第44話 倉庫街
ソーンが旅の荷物を宿に置いて、いつもの灰色の外套を羽織って外にでると、美味しそうないい匂いが通りを漂っていた。
アルフは一番早くに、ギルドへ出かけていったので、その後にアイリさんを見送って、一番最後に遅れて出てきたのだが、皆はまだお腹が空いてないのかな?と、ソーンは抱き抱えたもふもふした毛玉になっているクーマに訊ねる。
「ユシアさんを探しながら、何か美味しい食べ物屋さん探そうか?クーマも食べたいものあったら教えてね、露店もいっぱいあるみたいだよ」
そういうと、宿をはさんで向かい側の道沿いにそって、ずらっと並ぶ露店が目にはいった。
商業が盛んな街と聞いていたが、流石に自分達の村と比べるのは、申し訳ないくらいに栄えているようだ。
はじめてみる果物を見つけては、クーマと一緒に、美味しいやつかな?と、時には味見をしながら、通りを東へと進んでいく。
____思ったより、だいぶ歩いたことに気づいたのは、人だかりのできていた、大通りを迂回するように、脇道に入って少し進んだ時だった。 お店の裏通りになるのか、看板がでている場所もなく、ところどころ、積まれている樽やら木箱やらから、倉庫街といった雰囲気がする。
「ちょっと、通りから、はずれちゃったかな。お店がある方に戻らないと・・・どうしたのクーマ?」
ゆっくりと向きを変えて来た道を戻ろうとするソーンの手から、すっとクーマが抜け出して顔の前あたりに、ふよふよと浮いている、ふさふさの尻尾が首に巻き付いてきて少しくすぐったい。
すると、突然頭の中にクーマの声が響いた。
『ふむ、奥に来すぎたのか、追い込まれたのか、昼間から治安の悪い街じゃな』
ハッとした、ソーンがクーマ越し倉庫街の通りをみると、一見誰もいないようだが、よくみると建物の端に、人影がちらっと見えて、すぐに隠れた。
『どうしよう、ん、これってクーマ聞こえてるの』
頭に思い浮かんだ声が、なんとなくクーマへ届いているような気がしたので、慌ててソーンが訊ねる。
『うむ、まあそう慌てなくても、なんとかなるじゃろ』
クーマはそういった後、ふよふよと浮かびながら元来た道を戻りだしたので、首に巻き付いた尻尾で引っ張られるようにソーンもゆっくりと歩きだした。宿に荷物と一緒に、頼りの松明付き棍棒も置いてきたので、ほぼ丸腰のソーンは、この窮地にぐるぐると思考を巡らしていた。
ソーン達が平常を装って、数十歩戻ったところで、後方で人が歩く音が聞こえる。前方の資材の陰からも、ガラの悪そうな数人が姿を見せる。完全に囲まれている。
『えーっと、どうしよう、話かけてみようか、人違いとかかもしれないし、それか走って逃げたら大通りまでいけるかな?』
腹を括って、いざというタイミングでクーマが提案してきた。
『ふむ、儂が声をかけて、注意をひくので。主は合図をしたら、目を瞑ってしゃがむんじゃ、その後はひと呼吸おいて大通りではなく、脇道をしばらく走って離れてみてくれんかの』
『了解、なんとか逃げてみるよ。それでクーマはどうするの?大丈夫なの』
いつも頼りにしているクーマの言葉に心の中でうなずいて了解するが、クーマを残して逃げるのは心配になったソーンが訊ねる。
『儂は頃合いをみて、空に飛んで逃げるからまあ、大丈夫じゃろう。以前の蜘蛛の巣よりは簡単じゃと思うぞ』
心強い回答に、納得したソーンは、いつでもとうなづく。
すると、クーマがするっと首から尻尾を離して、頭の上あたりにきて大きな声をあげた。
「なんじゃ、こそこそと、どこの街にも同じ輩が沸いてでるの」
結構な通りに響く声に、一瞬、周りの連中の動きが止まる。
『ほれ、しゃがむのは今じゃ』
クーマの声が頭に響くとソーンが目を瞑ってその場に座りこんだ。
ぞくっと首もとに寒気がするが武者震いか。
同時に、辺りが一瞬にして暗闇に包まれる。間髪いれずにソーンの上に浮かぶ、いつもの茶色が心なし黒く見える毛玉を中心に黒い風のようなものが周りを激しく吹き抜ける。
それを受けてか、至る所で叫び声があがる。
「ひっ、ば、化け物」
「げっ、げぇぇ」
一瞬の後、目を開けたソーンが見たのは、地面に倒れ込んで、反吐を吐く者達や、腰が抜けたのか、目を見開いて尻餅をついた状態で、叫んでいる者もいる。
状況がうまく理解できないが、クーマが何かをしたのは間違いないだろう、とにかくこの隙をみて逃げるのが先決と、ソーンは立ち上がり走り出した。
思った以上に隠れていた者達がいたようで、大通りへと戻る方向には、3、4人がよろけるようにして道を塞いでいたので、そちらにはいかずに、建物の隙間にある、脇道を選んで飛び込んだ。
一瞬、えっと言う声が聞こえたような気がしたが、気にせずに、ひたすらに道を進む。
途中で分かれ道になっていたようだが、まだ大通り方面へ戻るには早いと感じて、そのままずっと走りつづけたが、次第に下へ下へと坂道になり、気がつけば、螺旋階段のように地下へと続く道になっていた。
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