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第54話 急な依頼

 華やかな館から招待の興奮が冷めないままに、

ソーン達は街道を宿へ向かって歩いていく。


「ユシアさんも、早く離れた方がいいって言ってたし、宿に帰ったら、出発の支度しようか・・・そうだ、アルフ!」


突然思い出したように、ソーンが友人アルフの名を呼んだ。

「ナニ?どうしたんだソーン」

 にこやかに笑顔で、黒い艶のある耳をピコピコさせながら、アルフがソーンの近くに寄ってきた。


「とても大事な用事を忘れてない?」

 神妙な顔つきでアルフに訊ねるソーン。


「大事な?ナンだ、お昼はさっき食べたし、お腹いっぱいだゾ」

 お腹のあたりをさすりながら、白黒の尻尾を左右にぶんぶんと振りながら、不思議そうな顔で見つめてくるアルフにソーンが答えを明かした。


「ミリアへお土産を買わないと!村へ入れてもらえないよ」


 そう言われて思い出したのか、アルフも大きくうなずいた後、小さく呟くように言った。

「そうだナ、ミリアが待ってるナ、あとギルド長にも何か買って帰ってやらないとうるさそうだナ」


 お土産を買う旨をアイリに伝えると、楽しそうね、と了解を得たので、

皆で立ち寄ることにした。 

 お目当てのお店は、街に来てから何カ所か目星をつけていた店があったので、そこへ行くことにした。

 途中で、露天の果物を買うようにクーマが要求してきたので、いくつか買って渡すと、散歩してくると、リンゴを持って空へ消えていった。

 


 ___思った以上に、時間がかかってしまい、少し日が沈みはじめた頃、宿に帰ってきたソーン達を呼び止める声がした。


 宿の入り口で、待っていたのか、足早にこちらへ駆けてくる。とくに思い当たる節もないソーンは訊ねた。

「えーと、何かご用ですか?人違いではなく」


 近くに来た女の人が、すこし息を切らせながら話し出した。

「そう、そう。この宿で待ってて良かったわ」


 黒いローブからみえる髪は、すみれ色で髪は耳のあたりで紐でまとめられて流れている。ローブの腰紐が鮮やかな色をしているのが特徴的だった。どこかで会った記憶があったが思い出せないでいるソーンに女の人が答えた。

「あれっ?じゃあこれは覚えてるんじゃないかしら」


 腰のベルトからなにやら取り出して、開いてみせた。

それをみたソーンがひらめいたように答える。


「あっ、そうだ、島の遺跡でお会いした学者さんですね」


 すると、開いた本をパタンと閉じて、少し屈むようにしてソーンの顔をのぞき込む。

「そうよ、覚えてくれててよかったわ、少し話したいことがあるんだけど、そっちの宿のホールでどうかしら」

 するりと、ソーンの横に並んだかと思うと、ソーンの腰に手をあてて、宿へと歩き出した。


「えっ、えーと、分かりました。話があるんですね」

 そういうと、ソーンが慌てて早足で宿へと歩き出した。


 その2人のやりとりを鋭い眼光でみつめる獣人アルフと、女騎士アイリが距離をとりつつ付いていく。


___宿では夕食がはじまっていて、結構な人がホールに訪れていた。話しついでに、食事にしましょうと女学者さんから提案があったので、おのおの食べたいものを注文した。

 それでは、と、本題を話し出した。

「まずは、自己紹介からね。名前はマイ、私はみての通り学者で、主に遺跡を調査したりしているわ」

 すみれ色の髪をしたマイがそう言ったあと、ソーンをみて、にっこり微笑んだ。

 それを受けて、照れてしまったソーンは、ちょっと目線を下にしたあと話し出した。

「僕はソーンっていいます。それと友人のアルフと、あちらは騎士見習いのアイリさんです、あと散歩中のクーマもいます。皆とはチームを組んでて、この街にはギルドの依頼の関係で訪れてました」

 説明を受けて、アルフとアイリが会釈をするが、どことなく、釈然としない表情だ。


 それを聞いて、マイが話し出した。

「そう、ソーン君っていうの。よろしくね。それで、話っていうのは。直接依頼したいことがあって・・・」

 すると、めずらしく真剣な顔でアルフが割り込んできた。

「何か依頼したいことがあるなら、ギルドに依頼するのがイイんじゃないのカ?」


 するとちょっと困った顔をみせた後、申し訳なさそうにマイが答える。

「アルフさんがおっしゃる通りね、でもギルドに依頼すると結構な依頼料で厳しくて・・・そんな時に、ソーン君達ならもしかしたら、あの島を通るルートで移動するんじゃないかなと思って・・・」


