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第11話 巣へと

父は立派な騎士だった。

それゆえに、見逃せないことも多々あった。

騎士団は国の正義だった。

尊敬する父の死に、娘は泣いた。

遺品となった銀色の鎧は父が若い頃に着ていたものだ。

父のように正義を成したいと。

憔悴しきった母が止めるのも聞かずに、騎士を目指したのは。

寂しさからだったのかもしれない。

苦労しながらも騎士訓練校を進み卒業して、配属が決まるときに。

ふと立ち聞きしてしまった噂に。

全ての合点が行った。


父の死後、まったく訪れなくなった騎士団の面々。

遺族への国からの援助などはほとんど無く。

よそよそしい騎士訓練校の同級生。

先生もどこか厳しい採点をみせた。

母はずっと騎士などやめてほしいといった。


そして、配属は決まらなかった。私は修行をするといって家をでた。

もう、どうでもよかった。どこか遠くへ行きたかった。


誰でも受けられる護衛の依頼があると聞いたので参加した。

これがどういった依頼なのか、途中で気づいた。

出発したときから、途中の村に着くまでに、何人か居なくなった。


ついに私の番がきたと思った。




_______幾重にも白いベールにつつまれた。

真っ白い空間がそこにあった。ぼんやりとした景色は、淡い白色で表現され、ふわふわとした意識はまるで夢の中のようだ。

 

 このところ、ずっと安心して寝てないことを思いだし。そもそも夢ってどんなものだったかさえも想像できなくなっていた自分に驚いた。どうしてこんなにも心地よい夢の中で、目を覚ましたのだろうと不思議に思いながら、もう一度目を閉じようとしたところで、アイリは声をかけられた。


『ふむ、もう一度、目を閉じたら、最後じゃぞ』

それは、頭の中に響く聞いたことのある声だった。


『この声は、クーマちゃん、ここは、どうして?声というか頭に直接聞こえるの』

 アイリは声に反応して体を起こそうとしたがまったく動かない、それどころか、体の感覚が全くない。 うっすらと目がみえているぐらいだ。

 まわりと体はどうやら、白いベールで包まれていて、動けないようだ。


 それをみているのか続けてクーマが答えるが、姿は確認できない。

『ここは、巣というやつじゃな、さっきの奴が連れてきたんじゃろ、お主は毒が回っておるのが幸いしてか痛みがなさそうじゃが、瀕死の状態で耐えておる』

 そう言われてみると、体の感覚が無いので、気を失う前の痛みも感じていないようだ。つづけてクーマがさらりと言った。

『このままじゃと、喰われると思うが何か思うところはあるかの?』

 それを聞いて、とくに驚く風もなく、アイリが思ったままに言った。

『そう、最後は食べられるのね。じゃあ、もう、目をつぶってさよならするわ、ちょっとだけ怖いから眠ったまま食べられるといいな』


『ほう、あっさりじゃな、もう生きる気力は既に死んでおったか?』

 あまりにあっさりと目をつぶろうとするアイリをクーマが呼び止める。


『もう、疲れたの、丁度いいところかなって、もう目をつぶれば終わるんでしょ?』

 そういいながらアイリはいつのまにか、涙が目にあふれているのに気づいた。その姿を、どこから見ているのか、じっと黙ったままのクーマがふたたび話しだした。


 なぜだか、アイリは、少し寒気がするような気がした。

『ふむ、もう、死んでもいいと、、、なら丁度いいの』

 そう言うとクーマは続けて話し出した。

『お主が気まぐれで、助けたソーンがおるじゃろ。あれは、見ての通り、とても弱くて、いつ死ぬか分からんでの、守ってやってほしいんじゃ』

 

 さきほどから、眠いのかどうなのか、意識が遠くなりそうなところを、

なんとか気をとめて、ぼんやりと話を聞いていた、アイリもソーンの名前を聞いた時には、少し悲しそうな顔をしたが、無事のようなクーマの口振りにほっと安心した表情をみせた。


『でも、もう私は守るどころか、食べられて終わるところよ。ソーン君には感謝しかないけど、私の最後の旅に巻き込んでしまって、本当にごめんなさい、、、守ってあげたいけど無理なの』

