第14話 あいまみえる
「えぇー!?ちょっとどういうことなの、ソーン!」
白いローブを激しく揺らしながら、勢いよく扉を開けて現れた、幼なじみの第一声が、爽やかな朝に響きわたった。
市場で買い物をしているときに、今日は教会にこないなと思っていた、銀色の髪の幼なじみが、実は、ギルドで依頼を受けて任務をこなしていたと知って。翌日、心配で様子を見に来たとたんに、これである。
「おはよう、ミリア、どうしたの朝早くに」
皆で食卓に座って朝食中に、あわただしく訪れてきた、幼なじみに、事情がよくのみこめず、いつものように話しかけるソーンであった。
「どうしたのって、その女の人は誰なのソーン?」
別の用事で来たはずなのに、さっきから動転して大声を出しっぱなしのミリアで、突然の事態に、心の声が表にでっぱなしなのは、本人は気づいていないのだろう。
「そうか、はじめて会うんだっけ、こちらはアイリさんだよ、今、一緒に住んでるんだよ」
するりと、重要なことを言ってしまうソーンだったが、あまり言葉の意図は気にしていなかったのか、呆然としているミリアを余所に、そのまま説明がつづく。
「騎士の修行中なんだって、この前、参加した護衛任務の依頼ときに、知り合ったんだ。危ないところも助けてもらったんだよ。そだ、アイリさん、この前、話しにでた治療薬を作ったのが、このミリアなんだよ。僕と違って、優秀で凄いんだ」
ひきつづき事態がよく飲み込めてなくて表情が硬いミリアを、にこやかな笑顔で、テーブルの向かい側に座っているアイリに紹介するソーンだった。もくもくと朝食を食べていたアイリだったが、ソーンに呼ばれて、ようやく気づいたように扉のところに立ったままのミリアを見つけた。
「ふぁぁ、なぁに?ソーン君。あら?お客様なの」
どうやら、これだけ賑やかなのに、あまり聞こえていないようだ。もう一度、簡単に説明するソーンに、やっと少し目が覚めてきたのか、反応しだしたアイリだった。
「ごめんなさいね、このところ凄く眠くて、本当は寝てたいんだけど、ソーン君が、ご飯できたよって起こしてくれるから、折角なんでと思ったんだけど、やっぱり眠くて、、、」
そう言いながら、また寝始めたアイリに少し困った顔をするソーンを見て、ミリアが思いついたように、持ってきていた薬の瓶の中から1つを取り出してソーンに渡した。
「これを飲んでもらってみて、目が覚めるかも、そして、この状況のしっかりした話が聞きたいわ」
なんだか、気迫がある幼なじみの提案におされるままに、受け取った、薬をソーンはアイリさんに飲んでみて下さいと渡した。
「ふぁぁ、なぁに?これ飲むの。苦くない?」
なんだか寝ぼけ気味にアイリがむにゃむにゃ言いながらも、素直に薬の瓶を受け取って飲み出した。
「んんんん、はぁーーーー。ん、何これ。美味しい。すっきりする」
急に目が覚めたような声をあげて、目の前でとろけてテーブルにもたれかかっていたアイリが、しゃっきりと背筋をのばしながら答えて、いきなり、イスから立ち上がって、ミリアの手を握った。
「ありがとう、ミリアさんだっけ。貴方の治療薬に助けてもらってばっかりね。本当に凄いわ。ちなみに、これはどういった効果なの」
突然元気になった、アイリに少し戸惑いながらも、感謝の言葉に少し照れた顔のミリアが、さっき渡した治療薬の解説をはじめた。
「元気になって良かったです。これは、なんというか魔力を補給したいときに飲む薬で、あたしも、いくつか治療薬を作ってると、同じように眠くなっちゃう時があって、そんなときに飲むと元気になるんで、同じ症状かなって思って」
それを聞いて、なるほど、という顔でうなずくアイリ。お客様が立ったままもあれかと思ったので、ソーンを振り返ると、どうぞとうなずいたので、ミリアの手をひいて、テーブルへと誘った。そのまま、ちょうどソーンの隣が空いていたので、座るように案内した。
少し機嫌を直したのか、ソーンの顔をみて、ちょっとだけ目をふせたあと、すっと席に座ったミリアを確認したあと、アイリが話しだした。
「さきほどは、ごめんなさいね。このところあんな感じで困ってたの、ずっと夢の中のような感じっていうのかな。兎に角、ミリアさん。貴方のおかげね。お礼をしないといけないわ」
そう言ったアイリの変わりようは、はじめてみた時と違って、今は、しゃんとしており、騎士と言われればそうなのかもと思うくらいだ。
そのままつづけてアイリが説明をはじめた。
「そうね、細かいところは、またおいおい説明するとして、ソーン君から話しがあったように、騎士の修行中なの。それで、ここにいるのは、そこにいるクーマちゃんに助けてもらったお礼にソーン君をしばらく守ることになったからなの、これからよろしくね」
にっこりとミリアに微笑みかけて、話し終えたアイリに、真剣なまなざしで聞いていたミリアが少しほっとするような表情をみせたが、その後、するどい視線をクーマに投げかける。
「そうなんだ、修行の一環で、、、ソーンを守って、、、なるほど。クーマがね。ちょっと、どういうことなのか問いつめないと」
そのつぶやきの途中から、するするとソーンの背中から離れていく、ふわふわの毛皮をするどい眼光で追い続けるミリアであった。そのやりとりに気づいていないのか、さきほどの話の流れで、アイリがミリアに話しかける。
「それでね、ソーン君のお家が意外にも広くて、なんだか申し訳ないんだけど空いてる部屋を間借りしてるの。そうだ、そろそろ服とか買い出しに行きたかったんだけど、ミリアさん今日の時間とか良かったら、お店とか教えてもらえないかな?なんかこの格好だとソーン君がこっち見てくれないのよ」
そう言われて、あらためてミリアがアイリの格好をみると、たしかに少し薄着な服装な気がする、あと自分と比べて圧倒的に違う胸元をみて、ふとソーンを見ると、あわてて席を立って、朝食の後片づけをはじめようとしていた。自分が思っていたような事態ではないと判断したミリアは、お店の案内を快く引き受けた。
のちほど、市場の入り口付近で待ち合わせることを約束して、一旦、戻ることにしたミリアだったが、階段の影からそっと様子をうかがうクーマを睨みながら、話は後で聞くからねと忘れず宣言して帰っていった。
その後、アイリも朝食をすませて、いいですからと遠慮するソーンを無理矢理説得して、片づけを手伝っている時に、護衛の依頼報酬の件について話題になった。
まずは、状況を確認しようと言うことで、買い物ついでにギルドにも寄ってみることになったが、ソーンは家で用事を済ませてから出かけるということだ。
後からギルドで合流する約束をして身支度を済ませたアイリは、なんだかやっと気分も晴れて、久々の買い物に心躍らせながら、市場へと出発した。
いつも読んでいただきありがとうございます。また続きも読んでいただけると嬉しいです。
追記:誤字脱字の修正を致しました。