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第104話 裂け谷の遺跡

「尻尾の針に気をつけて・・・内臓はこのあたりをざっくりと、あと、ヒレの部分は身にそって切り離すのね」


 比較的平らになっている岩の上で、どうすれば手際よく解体できるか、仕留めた岩魚にナイフをいれながら呟いているアイリに、ソーンが声をかける。


「アイリさん、大体拾い集めました。思った以上に大量ですねこれは」


 積みあがった、岩魚の山を見ながら、一息つきたいところだったがこの後の解体作業を考えると中々に骨が折れそうだ。

 

「そうね、まあでもちょっと慣れてきたよ、初めに、ガッてやって、こうスルスルと切り離してやれば」


 そういうとアイリが振り下ろしたナイフで尻尾を切断したあとなぞるように刃を走らせる。

 

「ほいっと、じゃあ、身のところは、ヒメちゃんよろしくね」


 部位をバラした後の身を、手にのせて掲げると、白い爪で器用に挟むようにして、白大蜘蛛ユキヒメがそれに糸を括り付けて、馬車から近くの岩棚の間に、張り巡らした太い糸にひっかけていく、まだ数匹しか処理できていないが、これが全て吊るされた光景は中々に圧巻だろう。

 

「こっちも、掘れたゾ、ソーン、こんなもんカナ」


 少し離れた岩壁の近くで作業をしていたアルフが呼んでいるので、手をあげて頷いたソーンが呼ばれた場所へと移動する。


 穴に手をかけて登ろうとするアルフに、ソーンが手を伸ばして引き上げる。

 

「うん、これだけ深ければ処理できそうだね」


 傍らで土を寄せていたマイにも声をかけて、一旦、アイリのところへと集まった。

 

 

 

 ___朝採れた分を運んできた、新鮮な果実をかじりながら、ソーンがこの後の予定を話しだした。


「地図によると今は、この辺りだから、予定していた遺跡はここなんで、そう遠くはないから・・・」


「んーと、2手に分かれて行動でいいんじゃない。あたしとヒメちゃんで解体作業を続けておくから、あとの3人で遺跡の様子を見てきてもらったら」


「そうね、この場所は丁度良く開けてるし、そのまま拠点にしてもいいわ。ギルドの説明だと遺跡もまあ入口までかなって気もするし」


 あたりを見渡しながらマイがそう言って、馬車の荷台から荷物を降ろし始める。

 

「じゃあ、その案で、でもアイリさんとヒメで大丈夫かな?また岩魚が襲ってきたりとか・・・」


「あぁ、おかわりがってこと、それは大丈夫よ。もしものときはあたしが馬車に入って、あとはヒメちゃんにお願いすれば安全にね」


 その光景を思い浮かべたアイリが楽しそうに答えて、傍にいた白大蜘蛛の白い脚をポンポンと撫でると、それを合図に2本の脚を大きく振り上げて、まかせろとアピールしている。


「ヨシッ、ソーンの護衛はボクに任せて、遺跡はマイに見てもらってで、丁度いいんじゃないカ」


「アルフ!、ソーン君は任せたよ。敵を警戒するのも大事だけど、ソーン君すぐ居なくなるから目を離さないようにね」


 アイリからの忠告に大きくうなづいている幼馴染の獣人アルフを横目に口をとがらせて異論を唱える。

 

「えーと、アイリさん!僕もう子供じゃないから、そんなに勝手に居なくなったりしないです」

 

 愛用の松明兼棍棒を担いで準備ができたソーンが、怪訝そうな顔でアイリに抗議をしながら、皆の準備が整ったことを確認して声をあげた。

 

