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第3話 教会にて

「今日はこれだけ採れたよ」


村に帰ってから、まずは採集の結果報告。

家の裏手にあるこじんまりとした池の横の道をしばらく歩いて、村にはいる。

中央をはしる大通りを東へ少し進むと、この村の規模にしてはしっかりとした、目的の建物はあった。


 石造りの壁が続き、ところどころに丸い窓があり、きっちりとガラスの窓がはまっているが、きれいな赤や青、緑色したガラスに光が透過して、煌びやかな模様を足下に描いている。壁に囲まれた床も石だがこちらは磨きあげられた、よく掃除しているのがわかるもので、通路の両側には長椅子がいくつもあり、それはこれから向かう先へと並んでいる。


 その中をしっかりとした足取りで、ソーンは向かいながら、腰につけていた皮製のポーチから大事そうに1つの箱を取り出した。


 表面がひんやりとしているのを確認して、安心したようにうなづいて、目的の祭壇の前まで到着したところで、足をとめて、声をかけた。


 すると、祭壇の奥の右手側にある、壁の窓と同じく、色とりどりのガラスがはまった、綺麗な扉がすっと開いて、白いローブに赤とオレンジの流れるような模様がはいったものをきた、一人の少女がはいってきた。


 すぐに少女と分かったのは、そのよく通る声がこの建物に反響しながら、扉から現れる前に聞こえてきたからだ。


 「いつもより遅かったじゃないソーン、どうしたの?思ったよりいっぱい採れたの、今日の分はもう仕込んだから明日の分に使えるわね」


 ローブからのぞく視線があれっ?という表情をみせた。どうやら、幼なじみがいつもの様子と少し違うことに気づいたようだ。


 それをみたソーンは、ちょっと想定外の返事に、照れくさそうに灰色のローブを払いながら、箱を開けて、今日の成果をみせるのをためらいながら採取したものを見せた。


 「えーと、あんまり採れなかったんだ、このキノコがそうなんだけど、それ以外は、みての通りほとんどこの野イチゴで・・・」


 と説明するはしから、すっとコゲ茶色のふさふさした手がソーンの頭の後ろからのびてきて、赤い果実をいつくか拾い上げていった。


 「あっ、だめだよ、勝手に食べちゃ、ミリアの分もあるから、分けてからだよ」


 ミリアと呼ばれた少女は、その様子をみながら、どういうことかとソーンに視線をとばしながら、首にまきついているふさふさした尻尾と、ふよふよと浮かんでいる茶色いふさふさしたものを交互にみていた。


 「えーとね、森の奥にね、みたことない不思議な塔があってそこでね。スキルでテイムしたんだよ。ずっと失敗してた獣を従えるスキルが成功したんだ。それで一緒に帰ってきたんだけど、帰りに見つけた野イチゴが美味しかったらしく、もっといっぱい採れって」


 スキルが成功したというところで、ちょっと嬉しさが隠しきれない感じをだしながら、さっくりした説明をつづける中でも、またコゲ茶色のふさふさした手のびてきて野イチゴを数個拾っていった。


 あわてて箱の蓋をしめたソーンは、ミリアにとりあえず、採取したキノコごと渡そうとしたところ、背中ごしに、ふさふさしたものが非難の声をあげた。


 「ふむ、なんじゃ、その少女はソーンの雇い主か、箱を渡すのか、赤いの、野イチゴとやらは、まだまだ食べたりんぞ」


 それを聞いて、ソーンが何か言おうとする前に、箱を受け取りながら、ちょっと驚いてミリアが珍しそうに聞いてきた。


 「そのビースト、しゃべるんだ、成功したって、ビーストテイムだよね。へー、はじめてみた。名前はあるの?見た目は可愛い感じだけど、お手とかするのかな」


 白いローブからすっと手をのばして手のひらを、茶色い尻尾にちかづけたミリアだったが、それにあわせてソーンの首に巻いていた、ふさふさした尻尾がはずれて、近寄ってくる手のひらにのせると思った瞬間に、ぽんっっと音がしそうな勢いで、ミリアのもう片方の手にもっている箱を尻尾で器用に奪いとった。


 「あっ、こら、何するの。悪い子ね。ソーンどうにかしなさいよ、飼い主でしょ。こらっ、返しなさい」


 ふさふさの尻尾をミリアの前に垂らして、それをつかもうとして、ばたばたとしている少女を横目に、箱をあけて、食事を再開しだした、見た目は可愛いビーストに、あわててソーンは駆け寄った。


 「クーマ、だめだって、野イチゴは多めにあげるから、箱を今すぐミリアに返して」


 それを聞いた、ふさふさした毛皮のビーストは、ひょいひょいと器用に野イチゴをひろいあげて、口に放り込むと、手早く蓋をしめて箱を両手に持って、頭の上に掲げるようにすっと持ち上げ、ふよふよとミリアの前に浮かんでおりてきた。


 「こちら本日、採りたての新鮮キノコじゃ。ありがたくお納めくださりませ」


 ムっとした表情で、その箱を受け取り、蓋をあけたミリアは、すぐに非難の声をあげて、またふさふさした尻尾を追いかけだした。


 「あぁー、野イチゴもうほとんどないじゃない、こらっ、クーマっていうの、まちなさい。悪いビーストめ!」


 キャッキャッと笑うような鳴き声をだしながら、怒ったミリアの周りをくるくるとクーマが回っている。それをみていたソーンは、これはこの後、どうなるか予測してそーっと建物の入ってきたところへ移動した。


 「えーと、ごめんね、ミリア。それは受け取っておいて、次の分の箱はまたとりにくるから、クーマ、家に帰るからついてきて」


 そう叫ぶと、返事も待たずにさっと建物から外にでて、走っていく。


 途中、ちょっと振り返ると、何か叫んでいる幼なじみの少女と、こっちに愉快そうに左右にふよふよ体よ揺らしながらとんでくるクーマの姿が見えた。



読んでいただきありがとうございます。つづきもまた読んでいただけると嬉しいです。

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