第18話 馬車護衛依頼
今度の馬車護衛依頼は、真っ当といえるだろうか。不安な気持ちは顔にでるのか、ソーンの顔を見たミリアは心配そうに、ソーンの横まで来てみたが、隣でアルフと腕組みしているところをみては、下を向いて、何だかそわそわしている。アイリはテーブルに座ったままで、その様子をみて、なんだか自分でもよく分からないもやもやした気分に悩まされていた。
「それで、荷馬車を護衛して、途中からは違う道を行くのであってますか。今度は囮みたいなケースは無いものと思っていいんでしょうか」
ソーンはひと通り話を聞いたところで、ギルド長に間違いがないかと自分の認識があっているか念のために確認してみた。
「その認識で合ってますよ。しかも、道中は馬車に乗せてくれるそうですので、前と比べると大分楽だと思いますよ」
そう答えるギルド長だが、注意点も教えてくれた。
「ただ、護衛となっているように、どうやら大街道と同じく、棘のモンスターがでるようです。今回はこれを討伐するのが合わせての依頼になっていますね」
詳細な内容としてはこうだ、大街道は現在蜘蛛の巣により封鎖されており、同じく、はびこっている棘もどんどん増殖しており村独自で伐採を続けているが、あまり良い状況では無いらしい。それが飛び火したのか、南方へと続く道側にも、棘の増殖が確認され、今回は南方から商売に来ていた荷馬車の持ち主から帰り道の護衛と、できれば、今度も来れるように棘の増殖が少ない内にくい止めてほしいとの依頼だ。
棘の原因については、ギルド長の方で心当たりがあるらしく、話を聞くところでは、まだ規模が小さいので、駆除もできるだろうということだ。
「ギルド本部の方は、アルフ君に説明しておきます。それと、馬車と分かれてからは、今度はアルフ君を護衛してほしいので、ちょっと今回役立ちそうな道具を持ってきますね」
そう言うと、ギルド長は階段を上がっていった。例の2階の倉庫から何か持ってくるようだ。アルフとソーンは顔を見合わせて、大丈夫かなとつぶやく。ほどなくして、いくつかの道具をもって、爽やかな笑顔のギルド長がやってきた。
「これは、アルフ君に。棘の本体は地中にいますから、この槍で思いっきり突き刺してやってください。あと、ソーン君にはこれを、この鉱石も一緒に。アイリさんはこのブレストプレートを使ってみてはどうでしょうか、以前見かけたプレートメイルは少し防御に頼りすぎる傾向がでますので、修行中でしたら動きやすい装備の方がいいと思いますよ」
そう言ってギルド長が、それぞれに道具を渡しながら簡単な説明を加える。そこでアイリが受け取った鎧の軽さにびっくりしてたずねた。
「これって、金属製にしては軽すぎる気がします、もしかして魔法の品でしたら、私にはちょっともったいないと、、、」
すると、ギルド長がすかさず答えた。
「いえいえ、元のプレートメイルも相当な品ですよ、あれの代わりに勧めるならそれぐらいは必要でしょう、アイリさんにはソーン君とアルフ君をしっかりと守ってもらわないといけないですからね」
少し悩んだが、とっさに動くためには、今の自分ではこちらの方がいいだろうと判断して、ありがたく借り受けることにした。
アイリの話が終わったところで、今度はソーンがギルド長に質問する。
「えーと、これって、そもそもなんでしょう。杖のような、棍棒のような?先端がちょっと籠っぽくなってますが」
すると、ギルド長が満面の笑みで答えた。
「いい質問です、ぐっときますね。これは、この持ち手の先を引くと、先端が開いて、そうそう、この中にさっき渡した鉱石をいれたり、木材をいれたりして火をつけて使うんです」
それを聞いたソーンが思いつく道具の名前を答えた。
「えっ、これって松明なんですか、みるからに鉄製っぽいんですが、熱くて持てなくなりませんか」
待ってましたとばかりに、ソーンの目を見つめて、にやっとするギルド長にしまったという顔をみせるソーン。
「そこは、しっかりと魔法の仕組みの出番ですよ、この持ち手付近の中に、、、それと、、、棍棒のように殴打できるような強度も、、、さらにはこの黒い鉱石がなかなかの熱量で、、、これは実は神官長が昔愛用してた武器のレプリカで、、、」
久々に聞くギルド長の骨董品解説がはじまり、しばらくは解放されないだろうと諦めたソーンは、せめて使い方だけでも覚えておこうと、ふんふんといつになく真面目に話を聞いていた。
おのおの受け取った道具を調べる中、ミリアはとくに何も受け取ることなくその様子を見ていた。同じく何も受け取っていないクーマがふよふよと毛皮の尻尾をゆらしながらミリアの側にきてたずねる。
「お主は、何も貰わんのか、あの棍棒とかソーンより使えそうじゃが」
それを聞いたミリアが、じっとクーマを見た後、何か反論しようと口を開けたが、すぐに閉じて少し寂しそうに答えた。
「そうね、でも、あたしには必要無いから。今回もお留守番ね、皆が無事に帰ってくるのを祈っているだけよ」
ミリアはそう答えると、少し寒気がしたが気のせいかなと思い直して、ソーンの側へと歩いていった。それを見送ったクーマが、誰に聞こえるでもなくつぶやいた。
「ほう、遠くには行かんのか、誰の教えかの?」
ほどなくして、骨董品解説を終えたのか、ギルド長が、クーマの近くにやってきた。それを見たクーマがそっとソーンの側へ移動しようとすると、やんわりと制止するようにギルド長が話しかけてきた。
「貴方にはお渡しできるものが無いですが、ソーン君達を守ってくれると思っていいでしょうか。とくにアルフ君には絶対に手をださないようにお願いできますか」
それを聞いたクーマが動きを止めて、何か考えていたようだったが、すぐにこう答えた。
「ほう、ほう、怖いの。ソーンにテイムされた身じゃから、主人が守る相手であれば、勿論大事にするじゃろうて、いずれはソーンのテイム仲間にもなるかもしれんしの、そこは先輩として見守ってやらんとな」
想定していた回答にギルド長は満足したのか、つづけての言葉は少し楽しそうだった。
「そうですか、じゃあ、たびたびの夜の散歩の件は、伏せておきますね。引き続きソーン君達を見守っていてくれるとこちらも、いらぬ心配をしなくてすみますので」
そう言うと、ギルド長は、右手を上げてひらひらとさせながら、満足気にいつもの定位置の椅子まで戻って、ぐったりともたれかかって呟いた。
「いつかは旅立つものですから、そろそろ神官長もそのあたりを理解してほしいところですね」
今度の任務の出発は2日後ということだ。ふとソーンはこのところ何だか忙しくなってきたねと不思議に思ったが、そんな時もあるのかなと深くは考えなかった。今回は少し遠出になりそうかなと、旅の準備に心が踊っていたので、ソーン自身が、実は旅行好きなんだろうかとしみじみ思うので精一杯だった。
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