第36話 もふもふの力
「えーっ!そんなにするんですか?冗談ですよね」
思わず大きな声がでてしまったソーンであったが、そんな気にもなってしまう。
島からの渡し船が対岸の桟橋に到着してからも、相変わらず、ぐったりとしている見習い女騎士をそっとしておいて、目的地へと向かう馬車を探していたときのことだった。
どうやら、この時期はあまり荷馬車がでていないのか、丁度よく人を乗せて走ってくれる馬車が見つからない。駄目元で、忙しく荷を積み込むところを話かけてみたが、先ほどの状態だ。
驚いた顔で見ていると、荷馬車の主人がすぐに答えを明かしてくれた。
「まあ、冗談だ。高貴な騎士様の従者が必死で馬車を探しているから、値段をふっかけてみただけだ。すまんな。正直なところ荷があるから、人を追加で乗せられないんだ。おっ!そう怒るなって。お詫びに良いことを教えてやろう・・・」
今は、着いた船にのった荷を運ぶための馬車であふれているが、次の出航までには少し時間がある。その間に、今度は、船に荷を乗せるために、馬車がやってくるので、荷を渡した後の馬車を狙って、交渉するのが、安く乗るコツらしい。からかったお詫びに更にいい手を教えてくれた。
「あとは、それだな、そうそう、少し低めのところでかざしておけば、すぐに相手さんからやってくるだろうよ」
ありがとうございますと、まるで騎士の従者のように、礼儀正しく、お辞儀をするソーンにあわせて深々とお辞儀をする荷馬車の主人は完全に、悪ノリしているが、教えてくれたアドバイスを信じて試してみることにした。
半信半疑だったが、湖の港の桟橋付近で、言われた姿勢をとるソーン。
その手には、ふさふさの茶色い毛皮と尻尾を揺らして、少し眠そうに、ふよふよと浮かぶクーマの姿があった。
「本当に、こんなので、馬車に乗れるようになるのかな?もしかして・・・いや、これも冗談だったりしないよね」
素直なソーンは、隣でそれをじっと見ている友人に話かける。すると、すぐにアルフが答えた。
「ん、森の木とかに縛って待ってたら、モンスターとか釣れそうだし、いけるんじゃないか、よく見ると、魅力的だ・・・」
クーマのふよふよと揺れる茶色い尻尾をじっと見つめる、友人の獣人の目つきがなんだか怖い。クーマの安全のためにも早く馬車がみつかるといいのだが。
___しばらくその姿勢をしたままのソーンが、うんうんと唸っている見習い女騎士を心配そうに見ていると、突然、クーマが小さく声をあげた。
「ぐぇっ!尻尾は引っ張るもんじゃないぞ」
その声を受けて、そっと下をみると、小さな女の子が、茶色い尻尾をつかんで、良い笑顔をみせている。
「わぁ、すごいふかふか、このコのおナカもさわっていい?」
その質問に、すっとソーンがうなずくと、お腹に顔をうずめて、女の子は、もふもふと全力で、弾力を楽しんでいる。
「おおっ、いいケナミだ、イイモンもってるねダンナ」
どこで覚えたのか、そんな言葉を呟いている女の子を見つけて、近くの馬車から保護者らしき男の人がやってきた。
「ミナ、遊んでもらってるのかい。おっ、珍しいな、君のペットなのか?その茶色いもふもふは」
なるほど、確かにいい手だったみたいだ。早速、事情を話して、馬車に目的地まで乗せてくれる人を捜していることを伝える。
するとミナの親父さんが笑顔で、返事をくれた。
「あぁ、あいつの紹介か、確かにいい手だな。構わんよ、荷馬車も帰りは、ほとんど空の予定だし、途中までになるが、ちょっと重くなる分頑張る馬のおやつ代くらいでどうだい、それと・・・」
そう言って、親父さんが提示してきた料金は、さっきの金額と比べると全然安かったので、すぐにお願いした。
あと、乗っている間は、もふもふのレンタル付きというのも了解した。
「ミナ、良かったな、帰りの間、一緒に遊んでくれるそうだ。もふもふは大事に扱うんだぞ」
それを聞いて、わぁっと嬉しそうに、茶色い毛玉を抱いて、馬車に向かって駆けていく女の子の後を、よろしくお願いしますとソーン達もついていった。なすがままのクーマが意外と大人しいのは、島でアルフに振り回されていたのよりかは、全然優しい扱いのせいだろうか。
「あとで、クーマにはお礼言わないとね。そうだ、ちょっと買い物してこよう」
まだ出発までに時間があるか、ミナの親父さんに確認したあと、ソーンは、港の近くで、籠を並べて商品をおすすめしている行商人のところで、目的の品を探しはじめた。
____揺れる荷馬車の中、まだ船酔いから回復していないアイリの横で、ご機嫌な様子の女の子が、抱っこしている茶色い毛皮のもふもふに話しかける。
「どうして、こんなにしっぽが長いの?もふもふさん」
すると、茶色いもふもふが答える。
「悪い子を長いしっぽで捕まえるためじゃよ、お嬢さん」
それを聞いて、ミナは笑いながら次の質問をする
「もふもふさんは、どうしてそんなにお口が大きいの?」
すると、茶色いもふもふが赤い口からちろちろと舌をだして答える。
「悪い子を追いかけて食べるためじゃよ、お嬢さん」
あははっと笑い転げる女の子。見ると、もふもふからのびた茶色い尻尾でくすぐられているようだ。
その横で、ソーンが港で買い込んだ、リンゴを袋から取りだして、それぞれ手渡した。
「ありがとうクーマ。あとミナちゃんもどうぞ、そのままでも食べられるかな?半分に切ったりした方がいい?」
そんなソーン達のやりとりの隣では、相変わらずぐったりしているアイリの膝枕で、すやすやと眠るアルフ。平和な馬車の旅はもう少しつづくようだ。
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