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第35話 島の遺跡

 島の桟橋を歩きながら、目の前に広がる景色をあらためて眺める。


 島の全域があまり広くないであろうことは、ゆるやかに湾曲していく浜辺の遠くに別の桟橋がみえることから、なんとなく理解できた。

 目が慣れてきたので、別のところをみると、島の中央付近にみえる絶壁にそって登っていく石畳のスロープがある。その先には観光地の目玉である遺跡があるのだろうか。

 そうこうする内に、桟橋を渡り終えたが、まずは、アイリさんの介抱かなとソーンは思った。


 「ごめんね、ソーン君、思ったより揺れるのね、渡し船って」


 湖上の風の受けた影響か、まだ髪が広がったままの状態のアルフに支えられるようにして、桟橋を渡りきった見習い女騎士アイリが、ぐったりと座り込みながら、申し訳なさそうに口を開いた。

 

 「修行が足りないなアイリは、あと、やっぱり重いぞ、そんなだから、船の揺れに耐えられないんじゃないか?」

 無邪気に感想をのべるアルフに、手をかしてもらった手前、文句もいえずにプルプルと喉まででかかった言葉を耐えるアイリだった。


  まずは、荷物を置いて休める場所かなということで、丁度いいテーブルと椅子がいくつかある場所をみつけたので、そこまで移動していると、少し離れた建物から、両手に籠を下げた女の人がこちらにくるのに気づいた。

 

 「いらっしゃい、船酔いかな?ちょうどいい薬があるよ。あと、冷たい果実と飲み物もどうだい」

 

 笑顔で語りかける店員さんに、なるほど、確かに丁度いい場所だと感心しながら、お勧めの品を注文する。

 一息ついたところで、まだちょっと、ぐったりしてテーブルにもたれているアイリさんが、ソーン達に提案した。


 「あぁー、もうちょっと回復までに時間がかかりそうなの。店員さんの話だと、あの崖の上に遺跡があるらしいけど、あたしのことはいいから、興味があったら、ソーン君達は行ってみる?せめて荷物番くらいはしてるから」


 その様子を心配そうにみていたソーンだったが、アルフがきょろきょろと落ち着きがないし、正直なところソーンも遺跡に興味があったので、提案にのることにした。

 ゆっくりでいいからねと、見送られたソーン達は、早速遺跡につづく石畳を登っていくことにした。

 ゆるやかに上がっていくスロープをしばらく進んだところで、ふと目線を湖の方へ向けると、さきほどまでの桟橋付近が眼下に見えた。


 ソーンの思った通りに、あまり広くは無い島の全景がみえる。

 あのあたりかなとソーンがすっと目を凝らしてみた。


「アイリさんは、あっ、いたいた、大丈夫そうかな?向こうの桟橋の方が人が多いみたいだね」


 ソーン達が到着したところより離れた場所の桟橋付近は、結構人が歩いているのがみえる。思ったより遺跡付近に人がこないのは、観光に来ている人ではないからだろうか。

 ほどなくして、スロープが終わり、平坦な道に変わる、ソーンはちょっと息を切らしているが、アルフはさっきから両手に抱えたクーマをぶんぶんと振り回しながら、とくに疲れをみせる様子はない。


「ふーっ、到着かな、遺跡っていうのは?」


 顔をあげたソーンの目にはいってきたのは、光を反射して輝く目も覚めるような真っ白な景色。

 どうやらこのあたり一帯に白い石が敷き詰められているようだ。


 光を片手で遮りならが、ざっと見えるのは、中央部分を囲むように、柱?か何かの巨大な土台のようなものが6個ほど、それぞれの土台からは、中央に向かって、すり鉢状になっている階段と一番底になっているところの広場のような場所が見える。

 それら全てが白い石で出来ていることから結構、迫力があるというか綺麗だ。


 流石にここまでくると、ちらほらと人がいるようなので、観光地に来たのかなって気がする。

 光を反射して、白く眩しく光る白い石畳を歩いていると、なんだか懐かしいような感覚を覚えた。

 

