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第106話 警戒音

緊迫した空気が流れる中、ソーン達は素早く対応を決めた。


「僕が武器を降ろして、様子を伺うから、アルフとマイ先生は、もしもの時の備えをお願いします」


小さく頷いた2人を確認して、ソーンが声をあげた。



「すいません、何を勘違いしているかわかりませんが、ここで休憩していたのが良くなかったのなら、ごめんなさい」


そう答えながら、岩陰から見えるようにして、棍棒を地面に降ろした。


両手を上げて、そっと顔をだしたソーンが更に答える。


「敵意は無いですから、そちらもその物騒な剣を納めて頂けないでしょうか」



その様子を遠くから警戒して剣を構えた男が何かを告げようとして思いとどまった


「素直なのは良いことだが…そちらに隠れている者達の武装解除がまだのようだ…いや、それは必要ないな、失礼したソーン殿、まずは謝罪させてほしい、そして安心して姿をみせて頂けますか」



突然、和らいだ雰囲気と謝罪の声に驚いたソーンだったが、改めて聞いたその声に気が付いて答えた。


「カインさんですか、どうしてここに。もしかして一緒に…」


それを聞いた、アルフも岩陰から顔をのぞかせた。


「なんダ、緊張して損したナ、マイも大丈夫、知り合いだゾ」



隠れたままも失礼かと思い、ソーン達が道へ向けて歩んでいくと、同じく馬車から見知った顔が降りてくる。


「つくづく奇遇ですね。ソーン君とお嬢様方にばったり出くわすとは、今日はいい日になりそうです。…しかしアドリーも分かっているなら教えて欲しいところですね」


白い長袖といつもの青いベストを着て金色の髪の端をくるくると指で巻きながら降りてきた、馬車の主人ユシアが笑顔で答える。

片手で抱えている子羊もいつものようにニェェェと挨拶をしている。


続けて、白に桃色のメッシュがはいった長い髪が馬車の入り口から一瞬みえてすぐに引っ込んだ。


「ん、やっぱり居ないカ、じゃあ用は無いナ」


アドリーは誰かを探していたようで、他には興味が無いようだ。




___森に少し入ったところで、よくみると豪奢な飾りつけが施された馬車から降りてきたユシアと傍らに控えているカインに合流したソーンが訊ねる。


「どうしたんですか、こんなところに…ってこちらも同じかもですが、僕達は情報ギルドから遺跡調査のクエスト中ってところです」



 ふむふむとサラサラした金髪を揺らしながら頷いたユシアが答える。


「それは丁度いいね、私達は所謂、仕事中というか、世界遺跡保存協会という団体のね、こう見えて会長をしているのだよ」



 それには、傍らで居心地を悪そうにしていたマイから思わず声が漏れた。


「えっ、協会の!こんなところでお会いするとは、遺跡調査の申請の際には通達文書では度々みかけてましたが…」


「そうそう、ちゃんとね活動している団体なんだよ。貴方は学者の方ですか、ご存じということは正規な調査をされているということで安心しましたよ」


 その返答には、一瞬、えっ?って顔をした後、慌てたように頷くマイに、微笑むユシアの姿になんとなく協会との力関係が見えてくる。




「今日はね、この先で長い間修繕作業をしている遺跡があるとのことなので、視察にいく予定なのだよ」


 馬車を停めている道の先を指差しながら、にこやかに説明するユシアに、ソーンが何気なく答える。



「そうなんですね、丁度その遺跡の中に、鎧がいっぱい並んでて…警報音が鳴ったから急いで離れて、何だろうねという話をしているところでした」

 


 それには、慌ててアルフが口を塞ぐ。


「あっ、こらソーン、それは言っちゃいけない奴だロ」


 思わず、ハッとした顔のソーンだったが、この際だからと不思議な入口の部分は誤魔化しながら説明を続ける。


「えーと、遺跡の入り口で兵士の方に修繕作業で危ないから中には入るなといわれて諦めて帰ってたら、何だか中へ入れる場所があって、降りていくと広間に武装した全身鎧が何百体も並べられてて…」




___一連の経緯を真剣に聞いていたユシアが、愉快そうに笑いだした。


「なるほど、流石ですね、いつもながらソーン君は素晴らしい。その情報が欲しくて、視察に来ていたようなものだよ。じゃあこれから先はこちらに任せてくれれば、鎧の件は伏せておくから安心してくれたまえ」


 これは楽しくなってきたなぁと、より一層の笑顔でユシアが頷いていると、今度は遺跡の方角から馬が駆けてくる音がかすかに聞こえてくる。


「おおっ、早速あちらから出迎えが来たみたいだよ。ソーン君たちは元のところに隠れて、私達が離れてから移動するといい」


 そう言うと、また会おうと手を振るユシアにお辞儀をしてソーン達は岩陰に戻って様子を見ることにした。




___ほどなくして、ユシア達の煌びやかな馬車のところに、騎馬の一団が到着した。



 停止している馬車を訝しみながら通り過ぎようとしていた一団に、馬車の窓から身を乗り出したユシアが声をかける。


「やあ、出迎えご苦労様です。世界遺跡保存協会の者ですが、わざわざこちらまで来てくれるなんて、嬉しいですね」


 それには、まるで想定していなかったかのように、驚いた顔で騎馬の一団の隊長格と思わしき人物が答える。


「いや、そのような話は聞いてはいないが…」


 すかさずユシアが話をつづける。


「あれ?そうなのですか、じゃあどうされたのですか、何やらお急ぎのようでしたが?見たところ遺跡の方角からこられたようですが」


 それについて一団の隊長が答える。


「急ぎというか、なんというか…」


 すかさずユシアが質問をつづける。


「もしかして、遺跡で何か問題でも?我々にご相談いただければとくに修繕に関しては協会で把握している対処事例が多数あってですね、そうですね、まずは遺跡へ移動しましょうか」


 そう告げると、返事も待たずに馬車を走らせようと合図をだす。


「まっ、待たれよ。あーっ、申し訳ないが協会の方が訪れる件は聞いておらず、先に伝令を送るゆえ、少しお待ちいただければと」


 慌てて隊長が答えて、隣の騎馬に乗っている男に目配せすると、隊長を残して騎馬の一団が遺跡へ向けて帰っていく。


「そうですか、じゃあ伝令の方も先に向われましたし、我々もゆっくりと向かいましょうか」


 そうユシアが答えると、とめる間もなく馬車が動き出す、困ったように隊長がその動きにあわせて馬を並走させていく。



___その様子を岩陰で見ていたソーン達は、馬車と騎馬の一団が遺跡の方角へ去っていくのを確認してから、ほっと肩を撫で下ろした。


いつも読んでくださりありがとうございます。続きも読んでいただけると嬉しいです。


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