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第38話 迷子の子羊

 緑の草原の中に、遠目にだが茶色い丸い円のようなものが、ぽつぽつと見える。


 ソーン達が、歩きながら道の脇に見えるそれに近づいてみると、土を掘り起こした穴であることが分かった。


 その茶色の穴は、人が両手を広げて横になって入れるぐらいの大きさで、道に沿って、岩を避けるように、いくつも掘られている。

 不思議に思いながら進んでいると、そのひとつから、何やら鳴き声が聞こえた。


 「ニェー、ニェー、ニェー」

 

 ソーン達は立ち止まって、顔を見合わせてそれぞれの見解を述べる。


「なんだろう、何か生き物がいるのかな、あの穴の方から聞こえるね」

 ソーンがそういって首を傾げる。


「ん、確認するのか、何か罠かもしれないぞソーン」

 背中に担いだ槍を素早く手にとって構えて、耳を澄まして周りの音を確認しながらアルフがそう言った。


「えっ、罠なの?もしかしてあれとか、そこらの穴から狙われたりするの?こんな真っ昼間からとか、気を付けないとね・・・」

 のどかな風景で気が抜けていたのか、アイリが、急に慌てたように、腰に吊した剣の柄に手をかけて、周りに視線をはしらせる。


 その間も不思議な鳴き声は聞こえている。


 このままでは、埒があかないので、十分に気をつけながら、ソーンが穴の中を確認することにした。その後ろでは、アルフとアイリが距離を取りながら、周りを警戒している。

 穴の近くにきたソーンが、うまく見えなかったのか、穴の縁にしゃがんで、ちょっとだけ身を乗り出して穴の中を確認する。


「あっ、何かいる!わっ、わわわ」


 声をあげて急いで穴から離れようとしたソーンだったが、思いのほか、がっつりと穴の縁が崩れてしまい、一瞬にして姿を消した。

 慌ててアルフが穴に駆けよると土まみれになったソーンが白くてふわふわしたものを抱えてこちらに見せてくれた。


「ふう、びっくりしたけど、声の正体はこの子だね。子羊かな?どこから来たのかな」


 ソーンが胸元で抱えた、白いふわふわの毛をした子羊が、再び鳴き声をあげた。


「ニェー、ニェー、ニェー」


 すると突然、ソーンの背後の両脇から、白い手が伸びてきて、子羊を抱えたままで、あっと声をあげるソーンを素早く捕まえた。


 それを見た瞬間、アルフは穴に飛び降りて、ソーンの背後へ回り込んだ。槍を片手にいつもは横に垂れている黒い耳をピンと立たせて、全身の毛が逆立っている。

 アイリも腰の剣を抜いて構えて、穴へ近づきながら降りるかどうか、周りを見渡しながら判断に迷っている。

 