 階段を駆け下りていく、アルフとその背中に背負われて、階段を降りる度に、ガクンガクンと体を揺らしている茶色いもふもふを見て、ソーンはふと思い出した。

「そうか、白い塔か、クーマと出会った塔もこんな白い色をしていたような気がする・・・」

 

 ずいぶん昔のような気がする記憶をたどりながら歩いていると、階段も終わり、広場のようなところにでた。中央部分には、四角の祭壇のようなものが置かれていて、先に到着していたアルフ達と合流した。


「なんだろうね、これ?祭壇か何かなのかな」

 不思議そうにソーンがみていると、アルフがそっと背中からクーマ降ろして祭壇にのせて、自分もあがって祭壇に寝そべったのをみてあわててソーンが声をかける。


「えーっ!何してるのアルフ、そこ勝手に登ったら駄目とかないかな」

 あわてる友人ソーンを横目に、アルフがすました顔で答える。


「ん、なんか寝床にいいなと思って、ひんやりして気持ちいいぞ」

 すると、ふっと突然、祭壇の奥側に人影が現れた、どうやらしゃがんでいたところから立ち上がったらしい。


「そういう使い方もあるみたいね。楽しそうでなによりだわ」

 ちょっとびっくりして声をあげそうになったソーンが、ひと呼吸して落ち着いてから、声の主をみた。


 全体的に黒い服装が白い遺跡の中ではくっきりと見える、女の人のようだ。

 すみれ色の髪を耳のあたりから紐を組んでまとめて、両側に流している。フードがある上着はローブのようなものを腰のところで鮮やかな色をした組み紐で絞っていて、腰には本のようなものが収まった皮のベルトを着けていた。


「えーと、すいません騒がしくして、もしかしてここを調べてたりしますか?」

 昔、村でちらっと見たことがある、調査団にいた学者達のような雰囲気からそう素直に思ったので訊ねてみた。


 とくに怒った様子もなく、すみれ色の髪の女性が振り返って答えた。

「いえ、もう終わったので大丈夫よ、それよりどうして調べてるって思ったの、観光客って思わなかった?」


 すっと、ソーンの方をみて疑問を投げかける。


「それは、昔みた、学者さんって人達が同じような格好してた気がしたのと、ここって遺跡って聞いたので、そういうことなのかなって」

 それを聞いて、腰のベルトから本を取りだして、パラパラと数枚めくった後、学者風の女性が答える。


「そう、半分当たりね、この遺跡はかなり古い時代に作られたものよ、ただ建物部分がほとんど残ってないので、この祭壇ぐらいしか見るものは無さそうだけど、まあちょっと立ち寄りついでに見ておきたかったので、ほとんど観光客みたいなものね」

 そう言うとパタンと本を閉じて、腰のベルトに戻しながら、ごゆっくりと手を振って歩いていった。


 その姿を、ぼーっとソーンがみているのが気になったアルフが、このやりとり中も気にせずに、ゴロゴロとしていた祭壇から急に起きあがった。

「ん!なんだソーン、何見てる?」


 すると、まだぼーっとしているソーンが呟いた。

「学者さんってかっこいいかも、僕も本をパタンってしてみたい」


 それを聞いたアルフは、ソーンが見ている先を確認したあと、あわてて祭壇から飛び降りて、ソーンの目の前を遮りながら答えた。


「そろそろ、アイリが待ってるかと思うから、帰ろうかソーン」

 両手を開いたり閉じたりして、先ほどのシーンに名残惜しそうなソーンの手をひいて、アルフはそそくさと階段を登っていく。その後、置いて行かれそうになったことに気づいたクーマが何やら怒りながら後を追いかけてきた。



 ___アイリにソーン達が合流する頃、大きく角笛が鳴った。丁度次の出航の準備ができたようだ、船頭さんに聞いていた桟橋付近に人が集まりだしている。


「じゃあ、再度、船旅ですね。アイリさんにはちょっと酷かもですが」

 ソーンがそう言うと、アハハハと力ない笑い声をだしたアイリを、アルフが支えながら、桟橋へと遅れないように歩きだした。

いつも読んで頂きまして有難うございます。つづきも読んでいただけると嬉しいです。

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