第62話 揺れる旅路
つんつんと、鼻先をくすぐる毛先に触れて、
淡い意識の中、うっすらと目を開ける。
白と黒が混じった後ろ髪が目の前でゆらゆらと動いている。
銀色の髪の少年は、朧気な意識のまま呟くように答えた。
「おはよう。皆はどこに?」
それを背中で聞いた、アルフは肩越しに少し振り返り、
友人の元気そうな姿に安堵したのか答えた。
「ん、アイリ達なら少し前を歩いてるゾ、とりあえず港近くの広場まで移動しようか」
時折、ナルサ湖から吹いてくる冷たい風が、晴れた陽気で火照る身体に丁度いい清涼剤になる。いつの間にか日も高くあがって、そろそろお腹が空く頃だ。
見慣れた広場に到着すると、先に、騎士見習いのアイリが、2人分の荷物を地面に降ろして、一息ついていた。
隣といっても少し離れた場所には、すみれ色の髪をした学者風の格好のマイが同じく荷物を降ろして、こっちをみている。
それに気づいたのかどうなのか、
友人に背負われていたソーンは、ハッとしたように、
アルフの肩をとんとんと軽く叩いて答えた。
「アルフありがとう。もう歩けそうだから、降ろしてくれて大丈夫だよ」
それを聞いたアルフが答える。
「ん、そうか、遠慮いらないゾ、もう少しで着くから、落ちないように首に手を回してつかまってくれると楽だゾ」
そう言われたソーンは新たな提案に悩んだ末、そっとアルフの首元に手を回して、ギュッと抱きついた。
顔にふわっとした黒と白の毛先が触れる。
その後、右手をはなし、ぐっーと伸ばして、アルフの頭に触れる。
「ん、何だソーン。頭なでてるのか、んっ。それいいゾ」
そのまま広場に到着した後も、アルフがソーンを背中から降ろさずに、ぼーっと立っているので、ソーンが慌てて降ろしてくれるようにお願いした。
___いろいろと聞きたそうな、ソーンを制してまずは、食事にしましょうということで。
少し遅れての昼ご飯の準備を始めたソーン達は、慣れた様子で、食材を荷物から取り出して、手頃な岩に敷いた布の上に並べていく。
パンに野菜と肉を挟んだものだが、夜通し活動したせいか、質素な食事でもやたらと美味しく感じた。
ひとしきり食事を終えたところで、アルフが口火を切った。
「それで、この悪徳学者もどきは、どうするんだ?村に詰め所は無いからギルド経由で手配するのか」
マイを指さし、鋭い目つきで睨みながらアルフが言った。
それを受けてマイが答える。
「ちょっと、心外ね!もどきじゃなくてちゃんと学者ですぅ。それに私何も悪いことしてないし、むしろ貴方たち同様に被害者だし」
すかさずアルフが答える。
「なっ!魔物除けとかいって薬で皆を眠らせておいて、どの口がそれを言うのか。あの遺跡で何がしたかったのか知らないけど、ソーンも巻き込んで、ボクは怒ってるんだからナ」
すると少し申し訳なさそうにマイが答える。
「それは、そういう効果もあるって聞いたことあるけど、私がいつも使ってて問題なかったから大丈夫かなって。ソーン君にはちょっと申し訳なかったけど・・・」
それを聞いて、じっとやりとりを見ていたアイリが話だした。
「それで、ずっと疑問だったのだけれど、あの遺跡は一体なんなの?あのときクーマちゃんに呼ばれて、ソーン君と倒れてる貴方を担いで脱出した後、遺跡は元に戻ってしまってそれっきりだし」
それにはマイも分かる範囲で答えた。
「・・・遺跡は何をトリガーにしたのか分からないけど、動きだしたの。
奥の部屋へ運ばれて、何だろう、儀式?のようなものが行われようとしていたけど、途中で止まってしまったのか、それっきりであの状態だった。私もそこで気を失ったから正直よく分からないわ。もう一度動かそうにも祭壇も反応しないし・・・遺跡の魔力が切れたようにも思えるわね」
つづけてアイリが質問する。
「・・・正直に答えてくれると助かるのだけど、何故ソーン君だけが、台座にのせられていて、貴方が床で倒れていたの?遺跡に運ばれてって、それは違うんじゃない?貴方は大事なことを隠してる。信用できないわ」
その言葉を聞いて、うつむき加減でマイが呟いた。
「それは、・・・私もよく覚えてないの。でも、もしかしたらという気持ちはあった。以前にソーン君達に遺跡で会ったときに、祭壇に新しい動作が見られた、その時は何か分からなかったけど・・・」
それを聞いたアルフが答えた。
「それで、護衛と偽って、ボク達を遺跡に連れていったのか?何が起こるか分からないのに・・・皆を騙して」
堪えきれなくなったのか突然マイが叫んだ。
「仕方ないじゃない!もう、後が無いんだ。私は早く、成果をださないと、いけないの。未発見の遺跡内部とか最後のチャンスと思ったんだから。説明してなかったのは悪かったけど・・・私にもチャンスをくれてもいいじゃない!」
最後の方は誰に言っているのか分からないくらいに、吐き捨てるように言ったあと、マイはうつむいたままだ。
重い空気が場に流れる、これ以上聞くことはないと、アルフとアイリが目線をあわせてうなずいた。
すると、ソーンが不思議そうに訊ねてきた。
「えーと、それで、遺跡の調査の再開はいつにするんですか?」
飛び跳ねるように、アルフとアイリが立ち上がって、同時に叫んだ。
「何言ってるのソーン!」
怒りが瞬間的に頭にのぼってきたのか、流石のアルフもソーンに詰め寄りながら吠える。
「あっー!ソーンもしかして、ずっと寝てたから、ボク達が大変だったこと知らないんだロ」
申し訳なさそうに首をかしげてソーンが答える。
「・・・そうかも、でも無事だったし、また準備して遺跡調査再開とかどうかな?今度は起きたままで見てみたいし」
それには、隣まできたアイリが吠えた。
「ちょっ!なにそれ!お祭りを寝過ごしたんじゃ無いんだからね、ソーン君分かってるの、貴方が一番危険だったかもしれないんだから」
いつも優しいアイリさんの剣幕に、流石のソーンもたじたじで、いつの間にか後ろに来ていた茶色の尻尾を掴んで助けを求めた。
「あわわわ、クーマ。どうしよう、なんだか皆、機嫌が悪いみたい」
それを逃さず聞いた獣人と女騎士は、ソーンを両脇から抱えるようにして、岩影に引きずっていった。
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