第20話 動く棘
「アルフは茨の動きをみて本体を探して!ロブルドさん達は馬車で待機で、アイリさんはあまり離れないように側の茨を順番になぎ払ってください。僕は松明の火で追い込んでみます」ソーンが叫んだ後にすぐさま、各自が配置についた。
ゆっくりと続くと思われた馬車の旅も思いの外すぐに中断した。
____村をでた馬車は、大街道を少し西に進み、南方へ向かう街道が交わるところで、大きく南へ進路を変えた。大街道と比べるとあまり舗装されていない、凸凹道を進むと、周りは岩がごつごつしたような中にまばらに緑が生えているくらいの景色になり、少し砂が風に混じって舞っている。
ガランゴロンと音を立てながら、時折大きく揺れる馬車にも慣れてきたところで、突然、馬車が動きを止めた。
荷台に乗っていたアイリは、すぐに荷台にかけられた幌をめくって、御者台の端に座っていたソーンに状況を確認する。揺れる馬車の動きが眠気を誘うのかアイリの膝に頭をのせて寝ていたアルフも、いつの間にか起きて幌の間から外の様子をうかがっている。
御者台に乗っていた、依頼人のロブルドさんがすっと右手で指さした先に、不自然なくらいに緑が集まった場所がみえた。その岩場付近だけは密集したように茨が生えていて、丁度馬車の車輪ぐらいの高さまである茨は、横を通るには邪魔になりそうなぐらい道へ溢れている。
「あれが、今回の護衛依頼の元凶だ。お願いできるかね」
そう言いながら、御者台の背もたれの後ろにある鉈をとりだして、刃の状態を確認するロブルドさんを見て、ソーンがうなづいた後に答えた。
「分かりました、でもロブルドさん達はここで、少し距離をとった状態でいてください。棘のモンスターがどう動くか分からないので、御者台からは降りないように。危ないと思ったら馬車ごと離れてくれても大丈夫です」
荷台から松明のような棍棒を取り出して、準備しながら、ソーンが皆をみてうなずいた。
_______配置についた後、ソーン達は、ギルド長に事前に聞いていた通りの茨の棘の対処を開始した。
まず、ソーンが持参した黒い鉱石と木材を先端にいれて火をつけた松明を、茨の棘に近づける。草が焼けるような臭いがあたりに充満するが、気にせず次々と松明を移動させていくと、時折、茨の棘が動いて火から遠ざかろうとするので、すかさずアイリがその茨を根本から剣で切りつける。すると、ざわざわと茨の動きが伝わって動く茨と動かない茨があることが分かる。
聞くところによると、動く茨には本体があり、それ以外は生えているだけの植物の茨のようだ。それを外側から順番に文字通り切り分けていくのが今回の作戦だ。本体は地中にいることが多いそうで、たぶん茨の棘が密集している中心あたりだろうとギルド長はいっていた。それを見極めるのは近くの岩を上って少し高台になったところからアルフがじっと探していた。
道沿いに横移動しながら、ソーンとアイリが茨を選別する。
「少しづつ、中心へ動きます。アルフどうかな?」
ソーンがアルフが登っている岩のあたりに声をかけると、すかさず返事がきた。
「まだ、分からないな。もう少し奥のほうだとは思う」
アイリが注意深く側の茨を切りながら、ソーンに目配せする。それにあわせて松明を近づけるが、心なし動かない茨が増えた気がした。
「ん、こちらは本体から遠ざかってるのかな」ソーンが疑問に思った瞬間に、アルフが叫んだ。
「ソーン!離れて、地中だ、棘が下からでてくるぞ」
突然ソーン達の足下から地面を割っていくつもの茨の棘が鞭のようにしなりながらでてくる。アイリがソーンに駆け寄りながら、剣でなぎ払うが、数が多く処理しきれない。あわてて叫ぶ。
「ソーン君気をつけて!火の届かないところが危ないわ」
松明をもったソーンの正面からでてきた茨は火を嫌がってか、すぐに遠ざかるが、足下と後ろからでてきた茨はそのままの勢いでソーンに襲いかかる。なんとか体の位置をいれかえながら、かわすが次々にでてくる茨のいくつかが体に当たり、ソーンの手足に切り傷が増えてきた。アイリは防御は鎧にまかせてひたすら切りつけている。
「思ったより、棘が成長しているみたい。痛い、イテテ、一旦下がろう」
