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第30話 特別な依頼

 馬車が駆ける。

 今回の探索の中で一番の速度で駆けていく。

 獲物を見つけたのかそれとも、まるで何かから逃げるように。


 あの最後の村からずっとこの調子だ。

 慌てた様子で、村からもう片方の探索班が戻って来ると、馬車を走らせて、こちらに駆け寄りながら、すぐに南へ向かうように告げた。

 

 訳が分からないままに、馬車に押しこまれるようにして、ロックウェル達も出発した。



 ____大街道と違って、あまり整備されていないのか、南の道はところどころ凹凸があり、速度をだしているせいか、時折、馬車が大きく跳ねる。その度、軽く腰を打ちつけてしまうことに辟易しながら、ロックウェルが疑問を口に出した。


 「どうしたんですかね、こんなに慌てて・・・イテテ、うかつにしゃべると舌噛みそうですね」


 少し考えごとをしていたのか、間をおいてから、向かい側に座っていた、ヨンフが答えた。

 「・・・ふむ、早く獲物に追いつきたいのか、それとも何か虎の尾でも踏んだのか」


 それを聞いて、不思議そうに眼鏡の青年が訊ねる。

 「あの村に何かあるのですか、心当たりでも?」


 懐に手を入れて何かを確認するような仕草をした後、ヨンフが答えた。


 「・・・聞いた話だが、あの村は、名前が無い村らしい、規模が小さいのも原因みたいだが、どういう理由か名前をつけないことにしたそうだ」


 一旦、そう告げたあと、ヨンフが続けた。

 「・・・君は、なぜ名前をつけないと思うかね?」


 訊ねられた眼鏡の青年は、少しの間、首を傾げるようにしていたが、自信が無いのかボソボソと答えた。

 「よく分からないですが、まだ村の規模が小さいので、遠慮しているのでしょうか・・・村の名前が無いと訪れるときに説明できずに困りそうですが」


 それを聞いて、軽くうなずいたヨンフが答えた。

 「・・・やはりそう思うか、村の中も調べておきたいところではあったが・・・むしろ良かったか」


 ふむふむとなにやら納得しているヨンフに、困り顔のままのロックウェルだったが、実は他にも困ったことがあった。


 「えーと、この子達は何でこちらに居るんでしょうか」


 両側から、肩にもたれるようにして、青い髪の子達がロックウェルをはさんでいる。そう言っている間にも、片方のショートの青髪の子が膝に頭をのせてごろんと転がった。

 「揺れるから、兄ちゃんをクッションにしとけばいいかなって」

 「・・・枕が騒ぐな、甘いものの無いロックの利用価値は枕ぐらい」

 そう言いながら、ローナとニーナが、わらわらと眼鏡の青年にのしかかってくる。


 それを見たヨンフが、諦めたように、すまないねと答えてくる。

 「・・・うむ、君は隙があるから安心するんだろう」


 つづけて子供達も答える。

 「そうそう兄ちゃんなら素手でも勝てそうだから安心」

 「・・・ロックはすぐに狩れそう、平和な顔」


 褒められてるのか貶されてるのかよく分からない顔で、はあ、とロックウェルは答えるしかなかったが、そうこうしているうちに、馬車が速度を落として停まりだした。


 急いで進んだために、それなりの距離を稼げたことと、馬の休憩を兼ねて、少し休息することになった。

 ロックウェル達も馬車から下りて、あたりを見渡すと、まばらな緑の陰に腰をかけるのに手頃なサイズの岩があちこちにあったので、各々分かれて座った。


 ふーっと、一息ついて、ふと道ばたをみると結構な数の茨が群生している。

 「誰かが手入れをしているのかな、だいぶ村からは離れているようだけど」 

 茨を手に取って見てみると、鋭い刃物か何かで刈り取られたような切り口をみせるところがいくつもあった。


 ロックウェルがそんなことを考えていたところ、ヨンフが突然険しい表情をみせて、緑の外套の懐から何かを取り出した。

 みると、取り出した紙の1つが青く燃えていた。

 驚いた眼鏡の青年が訊ねる。

 「それは、何かの知らせですか?」


 「・・・うむ、札が焼かれた、放った獣が撃退されたようだ」

 燃え尽きる紙をみつめていたヨンフがうなづきながら、馬車の近くにいる他の冒険者のところへ状況を伝えにいった。

 そのまま、何人かと相談をしているようだったが、ほどなくして、こちらに帰ってきた。


 「・・・このまま追跡をつづけるそうだ、この位置だと、多分、接触は夜になるだろう」


 そう告げると、ヨンフは2人の子達に視線を送った。

 すると、すっと2人が立ち上がったが、先ほどまでの年相応な無邪気な様子は消えていて、はじめて見かけたときのように得体の知れないような気配を纏っていた。


 どうやら休息の時は終わったようだ、馬車に乗り込む際に、ヨンフがロックウェルに呟いた。

 「・・・そろそろ本題にはいるようだ、君も依頼内容を忘れないようにな」


 馬車が再び走り出した、今度はあまり急いではいないようだ、夜へ向けて、ひたすらに馬車が駆けていく。眼鏡の青年は悩んでいた、旅の結末がどこへ向かっているのか、願わくば見つからないで欲しいと祈るばかりだった。


読んで頂きまして有難うございます。また続きを読んで頂けると嬉しいです。

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