第29話 追跡
最後の村に到着してすぐに、探索隊は2班に分けられた。
村を探索する班と、大街道を含む村の周辺を探索する班で、ロックウェル達は村の周辺を探索する班になったようだ。
大街道から村へとつづく道の先で、馬車から下りたロックウェル達は、大勢の他の冒険者達が村へと進んでいくのを遠目に見ながら、それぞれの思いをめぐらしていた。
「村の探索は別の班か・・・なかなかお土産が買えないなぁ」
探索も終盤を迎えてきている中で、そういえば帽子の少女に頼まれていたことをふと思い出して、残念そうに村を眺めていると、緑の外套からなにやら紙の束を取り出したヨンフさんが問いかけてきた。
「・・・村が何か気にかかるのか?」
そういいながら、いくつかある紙の中から、目的の1枚を探しあてたようで、束から抜き出しつつ、地面にそっと置いた。
「いえ、ちょっと別件を思い出して、それより何をされているんですかヨンフさん」
本来の依頼をそっちのけで、私事に思いをはせていたことをすこし申し訳なくなった眼鏡の青年があわてたように問いかけた。
ロックウェルの視線の先には、地面に置いた1枚の紙を中心に、どこから取り出したのか、黒い木の棒のようなもので、円を描くように、なにやら文字というか文様のようなものを淡々と刻んでいくヨンフの姿があった。
「・・・ふむ、我々がこちらの探索班となった理由だな、村に用事があったのならば、申し訳ないが・・・」
そう答えたところで、手に持った黒い棒を円の中央の地面に置かれた紙に押しあてると、突然、ボッと青い炎が舞い上がった。
「うわっ、大丈夫ですか、ヨンフさん」
驚いた表情で駆け寄る眼鏡の青年は、続けて足下に突然現れたものに、びっくりして、その場に、転倒してしまった。
「お兄さん、いいリアクションするね」
「・・・ロック、やっぱりすぐ死んじゃいそう」
一部始終をすこし離れた場所でみていた、青い髪の男の子と女の子が呆れたように呟きながら、近づいてきた。
儀式を終えて、すっと立ち上がったヨンフの足下に、先ほどロックウェルが慌てた原因となったものが、控えていた。
数としては3匹、鋭い牙が口元にみえるが舌をだして、茶色の毛皮の先では軽くしっぽを振っているので、なかなかしっかりした体躯の獣であるが安心できそうな気がした。
「・・・ふむ、追跡に適した獣の召還だが、その様子では、はじめて目にしたようだな」
そう説明しながら、懐から巻物を取り出したヨンフが、足下によってきた獣の鼻先に掲げると、獣達が数回鼻を鳴らした後、それぞれの方角に、さっと分かれて走りだした。
「・・・ふむ、これで我々の仕事も半分終わったようなもの、少し周辺を調べたら移動だな」
巻物と紙の束を懐にしまいながら、ヨンフがローナとニーナにいくつかの指示をだした後、やっと落ち着いた様子のロックウェルが話しかけた。
「すいません、変に驚いてしまって、田舎育ちなので話しに聞いたことはあったんですが」
ずれた眼鏡を直しながら照れたような表情をみせる青年に、ヨンフは、何事も経験ですなと特に気にするでもなく深い緑の外套を揺らしながら答えた。
「・・・それで、君はどう見えているのかな、お互いの調査をあわせてみたいのだが」
それを聞いて、意表をつかれたような表情をみせたロックウェルが、さきほどより更に照れるような仕草で、首の後ろに手をまわして掻きながら、少しうつむき加減に答えた。
「その、そんなに調査というほどではないんですが、大街道沿いには、荷馬車と馬を駆った痕跡や人の足跡が多いんですが、少し古い気がします。馬車の轍で一番新しいのは南の方角へ向かう道のものですね。ずっと追ってきた荷馬車は大街道沿いに東に向かったように見えますが」
それを聞いたヨンフは、納得したように頷きながら呟いた。
「・・・ふむ、やはり大街道沿いに向かったか・・・」
お互いの認識は一致したが、先ほど放った獣が大街道沿いに東に向かったのと別に南の方角にも向かっていったことが気がかりで、考えをめぐらしていたところ、村の方角から騒がしい音聞こえてきた。
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