 少し興味が沸いたのかソーンが訊ねる。

「島?あの島の遺跡調査に関する依頼なんですか?」

 ここぞとばかりにマイが答える。


「そう、ソーン君達にはじめて会った島の遺跡を調査したいんだけど、移動費とかもろもろを考えると、丁度同じルートを通ると思われるソーン君達と直接依頼交渉させてもらえると助かるなって思って・・・」


 そこでアルフが質問した。

「ふーん。で、どんな依頼で、報酬はどれだけで考えてるんダ、まさか同じルートだからってほとんどタダでって考えじゃないだロ」


 するどい質問に一瞬たじろいだマイだったがすぐに気を取り直して答える。


「そうね。島への移動は馬車代を折半でどうかしら、それで島では遺跡の調査で1日泊まりたいのでその間の護衛代で、あと何か良い発見があったら追加報酬を考えるわ」


 護衛代はこれくらいでと、机に硬貨を並べる。

その額を確認した後、アルフが訊ねる。


「でも何で、護衛がいるんダ、島は観光地だし、遺跡の辺りはそんなに治安が悪いのカ?」


 それを受けて、マイが答える。

「島は夜は、ほとんど人がいないの。治安は悪くないのだけれど、たまに夜に渡りの魔物が立ち寄るときがあって、人が襲われたことがあるみたいで、あとは、1人旅だと危ないことあるから備えておきたいの」


 なるほどと、アルフは納得したのかソーンに振り向いた。

「まあ、そういうことらしいゾ、ソーンどうする?依頼料はそれなりだガ」


 少し考えた後に、ソーンが答える。

「そうだね。丁度同じ方向だし、馬車代も考えると、僕たちからすると良い依頼だ。ただ、明日には出発したかったんですが、大丈夫でしょうか」


 それを聞いて、すぐにマイが答える。

「そう、良かった。じゃあ交渉成立ね。明日で大丈夫よ、馬車のあてもあるから早速手配してくるわ」

 すっと席を立つマイが、ここのお代も払っておくから明日はよろしくねと、時間と集合場所を確認した後、手を振って席を離れようとした。


 すると、ずっと静かになりゆきをみていたアイリが質問した。


「そういえば、どうしてソーン君がこの宿に泊まっているって分かったの?ずっと宿のところで待ってたようだけど?」


 それを受けてマイが答える。

「依頼の件でギルドに相談にいったときに、ソーン君達のことを訊ねたら、街に来ているって聞いたから、宿を何件かあたってたらここに泊まってるって聞いてね、ダメもとで待ってて、会えて良かったわ」


 それは運が良かったみたいねと、アイリが答えて、手を振った。

ソーンとアルフも同じくマイを見送ってから、宿の部屋へ戻った。 

 

 部屋につくと、荷物を下ろしながら、今日の出来事について

ソーンが話し出した。


「なんだか急でしたね。まあ丁度、良かったかもですが、馬車の手配とかどうしようかと思ってたので」


 すると不機嫌そうにアルフが答えた。

「ん、そうだナ。丁度いいというか、良すぎるというか。マイは、なんかソーンに馴れ馴れしいし・・・」


 それには同意するようにアイリが答える。

「なんだか気になるわね。まあ昨日の件もあるし、気をつけていきましょう。カインさん達が宿の周りは警護してくれてるらしいから大丈夫と思うけど、休む前にちょっと周りをみてくるわ」


 すると、窓のあたりで叩く音がするので、ソーンがそっと近づくと、茶色の尻尾が見えたので、すぐに窓を開いた。

 

 予想通りに、ふよふよと茶色の毛玉が窓をくぐり抜けて入ってきた。

「おかえりクーマ。何か気になることはあった?」

 ソーンがクーマを迎え入れながら訊ねる。


「ふむ、カインと警護メンバーが配置についておるの。まあ、今日はぐっすり寝れるじゃろ」


 それを聞いてソーンがクーマにお礼をいった。

「ありがとうクーマ。助かるよ。無事に街をでれたらまた、カインさんとユシアさん達にはお礼を言わないとだね」 


 その報告を聞いて安心したアイリとアルフが早速、着替えはじめたので、ソーンはお湯もらってきますと部屋を飛び出した。


『・・・遺跡調査か、何か発見があったりするのかな?お宝とか?それは流石に無いか・・・なんだか気になるなぁ』


 年相応に夢みるソーンの心は、遺跡調査に興味津々で、今日はいい夢がみれそうだった。

いつも読んでくださりありがとうございます。続きを読んで頂けると嬉しいです。

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