第26話 新たな冒険者
ちょっとした違いを見つけるのが得意だと思った。
朝起きたときに、昨日の晩に寝る前にみた、景色と違っているところを、なんとなく違和感を感じて見つけることができた。
窓からの夜風に、戸棚の上で少し向きを変えた地図の巻物、花瓶に刺していた花がしおれて、いくつか無くなった花びら、時には、いたずらものの隣の家の猫が通り過ぎていった後の庭先に並べた植木鉢のちょっとした位置のズレなど。
気にしてないと全く気づくこともなく、過ぎ去っていくような出来事も、なんとなく目にとまり、前の状態を思い出し、比べてみることができた。そんな特技が何かに役立つとは思うこともなく、月日は過ぎて、両親の家業の手伝いとして、畑と家の間を往復する毎日がいつまでも続くと思っていたある日のこと。
子供が帰ってこないと、隣の家のおじさんが血相を変えて、家の玄関の外で叫んでいた。小さな村では、大きな事件で村人総出で捜索をはじめた。夕方近くになっても見つからないと、最悪のケースも考えないといけないと村の役人に言われて、いつも笑顔のおばさんが肩を落として泣いているのを見て、しばらく忘れていた感覚をふと思い出した。
一緒になって村中探していたときに、感じた違和感。
村のはずれを流れる小さな川に架かる橋の欄干に泥がべっとりついていた。そこから見える景色で、川にそって生える草がところどころなぎ倒されながら、下流へと続いていくのが見えた。すぐに人を呼んで、川沿いをひたすら下流へと、日も沈むかという間際で、見つかった。
流れが早くなった川の中央にぷかぷかと浮かんでいた。
流木に必死につかまる幼子をみた村人は我先にと川に飛び込んだ。
後から聞いた話だと、お気に入りの帽子が橋を渡っているときに、飛ばされて川に落ちてそのまま流されていくのを必死でとめようと追いかけていたらしい。流木にひっかかった帽子を川に飛び込んでつかんだところで、流れが速くて流されてしまったそうだ。
それから、ちょくちょく捜し物の依頼がくる。
髪は少しボサボサした感じで耳にかかるくらいの長さの黒髪に、少しズレた眼鏡の枠を両手で軽く押して、定位置へ戻しながら、少しくたびれたような薄い青色の服を着た青年が村はずれの橋を渡りながら、そんなことをふと思い出していた。
家業を手伝う傍らで、冒険者まがいの依頼をこなしていたが、今回は少し毛色が違うようだ。畑を荒らす獣の進入路を見つけたり、倉庫にしまいこんで分からなくなった指輪を探すのとは、まず報酬の額が違った。
眼鏡の青年、ロックウェルは、悩んでいた。
なじみの情報ギルドに依頼が届いたときに、真っ先にロックウェルが適任だろうとなったのは頼りにされて嬉しいことだが、今回の依頼内容はこうだ。
商人隊の馬車が旅の途中で分かれたメンバーの痕跡を辿るということらしい、どうも連絡がとれなくなって何か困っているようだ。
村をでて調査に行くことは何度かあったが、結構な遠出になりそうで、不在の間の労働力のカバーとして、報酬を前金で半額貰えるというのも、魅力的ではある。
「でも、なんだか、不安というか、しっくりこないんですよね」
ギルドに呼ばれて、説明を受ける間に、依頼者も紹介されたが、みるからに旅慣れた冒険者というか、もっと厳しいような印象を感じた、傭兵?あまり楽しい旅にはなりそうにない雰囲気を纏っていたのも、いまいち乗り気にならない原因だろう。
「ただ、今年は、トラブル続きで、先日の変な地震の後の片づけに、お金があると助かるんですよね・・・」
原因は未だに不明だが、村の至るところで、地盤沈下や、土砂くずれ、畑や水路が崩壊して、修繕に人出もお金も不足しているところだった。
ぼんやりと悩みながら橋を渡り終えたあたりで、後ろの方から、眼鏡の青年を呼ぶ声がする。思い当たる声の主を想像しながら、ゆっくりと振り返ると、もう橋を半分くらい渡ってきていた。
少し小さめの帽子を斜めにかぶって、走っている間とばないように押さえた手をおろしながら、息を整えるように何度か、大きく呼吸をしたあとに、眼鏡の青年を呼びとめた少女が話だした。
「ギルドの依頼を受けるの?皆どうしたものかと悩んでたよ、ロックに相談してみようかって、皆困ったときに頼りすぎよ」
帽子の合間から、くるくると茶色のくせっ毛がみえる少女が、口をとがらせながら、呟いた。ちょっと怒り気味の表情でも、大きめの瞳が心配そうに青年をみていることから、怒っている理由も色々あるみたいだ。
ロックウェルは少女の呟くような問いかけに、少し微笑みながら答えた。
「エリシャは優しいね、でも皆困っているなら、村の誰かがなんとかしないとね。丁度、僕が適任な依頼のようだし、役に立てるなら嬉しいことだよ」
それを聞いて、ちょっと困ったようにうつむきながら、エリシャと呼ばれた少女が、ぼそっと呟いた。
「それはそうなんだけど・・・、ロックが依頼を受けたら、しばらく村を離れるんでしょ」
うつむいてよく表情がみえない少女を元気づけるように、ロックと呼ばれた青年が答える。
「うーん、そんなに長くはないと思うよ、概ね大街道沿いに調査するみたいだし、城塞都市に買い出しに行って帰ってくるよりは早いんじゃないかな」
いつも元気な少女がいつになく、ふさぎ込んでいるので、逆に心配になってきた青年は、いいことを思いついたのかつづけて話だした。
「そうだ、大街道沿いってことは、いくつか遠くの村にも立ち寄れそうだから、何かいいお土産を買ってくるのでどうかな、例えば、ちょっと小さくなってきてるし帽子とかどう?」
お土産の言葉で、ちょっと興味がでてきたのか、顔をあげた少女が、帽子のことになると、また顔を伏せて答えた。
「帽子はこれが気に入っているから大丈夫。お土産は楽しみかも」
やっと少女が少し元気をだしてくれたので、ロックは安心して、お土産をもって帰ってきたら真っ先に連絡すると約束した。
まだ話たりなそうな少女に、そろそろ準備をして出かけないとと説得して、眼鏡の青年は、そっと手を振って歩き出した。
「お土産か、忘れないようにしないとね、帰ってきてすぐに買い出しにでかけることになりそうだ。誰が出かけても危ない依頼なら僕がでることでなんとか戻ってこれるかな」
畑を荒らす獣の巣を探すときに、必死で逃げ帰ったことや、倉庫で強盗に出くわしそうになったことなど思いだしながら今度もきっとうまくいくと自分に言い聞かせて、早足で家路についた。
読んで頂きありがとうございます。前回から、間があいてしまいましてすいません。。続きもまた読んで頂けると嬉しいです。