 すると、今度は、少し離れた別の穴から、急に姿を現した人が叫んだ。


「シュバルツがそこにいるのか!私の連れだ、ちょっと待って!」


 そう言いながら穴から這いだしてきて、こちらに近づいてくる。それを見たアイリが間にはいるように移動しながら剣を構えて、声をかけた。


「何?どういうこと、貴方は仲間なの?止まって」



 剣を構える女騎士アイリを警戒してか、少し距離を置いた位置で立ち止まった後、迂回しながら移動して、穴の中を確認すると、急に驚いたような顔で叫んだ。


「何をしているんだ君は!早く離してあげて!」


 その叫びに、びくっと体を振るわした後、ソーンが抱えていた子羊を手放すのと同時に、ソーンを捕まえていた白い手も離れた。

 あっさりと拘束を解いたので、アルフも槍は構えたままだが、警戒を少し解いて、ほっとした様子をみせた。


「ごめんなさい。迷子になっているのかと思って・・・」


 ソーンがあわてて、叫び声の主に頭を下げて謝る姿みて、今度は、逆に声の主があわてて返事をした。


「違うんだ!貴方にではなくて、そっちの方で・・・とにかく皆さん一度穴からでてきませんか」


 すると、ずっと黙ったままだったソーンを捕まえていた白い手の持ち主が答えた。


「何ダ、慌ただしいナ、落ち着つけヨ」


 みると、ソーンの背後で何事も無かったように、白いローブを着たソーンよりは少し背丈が小さい少年がやれやれといった風に手を広げている。頭のフードをはだけさせて、白い手よりも更に真っ白いところどころ桃色のメッシュがはいった長い髪が顔を隠しているが、隙間からは赤い瞳が見えている。白いローブとは対照的に、足下は結構ごつい黒光りするようなプレートが合わさったブーツを履いている。


 それを聞いて、穴の近くまできて、アイリと一緒に手をのばしてソーン達をひきあげていた、そろそろ青年に変わろうとしている年頃の少年が、声を荒げた。


「アドリー、君がそれを言うのか?元はと言えば、君が、こんなところに穴を掘るからだろ」


 ソーンの手をひいて穴からひっぱりあげてくれた際に、ソーンが見たのは、サラサラの金色の髪が耳の上で流され襟元くらいの長さで整えられていて、白いシャツに青いベスト、下は黒いスラックスのようなズボンが丁度いいくらいのサイズで足をつつんでいた。

 それとすぐに目につくのはその細い腰周りにぐるりとまわされているごつい皮のベルトと、丁度ベルトの横の部分にささっている円筒形の細長い筒が数本、そのまま後ろへ回ると腰からお尻のあたりをガッツリと覆うようにベルトに吊された無骨な金属製の物品。綺麗な生地を使っているベストはその下にあるシャツとぴったりあわさってあまりガッチリとはしていない身体には、とても似合っていた。


 全員が穴からあがってきて、一息ついて、各々手近な岩に腰掛けたところで、謝罪と説明を兼ねて話し始めた。


「まずは、私の連れが迷惑をかけてしまってすまない。それと紹介が遅れたが、自分はユシア、その問題ばかり起こすのがアドリーだ」

 続けて、ソーン達も簡単に自己紹介を行った。


 その間も先ほどの出来事と同様にあまり気にしていないのか、アドリーと呼ばれた少年は、なぜか、ソーンの横に座って、話には興味なさそうに足をぶらぶらさせながら、じーっとソーンの顔を見ている。

 そのソーンを挟むようにアルフが反対側に座って、ソーンの腕つかんだ状態で少し前に顔をだして、さっきからずっとアドリーを睨らんでいる。 アイリはちょっと離れたところに座って、クーマを抱っこした状態で、成り行きを心配そうに見ている中、困ったような顔で、ソーンが答えた。


「えーと、何か僕の顔に気になるところでも?あっ、さっきの子羊さんを勝手に捕まえたのはごめんなさい」

 するとタイミングよく目の前を歩いていた子羊が鳴き声をあげた。


「あぁ、子羊シュバルツを抱っこしていたのは構わないよ、ふらふらと出歩いてしまう癖があってね。こちらこそ、突然、アドリーが貴方を捕まえたことの方が誤解を生んで申し訳ない」


 頭を下げるユシアに慌てて問題ないことを答えるソーンだったが、今度はアドリーが口を挟んできた。


「コイツが穴に落ちてきて気づいてなさそうだったから、驚かせてやっただけダロ、大げさな奴らダ」

 プイッっと顔を横にしてグチるアドリーにユシアが声をかける。


「コイツじゃなくて、ソーン君だ。もう、勝手なんだから、すまないな。言うこと聞かなくて、本当に」


 頭を再度下げた後、金色の髪の端を指に絡めながら、ユシアが続けて状況を説明しはじめた。

いつも読んで頂きまして有難うございます。つづきも読んでいただけると嬉しいです。

ブックマーク、評価等頂けますと、更に、更に嬉しいです。

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