第40話 それぞれの興味
「これは、まだ試作品なんだが・・・」
今度は崩れて落ちないように、比較的しっかりとした穴の縁の部分に腰掛けたソーンの隣に来て、ふぅーと小さく息を吐き、青いベストの少年が金色の髪の端をくるくると指に巻きながら、さっきから熱い視線が向けられている物体について説明した。
白いシャツからのびる手に握られていた銀色の金属製の筒を、無造作にソーンに差し出しながらユシアが言った。
「弾は抜いてあるから、どうぞ。紅石銃・・・っていう名前とか、どう思う?」
金色の髪の端から手を離して、ちょっと照れくさそうにユシアが伝えると、早速、試作品を手にとって熱心に眺めているソーンを見ながら、早く感想を聞きたそうにそわそわしている。
そのとき、新しい玩具を与えられた子供のようになっているソーンの傍らに置かれていたものに今度はユシアが興味を示した。
「そういえば、君のそれもちょっと変わっているね、棍棒?その割には、先端に籠のような部分が?」
それに気づいたソーンが、ハッとした表情をした後、嬉しそうにお気に入りの松明をひろいあげて、ギルド長直伝の説明をはじめた。
妙なところで気が合うようで、お互いの品を説明しあう、少年たちを遠目に、手頃な岩に座っていた、ユシアと同じ金色の髪をした女騎士は困惑していた。
「えーと、アドリー君?どうして、あたしの膝の上にのってるのかな?ユシア君はあっちだけど間違えてない?」
アイリの目の前にある、ところどころ桃色のメッシュがはいった真っ白い長い髪がすっと流れて、振り返った横顔から赤い瞳がちらりとこちらをみて、また正面にかえっていく。
全身の白いローブも相まってか、綺麗な人形のような雰囲気で、下手に触ると壊れるんじゃないかと、アイリはどう扱っていいのか困っていた。
それを知ってかどうなのか、アドリーが答える。
「んー、アンタ、さっきまで毛玉を抱っこしてタロ、それと同じダ」
そう言うと、さも当然のように膝の上にのったまま、くつろいでいるアドリーをどうしようかとアイリは引き続き考えこんだ。
『まあ、この子、別に重いわけでも無いし、むしろ見た目より大分軽いような、足下の黒いブーツからは重量感があるけど・・・』
しばらくどうしたものかと困惑気味のアイリを尻目に、パタパタと足を振ってくつろいでいたアドリーが、すっと黒いブーツを持ち上げたと思うと、突然はじかれたように、アイリの膝から飛び出して、ユシアの背後まで移動した。
同時に、離れたところで、じっと成り行きを見守って、もどかしそうに首のあたりの毛を逆立てていたアルフもそれを見て今度は反応できたのか素早くソーンところへ飛び出し、背中に張り付くようにして、アドリーとの間にはいる。
一瞬だけ赤い瞳を、警戒している獣人に向けた後、興味なさそうに視線をユシアに戻して、アドリーが言った。
「ユシア、充填もできたし、ココに用はもう無いゾ。あと、美味しい奴を、コイツに渡そうとしなかったカ?ソレは全部、アドリーが食べる奴だゾ」
すると、すぐにユシアが答えた。
「コイツではなく、ソーン君だ。全部アドリーのなんて約束したことないだろう。まあ、そろそろ頃合いか・・・ちょっとお願いがあるんだがソーン君いいかな?」
それを聞いて、名残おしそうに、ソーンは手元にあった試作品の銃と、アドリーがじっと見つめている小さな金属の筒をユシアに返した。
それを受け取ったあと、ユシアが答えた。
「あとお願いの件だが、ソーン君達はこれからあの街へ行くんだろう、私たちもそうなんだが、手持ちの硬貨が小さいのが無くて、両替をお願いできるかな」
それを聞いて、快く頷いたソーンは早速、懐からずっしりとした小袋を取りだした。紐をゆるめて、どの種類の硬貨が入り用ですかと訊ねていると、金色の髪の少年がニコニコしながら、握った手を伸ばして空いた袋にかぶせてきた。
不思議そうにソーンがみていると、チャリーンっと金属が落下してぶつかる音が袋から聞こえた。
「あっ、えっ、ちょっと。まって・・・」
慌てるソーンの前で、ユシアがかぶせた手にもう片方をあわせて、すばやく袋の紐をしばって、ソーンの手元に丁寧に戻した。
「ふふっ、今日の迷惑料だよ、ソーン君は素直なところがいいね」
なにかいいたそうなソーンをなだめるようにして、ユシアが背中を押して、早く行かないと日が暮れてしまうよと話題を変えてくる。
納得がいかない表情のソーンだったが、袋をあけて硬貨を確認するのもなんだか失礼な気がして、仕方なくお礼を伝える。
それに答える形で、心なしか優雅にお辞儀を返すユシアに、また街でお会いできればと伝えると、アルフを先頭に、続いてソーン、最後に頭に毛玉を乗せたアイリ達が街へ向けて歩きだした。
掘った穴を埋めてから出発すると伝えたユシア達はそれを見送ってからしばらく作業を続けていたが、ソーン達の姿が遠く見えなくなったところで、ユシアは一旦作業をとめて、穴の縁に寝そべるようにして空を見上げた。
________静かな時間が過ぎていく。
穴の側で、いつの間にか、目を閉じていた金色の髪の少年が、すっと目を開いた。
白いシャツの裾には土がつき青いベストも土埃で汚れていたが、
それを払う様子でもなく、ユシアの視線はずっと青い空を見上げている。
唐突に、ユシアが声をあげた。それは、先ほどまでの心が弾んでいるような軽やかな口調ではなく、命令するのに慣れたように低く響いた。
「追跡は問題なくできているか、彼らは街へ向かっているので間違いはないな?」
すると、近くの別の穴の中から誰かの声が答えた。
「気づかれてはいません、道は分かれていないので、街を迂回するのでなければそのまま、入り口をくぐると思われます」
それを聞いても、空を見上げたままで、ユシアが答える。
「ある程度の居場所が分かればいい、不用意に近づくな。あと、毛玉には間違っても手をだすな。追跡に気づかれた時は、ごまかさなくてよい、用件を伝えに来たと言え」
そこまで伝えると上体を起こして、目の前の穴の中にいる真っ白いローブのアドリーに視線をおくる。アドリーはいつの間にか、ふわふわの子羊を両手に抱えて、先ほどまでの会話を聞いていたのかどうなのか子羊に語りかけている。
「やっぱり食べたりないカ?次は全部食っちまうカ、どうダロ」
すると、間髪いれず子羊が鳴いた。
「ニェー、ニェー」
相変わらずの相棒に、ふぅと息を吐いて、ユシアが街の方角をみながらつぶやいた。
「どうかな、期待はしていなかったが、思わぬところで、掘り出し物が見つかったか・・・それにしても、この穴を埋めるのはちょっと・・・アドリー!こらっ逃げるな」
アドリーが掘った穴を埋めるには、もうしばらくかかりそうだ。
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