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第43話 封をした書状

 軽い足取りで、再びここに帰ってきたことがずいぶん昔のことに感じるくらいに、首の後ろから背中にかけて毛が逆立っているのが自分でも分かる。


 思わずいつも引っこめている両手の爪が剥き出しになりそうになり、

ぐっと、我慢しながら、もう一度、アルフは訊ねた。


「ここに契約の原本と、通信の記録があるというのに、それは存在しないということ?ギルド本部では・・・」


 巨大な石の天板がのせられた受付に両手をついて、身をのり出した状態でさっきから数えて何度目になるか同じ質問を繰り返す。


 それに答えるように、受付で、黒に黄色のラインがはいった制服をきたギルド員が、これまた同じように何度目かの答えを首を横にふって、冷静に答える。


「何度も確認しましたが、そのような契約は履歴が無いですね、ギルドの書庫には未登録の案件であるとしか答えられません」


 ぐっと、沸き上がる感情を堪え、アルフは下を向いて、小さく震えた。

 流石に、何か手違いがあって検索できてないだけだろうと、たかをくくっていたが、まるで相手にしてもらえないとは意外で、今にも手に持った契約書を叩きつけて声を荒げたい欲望にかられる。


 その姿を少し不憫に感じたのか、受付のギルド員は、近くの水差しからコップに注いだ水を差しだしながら説明をつづけた。


「私も受付を長くしていますが、聞いたことのない事例で、やはり履歴が存在しないのは確かです。契約報酬のトラブルに発展しているのであれば、ギルドのサポートも受けられると思います。そちらの資料を準備しましょうか?」


 いただいたコップの水を一気に飲みほしたアルフは、ふーっと、長い息を吐くと、少しは落ち着いたのか、逆立っていた毛がいつもの艶のある黒髪になってさらさらと首元に流れていた。


「いえ、大丈夫、ちょっと言われていたことを思い出して、落ち着きました。ごめんなさい。それで無理を言うようで申し訳ないけど、代わりにこの書状を本部のグランドマスターに渡してもらえますか・・・うちのギルド長が署名と封をしているものです」


 そう言うとアルフは、腰の鞄から丸めて封のしてある羊皮紙をとりだして、受付の台の上に置いた。それを大事に受け取った受付のギルド員が了解の合図をした。


「あと、伝言ですが、明日もう一度こちらに伺います。確認というか、それが必要になるそうです」


 予め覚えてきた台詞を棒読みのように、そう告げると、受付のギルド員も、何かを察したのか、お互い大変ですねと軽く会釈した後、書状をもって建物の奥へと歩んでいった。


 その姿を見送ってから、踵を返して、アルフは足早にギルドの建物から外にでた。ぶつぶつと何か呟いている。


「・・・結局、ギルド長の言っていた通りか、不甲斐ないな」

 もう1人前だと、ギルド長に啖呵ををきってから何年か経つが、今回のようなことは初めてのアルフは、ギルド員としての自信が崩れかかって、少し目の前がうるんでみえた。

 いつもは元気よく左右にふられている白と黒色の尻尾がぐったりと下に垂れ下がっている。


 とぼとぼと階段をおりて通りに降り立ったときに、ふいにお腹が大きく鳴った。驚いて黒い両耳をピンとたてて、急いで周りをキョロキョロと見回すが、近くには誰も居なかったようだ。


「・・・ソーンを誘って、何か美味しいもの食べるぞ。・・・元はと言えば、ギルド長が勝手に契約するからだし、そうだ、ソーンに判定してもらおう、絶対ギルド長が原因でおかしなことになってるんだ!」


 自分でなんとかなると思っていたところ、ギルド長から託されていた、奥の手も使ってしまって、もやもやとする気持ちと怒りが混ざって、早くグチを吐き出したい一心で、アルフは、気がつけば宿に向かって走り出していた。


いつも読んで頂きありがとうございます。続きも読んで頂けると嬉しいです。

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