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第2話 儀式

_____まどろみの時間。

夜の闇がすっとおりてきて、

明かりを消してすぐの静かな時間。

ふかふかの毛皮につつまれて。そっと目を閉じて。頬をつつかれる。

あれ?


「おい、寝るな。あと、重いぞ」


ふかふかの毛皮が頬にあたる。とても暖かくて気持ちがいい。

でも、このまま寝てると、本当に二度と起きられなくなる気がして、

なんとか目を覚ました。


「おはようございます。とても、とてもふさふさです」

 目を覚ますと頭がふさふさの毛皮につつまれていた。


「ふむ、本当に迷子じゃったようじゃな。塔にこれた冒険者にしては、あまりにもあっけない。はじめての迷子の訪問者じゃ」


 頭をぐいっと持ち上げて、ふさふさした毛皮を下からのけながら、スルリとクマの子が抜け出して、再び、ふよふよと浮かんでいる。


 「そのざまで、どうやってここまで来たんじゃ、よく死なずにこれたもんじゃ、砂漠もどうやって?扉もくぐれたもんじゃなかろうし・・・」


 とても不思議そうな、くりくりした赤い目でこっちを見てくる。

 場違いな感じがしてなんだか申し訳なくなってきたが、一応、思い当たるところがあったので、答えてみた。

 「なんだかごめんなさい。でも、壁に隙間があったのと、よく分からないけどなんだかズレた空間があって、それが原因でこれたんだと思います」


 その答えを聞いて、何か思いついたのか、うなずきながら、クマの子がついてこいと手招きした。

 「ふむ、これがその壁の隙間か、お主が寝ておる間に少し試してみたがここから外には出られんかったが、、、っん」


 クマの子がこっちをみながら不思議そうに呟いたと思ったら、こちらに近づいてきた。

 「お主、使っておらん技能スキルがあるが、それは何か意味があるのか」


 すっと、クマの子が額に触れてきた、すると、頭の中に思い出した言葉が浮かんでくる。

 「えーと、ビーストテイマースキルですか、何でそれがあるのが分かるんですか?ギルドの人が覚えられるってことで教えてくれたんですが、使っても失敗つづきで、忘れてました」


 それを聞いて、クマの子が赤い目をすっと細めて、少し嬉しそうにほほえんできた。

ちょっとまた寒気がしてきたのはなんだろう。


「ほうほう、それは使わんともったいないのぉ、どれどれちょうど良いところにビーストもおることだし、ひとつ試してみてはどうかの」


 そう言うが早いか、ふさふさのしっぽが首に巻き付いてきた。

「えぇ、どういうことですか、わわわわわ」


 頭の中に声が響く、


『ほれ、我と同じ言葉を唱えてみんかい、あとお主、名はなんという?』


「えっ、あっ、ソーンっていいます。えぇと、今ですか」


 問答無用で頭の中に声がつづいた。


『我、此なる獣に命ずる、我の勇敢なる友として、我ソーンの契約の元、共に生きよ』


「わわわ、我、コレナル獣に命ズル、我の勇敢なる友として、我ソーンの契約の元、共に生キヨ・・・でいいのかな?」


 頭に響く言葉通りに、たどたどしく唱えおわると同時に、

右手のあたりに熱くなるような感覚を覚えたので、ふと見てみると。


 開いた手の平の上に、赤く光る指輪と同じく赤く光るチョーカーのようなものが浮かんでいるのが見えた。


 すると、クマの子がすっと手をのばして指輪をひろいあげてそのまま指にはめている。

その瞬間、残っていたチョーカーが消えたかと思うと、ソーンの首が赤く光り、その後、赤いチョーカーが装着されているのが見えた。

 どうやらこちらはソーンがつけるみたいだ。そうなの?


「ふむ、名前、我に名前がいるみたいじゃの、ソーン、主よ、何か思いつくのがないかのぉ」


クマの子がこちらをちらりと見ながら、名前をつけてくれと頼んできた。


「えぇぇ、名前ですか、元々の名前ってないんですか」


クマの子はふるふると首をふっている。えっないもんなの?

「んー、んー、んんんん、じゃあ、クーマでどうかな、どうですか」


クマの子はこっちをみている。じっと見ている。

「ほうほう、クーマとな、クーマ。ご主人様これからよろしくじゃ」


クーマは赤い目を細めながらご満悦の笑みを漏らしている。

その瞬間なんだか、ぞくっと寒気がした。


「さてさて、儀式もすんだことじゃし、本題へ移ろうではないか」

クーマが急に真剣な赤い目をしながら、おいでおいでしている。


その先には、壁に黒い亀裂がはいっている。

「これをくぐって外にでてみたらいいんですね」


クーマが先にいけと合図してくるので、よくわからないけれど、黒い亀裂を通って塔の外にでてみた。

すると、塔の中からすぐにでてくるかと思ったクーマがなんだか、ふみとどまっているみたいに、中でふるふると震えている。


「どうしたのクーマ、外にはこないの、中に戻ったほうがいい?」


そういいながら、中へ帰ろうとすると、すっと制止してきた。

「いあ、いいんじゃ、外で、外でいいんじゃ・・・」


なんだろう、外にでるのに抵抗感があるのかな、そう思って、クーマの手をそっとつかんで外へと誘ってみた。ふさふさの毛皮が少し震えていた。


黒い亀裂をくぐり、するすると、茶色い毛皮がみえてくる。

白い塔からするりと茶色の全身がくぐり抜けた。


とたんにクーマが震える声をあげた。

「ほぉお、でれた、でれた、ソーンでれたよ。でれた、キャキャ」


なんだかとても嬉しそうにふさふさした毛皮をゆらしながら、

クーマがキャッキャッと空中で踊っている。なんだかぐっとくる。


____その後は、クーマは早くここから離れようというので、とりあえず家まで戻ることにした。ちなみに、塔の入り口にはクーマ曰く『しばらく不在にします探さないで』と書いておいたので気にしなくていいそうだ。






つづきも読んでいただけると嬉しいです。

追記:誤字脱字修正しました。

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