第4話 家と夜
教会から家に帰る途中、村の方は何やらにぎやかだったが、今日はいろいろあって疲れたし、
明日、ギルドによって聞いてみることにして、まずは家に帰ることにした。
_____ほどなくして家につくと、玄関の扉を開けて、灰色の上着をちょっと埃をはらってから壁にある金具に慣れた様子でするっとかける。
腰の皮製のポーチもはずして、入り口の右手にあるカウンターに無造作にのせると、奥の部屋まで歩いていって、床においてある丸い樽の蓋をずらしながら蓋においてあった木の器で、かるく中の水をすくって口にいれた。そのまま、ごくごくと飲み干したところで、ふと気づいて、クーマに声をかけた。
「ごめんね、気づかなくて、クーマも水飲む?えーと、この器で飲めるかな?」
すると、ふるふると首を横にふりながら、ふさふさの尻尾を、ソーンの首にまきつけ、クーマが答えてきた。
「野イチゴを食べたから水はいらんのぉ。欲しいものがあったら、自分から言うから気にせんでもいいぞ」
そういってソーンの頭の上にのっかってきた。浮いているのか重くはないが、ふさふさした毛皮が頬にあたって、なんだか気分がふわふわする。
「そうなの、じゃあ、何かあったら遠慮なく言ってね。えーと、首のまわりと後ろの位置がクーマの定位置なの?すごい温かいけど、、なんだろうちょっと不思議な感じだね」
首まわりの尻尾にちょっとふれて、この感動を尻尾の持ち主に伝えてみた。
さきほどの樽から今度は少し大きめの鍋に水をいれた後に、蓋をしめて、すぐ隣の部屋へ移動して、煉瓦造りのかまどの上部に鍋をおいた。
「夜は軽めの食事でいいかな、このところ市場へ買い出しにいってないから、あんまり食材がないんだよね。そういえばクーマって何を食べるの?丁度いいものあるかな・・・」
適当に食材を手にとって、細かく刻みながら鍋へ放り込みつつ、頭の上のふさふさした毛皮に話しかけてみた。
「ふむふむ、そうじゃな、さっきの野イチゴみたいなものがいいのぉ。それ以外じゃと、まあ、あんまり食べたりせんでも大丈夫じゃから気にせんでもいいぞ」
さっきから切り刻まれている緑の葉っぱのようなものをみながら、頭の上でクーマの答えが返ってきた。
「そうなの?あんまり食べなくていいってすごいね。果実が好きなんだ。明日も野イチゴみたいなのが採れるところへ行かないとだね」
慣れた様子で軽めの夕食を済まし、服も着替えて、濡らした布で体を拭いていると、ちょっと暗くなってきたので、机の上にあった、ランタンに、かまどの燃え残りから火を灯した。
「そうだ、記録しておかないとね、今日はキノコと、新しく野イチゴが採れる場所を書いておいてと」
同じく机の上に置いていた、紙の束を開いて、描かれている地図のようなものに軽く印をいれてすぐ横に野イチゴと書いた。すると、それを頭の上から見たクーマが訪ねてくる。
「ふむ、地図か、何を書いておるんじゃ」
「採取したものの場所とか日付だよ、順番にとるようにしてるから、1回採ったらしばらくおいておかないとね。すぐ忘れちゃうから記録してるんだ。あと、本当はもう少し森の奥にも行きたかったんだけど、何故か塔があるし、ちょうどこのあたりかな。印しておこう」
キノコの奥のところに斜めに線をいれて、奥に塔を描いてみた。あとにっこり笑っているクマの絵も横に描いておいた。ソーンが色々と描いているのをじーっと見ながらクーマが問いかけてきた。
「ほう、森はそれでなんとなく分かるが、村の地図はないのかの?」
