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第58話 起動

 淡く光る天井、辺り一面真っ白で、曲線により構成された壁と天井から、広場の中央に向かって、円錐状の柱が無数に伸びている。

 その棘のような柱が集中する先に、ひっそりと、ガラスのようなもので出来た透明の台座が鎮座していた。


 その台座の上に、銀色の髪の少年ソーンが気を失っているのか、静かに横たわっている。



___遺跡の地下、かなりの距離を進んだ先にある円形の広場に隣接するように作られた部屋から、隠しきれない気持ちの高ぶりをのせた声が聞こえる。


「そう、これだけの規模の遺跡が未発見とは・・・いいわ、とてもいい」


 部屋からは本来壁がある位置に、どういう仕組みなのか、まるで透けているかのように広場が見える。その部屋の中はただそこに空間があるだけといった簡素なものだったが、広場に隣接する壁際に四角い形の台が床から生えているかのように一体となって作られていた。


 そこに、腰の高さほどの台を前にして、一人の女性が、食い入るようにして広場の中央と手元の台を交互にみながら、先ほどから呟いていた。

「・・・やはり、学院で動いているものに近い。・・・であれば、これで起動できるはず」

 

 上擦った声で、的確に目の前の台に浮き上がった模様に触れる。

「そう、そう。いける。・・・これで私も・・・」


 すると、音もなく広場の無数にある棘のような柱の先から赤い光が点滅しながら、台座の上の少年ソーンを照らし出した。

 その動き出した様子を、無意識に髪留めの紐にふれながら学者と名乗ったときには見せなかった表情ですみれ色の髪の女性マイは微笑んだ。


___続けて、台に浮かんだ映像に一瞬、動きを止めた後、

赤い色の模様に触れながらマイが呟いた。


「もう少しなの・・・邪魔しないで」

 台座の上を照らしている赤い光がひとつづつ点滅をやめて青い光へと変わっていく。それをマイは、瞬きを忘れたかのように目を見開いて見つめていた。





___螺旋階段を駆け下りると、中央の祭壇から続くように開いた通路の入り口が見えた。


 アルフとアイリは、その異質な雰囲気に一瞬戸惑いをみせたが、すぐに気を取り直して飛び込んだ。


 遺跡の真っ白な石の壁を丸く切り抜いたように続く通路は淡く光を放ち、緩やかに下へと伸びている。

 

「なんなんダ、コレは。アイリは知ってるカ?」

円形の通路を走りながらアルフがアイリに訊ねる。


「さあ、遺跡に詳しくは無いけど、光ってるのは魔法か何かじゃないの、どういう作りかはまったく想像できないわね」


そう答えているところで、通路の光が赤い点滅に変わった。


 すると、通路の壁が何カ所も開いて、中から、人の頭ほどある、黒光りする丸い石とその下に円錐で、腕のような長い棒が生えたものが組み合わさった物体がふよふよと浮いて出てきて、通路を塞いだ。


「なるほど、これがクーマちゃんの言ってた動く石像ゴーレムって奴ね」

 腰の剣に手をかけながら、アイリがアルフに声をかける。


「この手の奴には、剣は利きづらいゾ、似たようなのはギルド長の訓練で、相手したことあるからボクにまかせろ、アイリは状況をみて指示を」


 走りながら、背負っていた槍をアイリに渡して、両手を低く構えたアルフが、ギリギリときつく歯を食いしばる。すると、白と黒のいつもは柔らかくなびいている毛が逆立ち、目つきも鋭く、口元からは牙が見える。

「手加減はしないゾ!ソーンを勝手に連れていったのが悪いんだからナ」


 そう叫ぶと、踏み出した右足に、体重をのせて、手近なゴーレムに、きつく握りしめた右手を正面からぶつける。

 丁度、丸い顔のような部分の石に直撃したと思うと、その衝撃をもろに受けた部分が木っ端微塵に粉砕され、後ろのゴーレムを巻き込みながら吹っ飛んでいく。

 それを見届けることなく、振り抜いた右手の勢いで体をひねりながら、左足が地を離れて、おもむろに近づいてきていたゴーレムに回し蹴りを炸裂させた。

 こちらも受け止めようとした腕の部分をへし折りながら、後方へと吹っ飛んでいくゴーレムに、ドミノ倒しのように次々と押し倒されていく。


「ハッ、ちょっと爽快ダ!どんどんいくゾ、アイリは間違えて殴っちゃうから離れてろヨ」


 盾と槍を構えて様子を伺っていたアイリが、真剣な顔つきで答えた。


「丸い部分が割れた奴は、起きあがってこないわ。この勢いで通路の奥まで一気に行きましょう。倒れただけの奴のとどめは任せて」

 そう言うと、手にした槍を振りかぶると、倒れた石像の顔の部分を狙って振り下ろす。

 

「なんにせよ、急ぎましょう。ソーン君達が心配だわ」

 うなづきながらアルフが走り出し、それにアイリもつづいた。


 足下に散らばった石像を不安そうに見つめながら、

『クーマちゃん、お願い。ソーン君達を助けて』

 心の中で必死に呼びかけるアイリに、ふと声が聞こえた。


『ふむ、なるほどの。そろそろじゃろう』

 安心していいのか、いつも通りのクーマの調子をどう判断していいのか迷いながら、アイリが更に呼びかける。


『ソーン君達は無事なの?』

 少し間をおいて、クーマから途切れがちの返事がきた。


『なんじゃ・・・それ・・・』


 その後の呼びかけには答えることなく、不安だけが募るが、

 ゴーレムをなぎ倒しながら、先を急ぐ。



 通路の終わりには円筒の形をした部屋があった。


 行き止まりかと思えたが、アルフ達がその部屋へ足を踏み入れると、

 部屋中が光り、


 体が宙に浮くような、そんな感覚の後、意識もろとも白い光に包まれた。



いつも読んでくださりありがとうございます。続きも読んで頂けると嬉しいです。

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