ソーンがそう言って、後ろに踏み出した足に、茨が巻き付いたかと思うと一斉に周りの茨がソーンに巻き付いてきた。
「わわわ、また!もう、痛い、イテテテ」
それを高台からみていた、アルフが我慢できなくなったのか、ソーンめがけて飛びかかってきた。両手から生えたするどい鉤爪で次々と、ソーンに巻き付いた茨を切り裂いていく。
アイリも加わって、なんとかソーンが茨から脱出できたところで、アルフが叫んだ。口元からは牙がみえて、全体的に毛が逆立っている。
「グルルルル!ボクもう我慢ムリ。全部!全部狩ればイインダ!」
ソーンが襲われたのも怒りをかったのか、アルフが手当たりしだいに茨を切り裂きだした。それをみたソーンとアイリもまあそれもありかなと思うくらいの勢いだったので、作戦を変更することにした。痛む手足をさすりながら、ソーンが叫んだ。
「アルフ、大体でいいからここだと思うところに槍を何回か刺してみて、手応えがあったら一気にいこう」
次々と茨を蹴散らしながら、中心部へ向かっていたアルフがそれを聞いて、背中の槍に手をかけた、抜き打ちで周りをなぎ払い、そのまま槍を手に、地面を蹴って飛び上がる。遠目にも大体中心かなと思うところに思いっきり槍を突き刺した。槍の隣にすっと降りてきて並んだアルフが首を傾げている。
「んー、ちがうカナ。ここカナ?ここカナ?」
ぶつぶつといいながら、アルフが槍を、ブス、ブスと地面に刺しては抜いて、刺しては抜いてしている。ソーン達からみるとなんだか適当に見えるが、本人は真剣だ。
「あー!コレだ、ソーン!当たりダヨ」
アルフがそう言うと、槍の柄に手をかけて、上空に飛び上がった。
そのまま今度は自分の足を槍の柄めがけて蹴り込んだ。
大きくズンッ!という音と共に、槍が真ん中くらいまで、地面にめり込む。あわせて、茨が一斉にびくびくとのたうちまわるのが見えたが、じきに動かなくなった。
その後、アルフが槍をぐいっと地面にむけてひねると、なにやら、巨大な、茶色い塊が地面から現れた。いくつもの茨がつながったそれは、モンスターの本体だろうか、ブチブチと茨を切りとばしてから、槍ごとずるずると、ソーン達のところまで引きずってきたアルフが心配そうな顔でソーンをのぞきこむ。
「大丈夫か、ソーン。怪我してないか?」
それにはすぐにソーンが答える。
「大丈夫だよ、ちょっと切り傷できたくらい。それよりアルフは凄いね、一気にとどめ刺しちゃったよ。格好良かった」
先ほどの勢いに興奮したソーンがそう言ってアルフを見つめる。
「そうか、ボク格好良かった?そうだ、コレはソーンの作戦通り狩れたぞ。流石リーダー!ばっちりだったぞ、帰ったらミリアにも自慢しないとだ」そう言うと、アルフがちょっと屈んで頭をソーンにむけてきた。
なんだろうと不思議そうにソーンがそれをみていると。
「んー?ご褒美待ちだぞ、ソーン」アルフがソーンの手をとって自分の頭にのせる。
「えーと、もしかしてヨシヨシする話かな?あと作戦というか、最後は臨機応変だったよね。ほとんどアイリさんとアルフの活躍だと思うよ」
答えながら、ちょっと艶やかな黒髪を触ってみたいという興味もあってか、ソーンはアルフの頭をなでてみた。するとすぐにアルフが反応した。
「んー、思ってた以上に、いいぞヨシヨシ。あにゃニャウ?もう!耳はダメだよ。ソーンは強引だなぁ」
ちょっと手がずれて、ソーンがアルフの黒い耳に触ってしまったときに、アルフがこそばそうに声をだして、顔をあげて離れた。
ソーンもちょっと、予想外の出来事に、あわてて頭を下げた。
それを、じーっとみていたアイリが、頃合いとみて声をかけてきた。
「お疲れさま2人とも、ここも落ち着いたみたいだし、さっきから心配そうにこっちを見てる依頼人のロブルドさんにまずは報告に行こうか。大きな怪我もなくうまくいったね。流石、リーダー」
まずはひと安心という気持ちと、しばらくはリーダーいじりが続きそうかなという予感を、ひしひしと感じたソーンだった。
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