーンを庇うように抱きしめた後、マイを睨みつける。


 少し困った顔をした後、マイが頭を下げて答える。

「ごめんなさいね。そう言った用事では無いから安心して。魔術をソーン君に教えてあげたいの」


 するとソーンが興味深そうに答えた。

「えっ、魔術を教えてくれるんですか。でもどうして急に?」


 それには、ソーンの頭上から、急に現れた声が答えた。

「ふむ、ワシがマイに頼んだからじゃな、ソーンも魔術には興味があるじゃろ」

 ふさふさした尻尾がくるりとソーンの首元に降りてきて、そのまま頭にのっかると茶色の毛玉クーマがいつもの定位置に収まった。


 じっと話を聞いていたアイリが声をあげた。

「たしかに魔術は便利だと思うけど、別にマイに教わらなくても、いいんじゃない、・・・正直、貴方はちょっと信用できないわ」


 それを聞いて、マイが答える。

「あらっ、心配性なのね。でもね、貴方達はもうちょっと魔力の流れを理解するべきだと思うわ、特にアイリ。貴方は魔力の消費が凄いわよ」


 何を言っているの?という顔をするアイリに、マイが説明する。


「今から、1つの魔術を唱えるわ、それで貴方も理解すると思う」


 少し警戒気味のアイリだったが、マイの真剣な顔に免じて様子を見ることにした。


ラーエーソーセーム

 

 マイの広げた両手から光の壁のようなものが現れて、アイリに向かって進んでいく、アイリの全身がその壁を抜けた後、すっと光がアイリに吸収されるように消えた。


「どうかしら?何か違いを感じるでしょ」

 マイにそう言われて、光が吸い込まれた後の身体を見回しながら、少し手を動かした後に、何かに気づいたのかアイリが叫んだ。


「凄い、身体の重さが無くなったみたいに軽いわ、それに変な疲れも消えたような・・・どうなってるの」


 続けてマイが答える。

「そう、それは良かったわ。貴方は無自覚に魔力を放出していたの。修行でそういうことをする場合もあるけど、そうでも無いみたいだったから一時的に魔術で停めてみたわ。自分でコントロールも出来るようになるのが一番かと思うけどね」


 それを聞いてアイリが答える。

「たしかに・・・これは理解したわ。ごめんなさい、色々と疑って。ソーン君に教える合間で、あたしにも教えてくれないかな」

 頭を下げるアイリに、マイが頷いた。


 そのやりとりをじっと見ていたアルフが、両耳を水平に尖らせて、黒と白が混ざった艶やかな毛並みの尻尾をぶんぶんと振りながら訊ねる。


「その、ボクはどうかな?魔力を使いこなすと、もっと強くなれるダロ」


 期待の眼差しが激しい獣人アルフを横目に、マイが答える。

「そう・・・そうね。あーっ、貴方は既に魔力はコントロールできてそうだし、とくに私から教えることは無いかな・・・魔術には適性もあるし」


 それを聞いたアルフが残念そうだが、何か満足したように答える。

「そうか・・・ボクは魔力での操作もしたことあるしナ、教えること無いなら、まあ仕方無いナ」


 ちなみに、最後の方はマイが小声だったので、アルフには聞こえてなかったようだ。



___まずは、一旦、ソーン達の村に戻るということで話がついたので各自で荷物をまとめて旅の再開へ向けて準備をする。


 

それぞれに思いを馳せて、

久々の休息と、新たな期待を込めて、


ソーン達はナルサ湖の広場から村を目指して出発した。


いつも読んでくださりありがとうございます。続きも読んで頂けると嬉しいです。

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