第31話 夜の帳
日が沈もうとする頃、
ロックウェル達の馬車も動きを止めた。
目的地である湖は、もう少し先になるが、ここからは徒歩で進むようだ、冒険者の内から3人が先行して偵察に出発してしばらく時間が過ぎた。
辺りは徐々に暗くなりはじめていた。道から少し入った場所に止めた馬車から荷物を降ろして、移動する準備をしていると、先行した内の1人が戻ってきて状況を伝えた。
___予定通り、湖の船着き場付近にターゲットが滞在しているようだ。
確認できたのは、商人風の老夫婦が2人、馬の世話などをしているところを確認したことから、荷馬車の持ち主か何かだろう。それと、護衛役としてか、剣を携えてプレートメイルを着けて武装している女性の騎士が1人と、比較的軽装だが槍を背負っている獣人が1人と、非武装の少年が1人いるがこれは騎士の従者か何かだろう、小さな茶色の生き物を連れているのも確認できた。
偵察の結果を受けて、残りの冒険者とヨンフさん達とロックウェルは合流して、今回の作戦について認識をあわせた後、静かに各自の配置場所へ移動をはじめた。
「・・・うむ、我々は、後続班として、少し離れた場所から様子をみる、君は更に離れた場所から状況を観察しておいてほしい」
暗くなってきたので、夜の色と区別がつきにくくなってきたが、いつものように緑の外套をゆらしながらヨンフさんがそう言った。
「分かりました、ヨンフさん達も気をつけて、予定通り、僕はできるだけ離れた場所に隠れています」
そう答えながら、ずれた眼鏡を戻し青年が続けて呟いた。
「・・・戦闘になるんですよね、向こうには関係の無い商人の方達もいるみたいですし、できれば穏便に話し合いとかで済まないものでしょうか」
それを聞いたヨンフが、じっと眼鏡の青年をみつめた。
「・・・君はあまりこういった仕事には向いてなさそうだな・・・ただ、それもよかろうと最近気づいたところだ。・・・残念だが確実に戦闘になるだろう、こちらのことは気にせず、君は依頼のことだけを考えていたまえ」
そのやりとりをみていた、青い髪の子供達が、2人の話が終わった頃合いをみて、ヨンフの横に歩いてきて、それぞれが言い放った。。
「しっかりと隠れておいてよ、お兄さん。相手に見つかると人質にとられそうな顔してるからね」
「・・・ロックは、戦いの邪魔になる。絶対にでてきちゃ駄目」
覚悟はしていたが、散々な言われように、肩をすくめて、全力で隠れていますと答えるロックウェルだったが、つづけて声をかけた。
「ローナとニーナも気をつけてね、これが終わったら、さっきの村に一緒に寄らないかい?これまでのお礼に君たちが好きそうな甘いものを探してあげるよ」
それを聞いた青い髪の子達が、白い仮面でよく見えないが真剣な表情から少し子供らしい喜びの顔がみえた気がする。
「お兄さん、良いこと言うね、楽しみが増えたよ」
「・・・いっぱい買うから、荷物持ちは怪我しちゃ駄目」
そんなやりとりをそっと眺めていたヨンフがそろそろいくぞと促すと、すっと静かになった2人が後をついて行った。
____長い時間が立った気がするのは緊張からなのか。
完全な夜の闇に覆われて、辺りは少し先が見えるかどうかの状態だ。
若干下り坂になっているのか、ロックウェルが隠れている岩場から、かなり遠目にだが、湖らしきものの近くで、ターゲット達が野宿をしている灯りがみえる。
そこから、離れた場所にこちらは灯りも無く見えないので、作戦ではだが、冒険者の一団が潜んでおりタイミングを見計らっているはずだ、そのままこちらに続く道の途中に、ヨンフ達が待機していると聞いているが、暗いのと遠いこともあってか、比較的夜目がきくロックウェルにもまったく何も見えない。眼鏡の青年は複雑な思いでその状況をじっとみつめた。
____一見すると冒険者のような格好をしている一団、そのリーダー役の男は、偵察班よりの報告を聞いて、誰に聞こえるでもなく心の中で安堵の声をあげた。
「楽勝じゃないか、武装した者が2名、移動手段は馬車のみで、逃げられることもないだろう。前任者は何をしてたんだ、道中で怪我でもおっていたのか?まあ予定通りすすめるとしよう」
慎重な性格もあってか、こういった依頼を確実にこなしてこれたのは、たとえ簡単な結果が想定されても、計画通りに淡々と事を進めることが出来た事も大きいだろう。予定通りに、夜が更けるのを待っていたときに、それは起きた。
ターゲット達が寝静まり、火の見張り番が交代してから少し時間が過ぎたところで、ちろちろと燃えていた野宿の灯りが急に掻き消えた。
時間としては、ちょうどそろそろ襲撃のタイミングだったために、準備はできていたが、想定とは違う動きに、リーダー役は焦っていた。
「どうした?気づかれたのか。火が消える直前まで、人が動いた気配は無いが。仕方ない動くか」
合図をだして、静かに一団が動きだしたところで、背後の闇から、急に声をかけられた。
「何じゃ、こそこそと。また、冒険者が湧いておるわ」
___夜の闇は深く、黒く染まった世界はまだ始まったばかりだ。
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