第16話 ギルド員
ギルドの黒い建物で、一際目立つ白い扉を開いて中に入ると、
前回とは違って、第一声、元気な声が掛かってきた。
「あっ、こんにちわ、ソーン!久しぶり」
あいかわらず、入り口横のカウンターでは、ギルド長がぐったりと椅子にもたれるように座っていたが、ギルドの象徴でもある告知板の前で映し出される内容をメモしていた人物が振り返りながらそう答えた。
少し予想していたのか、その挨拶にはソーンとミリアが同時に答えた。
「こんにちわ、アルフ、久しぶりだね」
「こんにちわ!ソーンだけじゃなくて、あたしもいるんだけど」
その返事を聞いて、メモしていた手をとめて、告知板の前から、こちらに向かってくる人物はアルフと呼ばれる、この情報ギルドのメンバーの一人だ。
ギルド員らしい、黒い制服を着ているが、背中のあたりが大きく空いていて、同じく黒いタイトスカートの両側にはスリットがはいっている。その黒い服装がよく似合っているのは、開いた背中付近で、さっきからぶんぶんと大きく振られている、白と黒のふさふさした獣人特有の尻尾があるからだろうか。白い手足は短い毛皮に包まれていて、足下の編み上げのサンダルからみえる部分は黒い毛皮になっている。髪は後ろで束ねているが艶やかな黒髪に少し白いメッシュがグラデーションのようになっている。頭の両側で伏せたようになっている黒い耳も歩くたびにぴくぴくとわずかに動いている。
「やあ、ごめんごめん、ミリアもいたね。それでどうしたの今日は」
近くまでやってきた、アルフは、メモを制服のポケットに仕舞いながら、ソーンとミリアが並んで立っている丁度間にはいるように割り込み、ソーンと腕を組みながらそうたずねた。それをみたミリアがさっそく抗議の声をあげる。
「あっ、アルフ、こら、どこに割り込んでるの、貴方ちょっと近いのよ」
それを聞いたアルフが、どう勘違いしたのか、ぐいぐいと掴んで離そうとする、ミリアの腕を逆の手で捕まえてそのまま自分の手と組みだしながら答えた。
「ん、何、ミリアもボクと腕組みたいの?」
「そうじゃなくて、んー、貴方いつも通りね」
そんな、親友達のいつも通りのやりとりをみていたソーンが提案した。
「えーっと、このままだと話しづらいから、テーブルの方に移動する?」
その提案を聞いて、アルフがギルド長の様子を見てみると、ひらひらと手を振っている。あの状態でも一応、話を聞いているようだ。
_____空いたテーブルに一同が席についたところで早速、ソーンから話しだした。ちなみにソーンの両側には、それぞれミリアとアルフが座っている。向かい側には、アイリが興味深そうにその様子をみている。ソーンの頭付近には、ふさふさした尻尾を首に巻き付けながらクーマがふよふよと浮かんでいた。
「えーと、はじめての人をまずは紹介しておくね。こちらは騎士修行中のアイリさん、この後で、話をする護衛依頼の件で知り合ったんだ、今は僕の家で空いてる部屋をお貸ししているよ」
その紹介を聞いて、アイリがすっとお辞儀した。
「はじめまして、アルフさん、ソーン君のところでお世話になっているアイリです。これからよろしくね」
それにあわせて手をのばしたアイリとアルフが握手をする。
「こちらこそ、よろしく。ボクとソーンとミリアは幼なじみなんだ、ソーンは世話が得意だから、うらやましいな。ボクもそっちに引っ越そうかな、部屋空いてるよね」
そう言って、またもやソーンの手をとろうとするとアルフを、今度は、ミリアが素早く掴んで阻止した。
「貴方はギルド長の世話があるでしょ、アイリさんも今、たまたまソーンのところにいるだけなんだから」
すると、不思議そうな顔でアイリが答えた。
「そうなの?いい部屋だし、しばらくはお世話になろうかなって思ってるけど。あっ、でも、ちゃんと生活費は払うから、そこはしっかり考えてるからね」
それを聞いたミリアが、カッと目を見開いて動きをとめた。
そんな状態に隣でミリアがなっていることに気づかないのか、ソーンが紹介をつづける。
「部屋は空いてるけど、あのギルド長を一人おいていくのはちょっと、僕も可哀想かなぁって、あと、今、頭の上にいるのが、クーマです。ついにテイムに成功したんだよ」
少し興奮気味に話すソーンとは対照的に、急に複雑そうな表情に変わった、アルフが答える。
「ギルド長の世話っていっても、宿から朝食運ぶくらいで、後は、ほったらかしなんだけどなぁ、むしろあっちがやたら構ってくるから、ここでたほうが平和なんだけど、、、テイム成功したんだ。クーマっていうんだね、、、名前とか付けたりしたの」
テンションが低いアルフを気にしながら、ソーンが聞かれたところを答えるついでに、やはり興奮気味に説明する。
「そうだよ、聞いたらとくに名前とかもなかったらしくて、名前も付けたんだ。果物が好きらしくて、あと、このお腹の毛皮がもふもふで、尻尾もふさふさしてて、夜も一緒に寝てるんだけど暖かいんだよ」
ソーンの説明を、じーっと聞いていたアルフが、一緒に寝ていると聞いたとたんに、クーマに鋭い視線をおくった後、ソーンに身をのりだしながら手をとって祝いの言葉とあわせて話しだした。
「テイム成功おめでとう、ソーン。ずっと失敗続きだったから、、、今度ダメそうだったら、、、ボクとかどうかなって思ってたんだけど。先こされちゃったかな。お互いの同意がないとテイムって成功しないんだよ」
尻尾をぶんぶん振りながら手を握ったままのアルフの突然の話しについていけない、ソーンに変わって、ミリアが割り込んできた。
「どさくさに紛れて何いってるの、アルフ。こら、聞いてる?」
それでも、手を離さないでアルフがつづけてソーンに語りかける。
「ソーンのはじめてのテイムはのがしちゃったけど、次でもいいからどうかな、もう1人くらいテイムしてみたくない?ボクもソーンにならテイムされてみたいなぁって、ずっと思ってたんだ」
だいぶソーンに近づいたアルフが小声で囁くように伝えた。隣ではミリアが必死で何か抗議している。向かい側でアイリが興味津々で見ているのを経て、ようやく、なんだか怪しい雰囲気に気づいたソーンが、答えた。
「えーと、アルフ落ち着いて、テイムを失敗つづきだった僕をフォローしてくれる気持ちは嬉しいけど、幼なじみのアルフをテイムとかちょっとなんか違う気がして。えーと、ちなみにテイムってそんなにいくつもできるものなのかな?」
ソーンも話しながら混乱してきたみたいで、収拾がつかないなぁと思ったのか、クーマが話しだした。
「そろそろ、護衛任務の報酬の件を聞いてほしいところじゃのぉ」
それにあわせるように、アルフの様子を見て、目が覚めたのかギルド長が丁度こっちに向かってくるところだった。
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