 とまどうアイリだったが、なぜかまた涙が目にあふれてきた。


『ほう、守るのは了承したわけじゃな。ソーンもお主を気に入っておる。どれ、お主を助けてやるから、ソーンをずっと守ってくれんか』

クーマの提案に驚いて、アイリがたずねる。


『助かるの?この状態からどうやって、あと、ソーン君が私のことを、、、』最後の方は、つぶやくようでよく聞こえなかったが、姿もみえないクーマからの提案は不可能に思えた。少しの間、沈黙がつづいて、その後に、また頭の中に響くような声がした。

 ふたたび先ほど感じた、寒気がした。



『お主、使っておらん技能スキルがあるが、それは何か意味があるのか』


 唐突にクーマがたずねてきた。意味が分からないままにアイリが目を瞬いていると、突然、茶色の毛皮をしたクーマが目の前に現れた。驚く暇もなく、すっとふさふさの毛皮からのびた焦げ茶色の指がアイリの額に触れる。


『助けるとはいったが、口約束は嫌いでの。父は騎士といったの、家系か?

ほれ、続けて唱えてみんかい』


 そう、クーマが言うと、頭の中に続けて言葉がつらなってくる。


『主を守り、主の盾となる、聖なる魂の契約の元、此なる獣に命ずる、我アイリの聖獣として、主の命を共に守護せよ』

 アイリの頭の中に言葉が響く、聞いたことはないけれど、何か懐かしいような、フレーズに不思議と言葉が続いた。

『何かよく分からないけれど、唱えればいいのね。

___主を守り、主の盾となる、聖なる魂の契約の元、此なる獣に命ズル、我アイリの聖獣として、主の命を共に守護セヨ』


 すると、突然、アイリの右手のあたりに、ボッと青い炎が燃え上がり、円状になって回り出した、その中心あたりに同じく、青く燃える指輪と銀色の鎖のネックレスのようなものが現れた。

 それを確認した、クーマは素早く指輪を拾い上げて指にはめて、ネックレスはアイリの首にかけようとした。あれ?アイリが何故か直感で何か違うと思ったが、体が動かないためになすがままだ。


 ネックレスがアイリの首にかかった瞬間に、あたりの白いベールが青く燃え上がった。みるとアイリの全身から青い炎がでている。まったく動けなくなっていた先ほどと違って、全身青く光ってはいるが、すっくと立っている。

「これは?どうしたの、青い炎がでてる。熱くはないのね」

 突然の出来事に頭が混乱しているようだ。


「うむ、契約は成功したようじゃの、さっき唱えたように、聖獣として契約を交わしたのじゃ、これからは主であるソーンのために、尽くしてもらうからのぉ」

 うまくいったことを、さも当然と思いつつも、少し喜びが隠せないテンションだったが、忘れずに契約のことを伝えるクーマだった。


「主?ソーン君、これは、その契約からくるものなの」

 青い炎は、別に熱さはもっていないが、なぜか、じんわりと温かくなるような感覚を得て、アイリは不思議そうに呟いた。

しかし、その状態も長くはもたずに、青い炎がすっと消えると同時に、アイリもくずれるように倒れた。


「む、流石に限界か、今のうちに脱出じゃな、どれ」

 クーマがアイリを背後から抱えるようにして持ち上げようとした。

「む、むむ、これは重い、重いぞ、あとでしっかり苦情を言わんとな」

 ふらふらしながらもなんとかもちあげて、あたり一帯が青い炎で燃え尽きた巣から、ふよふよと上空へと運びだす。大蜘蛛も獲物を探して何処かに行っていたのか、突然の青い炎に警戒したのか、なぜか姿を現さなかった。



___後日、どうやって巣から助け出したかをソーンに聞かれて、途中をはしょりながらも、助けるときに見た目以上にとても重くて苦労したとクーマがそこだけは、しっかりと苦情をいった見返りに、アイリに追いかけまわされたのは当然の流れだろう。

いつも読んでくださってありがとうございます。つづきも読んでいただけると嬉しいです。

追記:誤字脱字を修正致しました。

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