「村?あぁ、この村だね、んーそっちは先に覚えちゃったから、地図はないかな。えーと、この家から真っ直ぐ行くと村の大通りで、大きなところで言えば、教会と旅人の宿かな、あと広場があって、ギルドがあって。市場と、村長の家かな、まあ村長はこのところ不在だけどね。今日はなんだか広場の方とかがにぎやかそうだったね。誰か来てるのかな?」
そういえば、朝からなんだか騒がしい感じだったなぁと思っていると、ふんふんと聞いていたクーマが更に質問してきた。
「ギルドって、なんじゃ?あと、教会はあれか、ミリアとかいうお主の大事な雇い主がおるところじゃな」
「ギルドは、冒険者がよく行くところだね、仕事とか斡旋しているね。あと情報を得たり修行みたいなこともできるよ。適正があれば技能も教えてくれたりするし。えーと、ミリアは神官見習いなんだ、大事な人だけど・・・なんていうか幼なじみだね。雇い主ではなくて。教会の神官長が正しくは雇い主になるのかな」
ミリアの説明のところはちょっと、しどろもどろになりながらソーンが答えると、クーマが頭からすっと離れて、ふよふよと浮かんでいる。
「ほう、冒険者か・・・神官長というのもおるんじゃな。ミリアはお主にとって大事な人というのは変わらんようじゃな。ふむ、覚えておくぞ」
大事な人と何度も言われて、なんだか照れてしまってクーマの方をよく見れないソーンだったが、そのときクーマが離れたせいか、ちょっとぞくっとする寒気がした。
「今日は色々あったし、早めに寝ようかな。寝床はこっちの2階にあるんだ、階段上って一番手前の部屋でと、奥の部屋はちょっと掃除してないから、クーマも一緒に寝よう。あとお願いがあるんだけど」
階段をのぼりながらソーンがクーマに話しかけた。
「ほう、なんじゃな主よ」
「だっこして寝てもいい?きっとすっごい、いい夢みれると思うんだ!」
_________
「んんー、ふさふさだぁー、ふぁー」
時折、そんな寝言を呟くソーンの腕からそっと抜け出して、ふよふよと部屋をでて廊下の窓辺でクーマが浮かんでいる。
「・・・一応、警戒しておくかの『透明化発動』」
そう唱えると、さっきまでクーマがいた場所に何も見えなくなり、代わりに窓がすうっと開いた。するするとそのまま外の空へむかって風が通っていく。ソーンの家をでて少し真っ暗な空へと進んだところで、風が止まった。
丁度よく村が一望できるぐらいの高さだ。
明かりもない夜の空ではあったが、よく目をこらしてみると、そこだけは少しゆらゆらと空間が歪んでいるように見える。何もないところから声がした。
「どれ、『生命探知』」
ゆらゆらと歪んだ空間から小さく唱えると、その呪文の使い手だけが、みれる淡く光る灯火が暗闇の中に浮かびあがった、それは村のいくつかの場所で、少し大きかったり、色が違ったりしたが、ひときわ大きく光っているものが教会付近でみえた。
「これが神官長か、ギルドとやらはあっちの建物か、まあそこそこじゃの、ほう、これはミリアか、ふむ」
姿を消したままで空から村をぐるりと見て___
___それは、つぶやいた。
「___美味しそうなのは、神官長ぐらいか。ミリアは一応除外じゃな。しばらくは様子見かの、ギャッギャッギャッ」
夜空に浮かびながら思わず大きな鳴き声をだしてしまい姿が現れるが、あまり気にしていない様子で、ぐるりと村の上空を旋回したあと、すっと姿を消してから、するすると下へ降りていった。
___それからしばらくして、村の旅人の宿とギルドに、良くない噂が流れてきた、明かりの無い夜に、不気味な鳴き声と共に、大きな羽と尻尾を持つ黒い影が村の上空を飛び回ったと、それを見たものは精神が病んでしまい現在治療中らしいと。
ここまで読んでくださってありがとうございます。また続きも読んでいただけると嬉しいです。
追記:誤字脱字修正しました。