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第46話 螺旋階段

 どこまでも続く真っ黒な世界。


 目を開けているのか瞑っているのか、

あまりの闇の深さに意識も朦朧とする。


 動かした足が何か石畳のようなものを、

踏みしめて前に進んだような気がしたが、

闇を掻くように伸ばした手には何も触れるものはない。


 くらくらと頭に、闇が染み込んでくるかのように、

目の前に広がる黒い世界が、意識を吸い込むように感じた。


 ふわふわとした浮遊感、何かに包まれるような、

本来であれば不安を掻き立てる闇の中で、

どことなく懐かしい感じがして、そっと目を閉じて、

吸い込まれるままに意識が薄れていく、




____遠くから、とても遠くから、


____暗闇の中を呼ぶ声がする。


 ハッと、して目を開いて、声が聞こえた方向へ


 真っ暗な道を早足で歩く。

 途中、急に階段に変わったところで、つまづきそうになったが、少し目が暗闇になれてきたのか、かろうじて段差が見えて助かった。

 階段は渦のようにぐるぐると螺旋を描き、上へ上へと上がっていく、息を切らしながら、それでも歩みを止めずに、進んでいく。

 暗闇の先に明るい光が見えた、たまらず駆けだしていく。

 その光の扉を勢いよく、くぐり抜ける。

 差し込む光が眩しすぎて目が眩み思わず前屈みに倒れ込んでしまった。


 すると、聞き慣れた声が、灰色の外套をかきわけて聞こえてきた。


 倒れた体を強引に抱き抱えて起こされた拍子に、

 ふんわりとした黒い艶のある髪が鼻先にかかってくすぐったかった。

 心配そうに黒い耳を水平に伏せて、友人が呼びかけてきた。


 「ソーン!大丈夫か、怪我は無い?どうやってここまで」

 心配で堪らないのか、必死でしがみつくアルフに、なんとか落ち着いてきた声で答える。

 「えーと、ありがとうアルフ。大丈夫、大丈夫だよ。ちょっと急ぎすぎて目眩がしただけだから・・・クーマはいる?途中ではぐれたんだ」


 すると、呼ばれるままに、アルフの後ろからすうっと姿をみせて、ふさふさの尻尾をソーンの首に絡ませながら毛玉クーマが答える。

 「変わったところから、現れるのぉ。ちょうどアルフに状況を説明したんで探しに行こうと、しとったところじゃ」


 相変わらずのクーマに、ふさふさした尻尾をなでて、ソーンが頷きながら、ほっと息を吐いた。


 「良かった。クーマも無事に逃げれたんだね。こっちもちょっと大変だったんだ、不思議な場所に着いちゃって・・・」


お互いに出会ったことの説明をはじめる、アルフはまだ、ソーンにしがみついたままで、ふんふんとうなづいている。


 ほどなくして、遠目にも不思議そうな顔をしたアイリが帰ってきて、声をかけてきた。


「どうしたの、そんな所で、皆して座って。そろそろお腹空いてこない?ご飯どうするソーン君?」


_____結局、宿をとっている、銀の剣亭のロビーで食事にすることにしたソーン達は、そろそろ落ち着いてきた時間になりつつあったのか、せっせとテーブルを片づけている店員さんを手招きして、各自で食べたいものを手早く注文し、席に着いた後に、それぞれに起こったことを説明した。

 ソーンの話はアルフには二度目になる説明だったが、何度聞いても不思議でならない事があった。


「この街の地下に、そんな大広間があるって?なんだろう聞いたことないな。んー、ボクはそれより、ソーンを襲ってきた奴らが気になるゾ」


 それに同意するようにアイリも答えた。

「そうね、平和に買い物を楽しむには、そちらをどうにかしたいところね。街の警備隊に相談してみるとかどうかな」


 それにはアルフが苦い表情で答える。

「んー、どうかな。よそ者にはそんなに頼りになるもんじゃなさそうだ。東の地区だし、警戒はしてくれると思うけど、精々、気をつけるようにぐらいしか言ってくれ無そうだけど・・・」


 それを聞いたソーンが少し考えた後、決心したかのように答えた。

「やっぱりもう一度、襲われた場所に行こう。今度は皆と一緒に。準備もしていけば、きっと大丈夫だよね」


 そういって顔をあげた銀髪の少年ソーンの目には不安の色はなく、少し落ち着いて考えることで理不尽な出来事に、寧ろメラメラと燃えるような怒りをたたえていた。


 その目をみて、友人の獣人アルフはすぐさま喜び賛同した。

「そうだ、そうだ!ボクがいない隙にソーンを襲うとは、がっつりと報復しないと気が済まないゾ」


 同じく頷いたアイリも答えた。

「まあ、今後もあるし、冒険者も舐められたら仕舞いね。ソーン君を狙ったってことも気にくわないし」


 ソーンの頭の上で、くつろいでいた毛玉クーマも、すっと顔をあげて、つぶやいた。

「ほう、面白そうじゃの、楽しみじゃ」


 危険が伴う判断を、誰にも反対されないことに、少し驚いたようなソーンだったが、皆の怒りの根源を感じとって少し照れたように頷いた。


「ありがとう、皆、そうと決まれば、すぐに準備して向かおう、場所は案内するよ」


 そう宣言すると、ソーン達は急いで部屋に戻った。

 壁に立てかけていた、この旅の道中で、手に馴染んできた愛用の松明を拾いあげながら、ふと横目でアルフをみた。


 ソーンの位置からは顔の表情が見えなかったが、両方の手の先に普段あまり見せない鋭い爪があらわれていて、指の動きにそって煌びやかな光を反射している。

 そのとき、金属が擦れるような音がして、振り返ったソーンがみたのは、ロングソードを抜きはなって刃を返すようにして確認しているアイリだった。こちらもこの角度からは表情は見えない。


 どちらかというと和やかだった食事のときと、あきらかに違う雰囲気に、今になって気づいたソーンがおそるおそる、友人たちに訊ねる。

「えーと、話し合いですむ場合もあると思うから、まずは僕が相手と交渉するから、落ち着いて対応しようね、皆・・・」


 それを聞いて、まるで金属のように堅く尖った爪を鳴らし振り返るアルフと、同じく、勢いよく剣を鞘に戻すアイリが振り返り、とてもいい笑顔で同時に答えた。

「落ち着いてるよ、とても楽しみだ」


 ソーンは、どうやら選択を誤ったのではと、これから起こるであろう事態を想像して、早くも少しだけ後悔していた。

いつも読んで頂きありがとうございます。つづきも読んでいただけると嬉しいです。

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