「それじゃあ、遺跡調査再開!ってことで」




___徒歩での移動ではあったが、谷を概ね下り終えていた場所だったこともあり、思いのほか順調に進むことができている。


 しかも、谷は別の道ともつながっているようで、それなりの輸送経路として使われているのか踏み固められており、幅も広く道も整備されているようだ。

岩が露出していた部分に次第に、木々がみえてきて、しばらく歩くと森の中を横断しているような景色になってきた。


「へぇー、谷の底って霞んでてよく見えなかったけど、結構、緑があるんだね」

横に並んで歩いているアルフにソーンが話かけると、黒い艶やかな耳をピクピクさせてアルフが答える。


「少し森にはいれば沢もあるようだゾ、所々から水が流れる音もしているナ、ちょっと給水しておくかソーン?」

その提案に頷いたソーンと、丁度いいから合わせて休憩ねとマイが積極的な発言を被せてくる。



 何度目かの休憩を経て、ようやく目的地へと辿り着いたソーン達は、ほっと一息つきながらその景色を眺めている。


 その一画は森の緑が切り取られたように、白い石畳と柱がいくつも並んでいた。

その白い道が連なって谷の壁に到達したところから今度は結構な高さまで壁一面が白い巨大な彫刻で覆われて、神殿が壁に埋まっているようにも見える。


 遺跡の規模感に感動しながら進んでいると入口付近にテントと見張りの兵士のような人達が位置についているのが確認できたので、早速、話かけてみた。


「えーと、遺跡調査に来たのですが、ここが中央遺跡であってますか」

あわせて、ギルドで発行された許可証を開いてみせる。


 それには慣れた様子で、見張りについていた兵士の1人が答える。


「あぁ、情報ギルドの手配か、ここは以前からの通達通りに遺跡の修繕作業中だ、とくに問題は無いから異常無って答えておいてくれ」

そう答えながら、許可証を受け取って、近くの台の上に置いていた、印章を拾い上げると空白の部分に押し付けた。


「ほれっ、これを提出すれば完了だ。ご苦労だったな」

手際よく処理された書面を受け取りながら、ソーンが何気なく質問を投げかける。


「遺跡の中って入れないんですか?修繕作業の邪魔はしないので」


それを聞いた、兵士が突然顔色を変え、腰の剣に手をかけて、乱暴に答える。


「なんだ、遺跡は修繕中で立ち入り禁止だと聞いてないのか、さっさと帰れ、もうここでの用事は済んだはずだ」


 予想以上の反応にちょっと慌てたソーンが担いでいた棍棒を落としてしまい、金属を打ちつけたような、大きな音があたりに響いた。

それを聞きつけてか、少し離れていた別の兵士達もこちらへ警戒しながら近づいてきた。


慌てて棍棒を拾うソーンに、すっと被さるようにマイが前にでて答えた。


「あらあら、ごめんなさいね。遠いところを苦労して来たものだから、綺麗に保存されている遺跡に心が躍っちゃってね。

 こう見えて遺跡調査の学者なのよ。この子たちは護衛ね、皆さんの邪魔はしないから、外側の柱のあたりをちょっと見せてもらってもいいかしら」


 そう言いながら、腰に吊るしていた本を開いてスケッチを見せるようにして、遠くから近づいてくる兵士の死角で、そっと手をだしたマイが、にっこりと微笑んだ。すると意図を理解したのか、目の前の兵士が腰の剣から手を放して、マイの差し出した手の下を経由してズボンに何かを納めた。


「できるだけ離れた場所でな、そこら辺をみている分には構わないだろうよ、あいつらにも伝えておいてやる」

 もう用済みだと言わんばかりに手を振って追い払うような仕草をする兵士から遠ざかりながらソーンがマイに呟いた。



「すいませんマイ先生、ちょっと失敗しちゃいました。思ってたより、話聞いてくれないんですね」


 申し訳なさそうに、頭を下げるソーンの背中に手を回してポンっと叩いたマイが答える。


「そうね、まあ仕方ないんじゃない。あいつら兵士っていうか傭兵だし、修繕作業の現場になんであんなに大勢いるのか知らないけど」


 遠ざかりながらも遺跡自体には興味があるのか、きょろきょろと辺りをみているマイにアルフが話かける。


「あいつらソーンに剣を抜こうとしてなかったカ、失礼な奴らダナ」


 少し毛が逆立ってきているアルフをなだめながら、しばらく歩いているとソーンが何かを見つけたのか、遺跡の柱の影になる横道へとふらっと歩みを進める。


 あまりにも自然に、ソーンが足を進めたので、アルフも一瞬反応が遅れたところに、ソーンからの声が届いた。

 

「えーと、ここにも入口があるみたいだよ。マイ先生、これって・・・」


 そう言い終わらない内に、ソーンがその柱の裏にあったゆらゆらと揺れている影が開いたような入口に、右足から半身をくぐらせていた。

 

「ちょっ、ソーン!それがダメって言っタロ、もうっ待っテ・・・」

 慌てて、跳ねるようにしてアルフが、ソーンの腰に飛びついた姿をみたマイが声をかける間もなく、入口ごとソーンとアルフが柱の影に消えていった。

 


___静まり返った遺跡の柱にもたれて、すみれ色の髪の飾りをつつきながら、マイが呟いた。


「なるほどね、遺跡につられて来たものの、今回は解体作業を選択するのが正しい判断だったってことかしら、アイリの奴なかなかいい判断だわ」


 そんな愚痴をこぼしながら、どうしようかと途方にくれて、ソーンとアルフが消えていった場所を眺めていた。



いつも読んでくださりありがとうございます。続きも読んでいただけると嬉しいです。


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