第107話 吊るされるもの
「あらっ、お帰りなさい。意外と早かったわね、ソーン君」
日が陰りだして、いよいよ夜が近づいてきた景色の中で、大きく手を振って迎えてくれた、いつも通りの頼れる女騎士の姿をみて、安心したのか、
ふぅっと長い息を吐きだしながら、荷物を馬車の近くに置いたアルフと、早速、馬車の中へ潜り込むようにして倒れ込むマイを横目に、ソーンが経緯を説明する。
___遺跡の内部らしき場所のことと、ユシア達に再会したことなどを伝えると、アイリがうなづきながら答えた。
「なるほどね、そっちは思ったより大変だったのね、こっちはね、ヒメちゃんが大活躍してくれたから、まあ見ての通りよ」
そう言うと、改めて顔を上げてあたりを見渡す。
出発したときと比較して明らかに数が増えているのが、壁面に突き出た岩場へ何本も糸が渡された景色とそれに吊るされている綺麗に解体された魚肉の多さに、ソーンが尋ねる。
「えーと、この数だと、あれから追加があったってことですよね、無事…だったみたいですが」
「そうそう、なんかね、3回くらい群れの単位で、おかわりがあったんだけどね、ヒメちゃんが慣れてきたのか網を張ってこうガサッと捕えたりで~大漁だねって」
その言葉に合わせて、アイリが白大蜘蛛に向って笑顔で頷くと、大きく前の両腕をあげてこたえる。
あと、マイの結界も助かったよと馬車へ向かって声をかけると、少し遅れて窓からマイが手を振ってこたえる。
これだけの量であればそれなりの買い取り額になりそうですねと、解体と留守番以上の仕事をこなしたアイリ達に改めてのお礼と労いの言葉をかける。
「夕飯はね、早速だけどこの一夜干しをまだ途中だけどね、干した奴を焼いて食べようかなって、皆もそれでいい?」
はーい、と馬車の周辺からも声がするので、そのまま話を進める。
すると続けて、焚火の準備をしていたアルフが拾い集めた焚き木を並べながら話はじめる。
「アイリ、今回はちゃんとソーンを護衛できたからネ、エライって褒めても良いゾ」
それを馬車の中で聞きつけたのか、窓から眠そうにしている顔をだしたマイも答えた。
「そうそう、ソーン君やんちゃだから、アルフがいて助かったわぁ、私じゃ無理かもぉって」
突然の反省会が始まり、慌ててソーンが申し訳なさそうに話し出した。
「あわわ、ごめんなさい。この前見かけたあのモヤモヤっとした、なんというか、丁度、説明したかった入口があったからで…」
身振り手振りで、状況を説明するソーンの腰に飛びつくようにアルフが抱きついて、そのときの事象を再現する姿に、そうそうって顔でマイが頷いた。
「まあ、お互い無事にさ、1日を終えたから良かったんじゃない。そうだ、ヒメちゃん頑張ってたし、ギルド長から預かってた鉱石をお礼にあげてもいいんじゃないソーン君」
「えーと、そうですね、たしか馬車の中に…」
そういうと、立ち上がって、おもむろに馬車の扉を開けたソーンにマイが答える。
「あらら、ソーン君は本当にやんちゃだわ」
慌てて扉を閉めたソーンが謝りながら、変わりに馬車の戸棚の中を見てもらうようにお願いをする。
すぐに窓から差し出された鉱石を受け取ったソーンが、既に興奮気味のユキヒメに手渡しながら改めて感謝をつげると、ユキヒメからすぐに念話が帰ってきた。
『…ん。ソレ楽しみにしてた奴。早ク早ク、渡すとイイ』
早速それを受け取ったユキヒメが、器用に両腕の先で挟んで、くるくる回して観察していたかと思うと、すっと口元へと運んでバリバリと音を立てて咀嚼しだした。
その音を聞きながらアイリが感心するように頷いた。
「昼間のおやつ代わりにってあの丸い鉄の奴を食べてるときも思ったけど、あれが嚙み砕けるんだからやっぱりヒメちゃんって凄いよね」
その様子をみていたソーン達もつられるようにお腹が空いてきたので、じゃあ僕達も負けじと食べましょうとソーンが答えると、皆もそれに賛成して、大きく頷いた。
___朝も早くから、辺りに吊るしていた大量の干物を集めて馬車の荷台に積み込み、尻尾の部分は慎重にまとめながら、水を使用して空いた樽の中に重ねていく。
しばらくして、野営の片付けが済んだところで、ソーンが皆に声をかけた。
「じゃあ、遺跡調査はちょっと気になることもありましたが…無事に完了できたので、まずは街へ帰りましょう、ヒメお願いできるかな」
それに応えるように、白大蜘蛛が荷物が増えても来る時と変わりなく、力強く馬車を引っ張って進みだした。
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