第48話 夢の招待状
「ふぅー、今日はなんだか忙しかったね」
あの後、近くの露天商からリンゴをいくつか買って宿に帰ったが、
どれもそんなに甘くなくてがっかりした。
それでもクーマは気にせず、全部食べて、また散歩にでかけてしまったので、ソーン達は、大人しく宿で夕食をとることにした。
ちょっと気に入ってきたのか、昼にも食べた生ハムのサンドをおかわりしながら、アイリがソーンに話しかけた。
「ソーン君は明日、お暇かな?良かったら、ちょっと買い物の相談にのってくれると嬉しいんだけど」
それを聞いて、お腹が満たされると同時に、なんだか眠くなってきて、目をこすりながら注文したスープをスプーンでゆるゆると飲んでいた、ソーンが答える。
「えーと、大丈夫です。いいものが見つかったんですね」
そう言うと、ガッとスープの器をつかんで、口に近づけて、一気に飲み干した。
「うぁ、ボクもソーンと買い物したいゾ、朝、ギルドに寄ったら、そっちにいくから、お店の場所を教えてアイリ」
もくもくと、肉の串を食べていたアルフが慌てて、話に割り込んできた。その間に、ソーンは今にも寝てしまいそうなぐらいに、頭を上下に揺らしている。
「じゃあ、お店の説明は、一旦部屋に戻ってからに、しよっか」
アルフが肩を貸す形でソーンを抱えて、アイリは店員に代金を払って、部屋へ急いだ。
とりあえず、ベッドに寝かせたところで、早くも、スヤスヤと寝息を立てて寝始めたソーンを珍しいなと思いつつ、2人はそっと見守った。
「色々あったし、疲れてるのかな」
ソーンを見習って、就寝の準備をつづがなく終えた、アルフとアイリも それぞれのベッドに滑り込んだ。
「クーマちゃんはまあ、いつものことだし、そのうち帰ってくるでしょ」
枕元の明かりを消して、暗くなった部屋でそう呟いてアイリも、追いかけるように眠りについた。
___月明かりの中、ゆっくりと時間が流れる。
街の少しだけ城壁からはずれた場所ではあったが、
その日は、人通りも少なく、木造の宿ごとまるで眠っているかのようだ。
昼間は見かけなかった木箱がいくつか積まれた、宿の裏口付近に、うっすらと月明かりの中、人影が見える。
黒い皮の鎧と、抜き身の剣には煤が塗りつけられているのか黒い刀身は夜に溶け込んでいる。
するすると、慣れた様子で、数人の黒い人影が裏口を囲んで、軽く合図を交わした瞬間に、扉が吹っ飛ぶように開いた。
「話が違ウンじゃないか、卑怯な、まったくクソ野郎どもダ」
そう叫びながら、蹴破った扉から飛び出た勢いで、手近な獲物を捕らえようとのばした爪先が空を切る。
黒い艶のある毛先が月明かりを反射して銀色に輝く、素早く身をひねって、繰り出される黒い刀身を、かわしたところで、ふと目にしたものに気づいてアルフが吠える。
「いつの間に・・・仕込みがすぎるゾ」
追撃の刀身をなんとか身をひねってかわすが、傍らに並んだ木箱にもたれるようにして、片膝をつく。
その様子を横目に、黒い人影達は、アルフを残して宿に吸い込まれるように消えていく。
「アイリごめん、ソーンを頼ム」
振り絞った力で、傍らの木箱を一つ粉砕するが、そのまま崩れるようにアルフが倒れ込みながら呟いた。
___ゆらゆらと霞む景色に月明かりが反射して、まるで夢の中のようだ。異変を察したアルフが飛び出していってから、慌てて剣を拾い上げたところまでは良かったが、まっすぐに立つこともできずに、意識が戻らないソーンが眠るベッドの脇にもたれるのが精一杯のアイリが扉をじっと凝視している。
少し前に、アルフの叫びが聞こえて扉が軋む音がしたが、それ以降は静かになったままだ、いつもならこれだけの騒ぎがあれば宿の店主も騒がしくなるはずだが、それもない。
目の前がゆらゆらと霞む様子からも、なんらかの攻撃を仕掛けられていることをアイリも気づいた。
この最中でも、目を覚まさないソーンに小声だがするどく声をかける。
「ソーン君、大丈夫?起きて」
そう言いながら、反応が無い眠れる少年をみると、月明かりといえどもやたらと青白い肌の色に気づいてしまった。
「なに?まさか、毒でも盛られた・・・」
慌てて、剣を落としそうになりながら、ベッドに近より、ソーンの口元に手をかざす。
小さくだが息をしている。そのまま首元に触れる、やはり体温が低い。
そのとき、扉が小さく開いた。
コロコロと筒のようなものが転がってくる。
「クッ、手際がいいじゃない」
ベッドの上の毛布を床に投げて壁際へ移動しようとしたところで、
アイリの目の前が黒く反転する、意識を失う寸前に入り口に向けて投げつけた剣も鈍い音と共に、床に叩き落とされ、あたりに再び静寂が訪れる。
___月明かりの中、するすると黒い人影が布でぐるぐる巻きにしたものを運びだしている。
数人が集まりそれを担いで、足早にその場を離れようとした。
いつもの手順で。
ただ、今回はめずらしく破損した木箱から何かを拾い上げて、
ふと、何気なく夜空を見上げた一人が、
月に影を見た。
それは一瞬で月明かりを消し去るように、
夜の中なのに、もう1度、更に夜が始まるかのように
闇があたり一面押し寄せてくる、闇のベールがまとわりつくように
その場の全員が、包まれた黒い闇の奥からそれを聞いた
ギャッギャッと愉悦の鳴き声が闇の中で唄っていた。
夜は、まだ始まったばかり。
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