第103話 遺跡調査クエスト
「それじゃあ、出発の準備はできたかな」
少し早めの朝食後に、身支度をすませたソーン達が、馬車に荷物をあらかた積み終えたところで
灰色の外套についた土埃を手で払いのけながらソーンが皆に声をかけた。
「これも忘れずにね」
そう言って、白いローブを羽織ったミリアが赤とオレンジの模様と同様に明るい花の模様が四隅に刺繍してある布をかぶせた籠をソーンに渡す。
「あっ、ありがとう、折角作ってもらった昼御飯忘れるところだった」
大事に受け取りながらソーンがミリアに答える。
「それで、体調は大丈夫なのミリア、付き添いって言ってたクーマも姿を見ないし」
「えっ、あぁ大丈夫よソーン。今日はね大分調子が良くなったから。何なら一緒に出かけてもいいんだけどってくらいで、
クーマはさっき見かけたけど布団に潜りこんでたから、いつもの夜の散歩でまだ眠いのか朝食の後に、二度寝してるみたいよ」
「そうか、んー商会からの調査結果も確認したいところだし、予定通りに宿で待機をお願いできるかな」
「そうね、用事もあるし、あたしもまた無理して調子を悪くして皆に迷惑をかけるといけないから大人しく待っているわ」
それを聞いて、ソーンがほっとした様子で頷いた、ついつい無理をしがちな幼馴染をどう説得しようかと考えていた台詞はそっと心の中に仕舞っておけるようだ。
そんなやりとりをしている間に、宿のシンボルツリーから、するすると降りてきた白大蜘蛛が、
ついでに持っていっていいといわれた採れたての果実を、荷台に追加する。
その内のいくつかをミリアに手渡しているのは、宿の娘に頼まれた分のようだ。
「クーマが見つけるとつまみ食いしちゃいそうだからこの後、気づかれない内に渡しておくわ」
果実を受け取ったミリアがそう答えると、隣でそれを聞きつけて確かにと頷いたユキヒメが改めて荷台に詰めた分から何個か取り出して、クーマの分として渡し直した。
その後、自分のおやつ用の金属塊がしっかりと荷台側面に吊られているかを確認している姿をみるとなかなかに几帳面な性格のようだ。
ユキヒメが馬車のいつもの配置に収まったところで、御者台に乗ったソーンとアルフが手を振ると、早速、馬車を走らせていく。
馬車の窓から、すれ違いざまに見えたアイリとマイがミリアに行ってきますと視線を送る。
その姿が見えなくなるまで宿の前で見送った後、顔を伏せたミリアが小さく息を吐いた。
___街を出て、街道を進むと、徐々に岩肌がみえる道になり、体感でも少しづつ下っていっているようだ。
「地図で見るとこの辺りに、谷へと降りていく道があるはずなんだけど」
ソーンがそう言って、ときおり道の凹凸でがっくんがっくんする、御者台の上で、地図を広げて周りの景色と照らし合わせる。
「ん、そうだナ、距離からすると、そろそろなんだろうけど。あぁ、アレじゃないカ」
そう言って、ソーンの腕をしっかりと掴んだまま横から覗き込んだアルフが地図をちらっと見た後、前方を指差した。
地図の通りに枝分かれした道をもちろん下っていく方を選んで、馬車が進んでいく。
時折、鳥の鳴き声が聞こえたりと、のんびりした時が過ぎていく中で、がらがらと馬車の車輪が石を砕く音だけが響くようになってきた。
___しばらく何事もなく進んでいると、アルフが黒い耳をぴくぴくと震わせて、何かを感知したのか呟いた。
「コレは、何か不穏な気配がするゾ、ソーン。例の場所が近いんじゃないカ」
そう言われて、アルフに腕を掴まれた姿勢のまま、まどろんでいたソーンが慌てて、目をこすりながら地図を確認する。
「えーと、そっか巣が近いのか、たしかにこのあたりで・・・」
『・・・ん。結構な数がいる、そのまま進むか、止まって迎え撃つのがイイカ』
ユキヒメも気づいたようで、念話でソーンに訊ねてきた。
「ありがとう、ヒメ。そうだね、戦闘しやすい場所を・・・あの岩でL字になっているところに停めてもらえるかな」
それを聞いたアルフが御者台で振り返り幌をめくって中にいるアイリとマイに状況を伝える。
「そうね、そろそろ腰が痛くなりそうだったから、体を動かさないとね」
アイリが手元に剣を手繰り寄せながら答える。
「じゃあ、まずはどれくらい数がいるか探ってしてみましょうか」
『風・歌・知・輪』
素早く唱えるマイを中心に、魔術の波動が周囲に駆けていく。
「これは、結構な数じゃない。20・・・いやもっといるみたいね」
「・・・だって。気合いれなきゃね。アルフもいけそう?」
アイリが岩陰になる位置で止まった馬車から降りながらアルフに声をかける。
「ばっちりだゾ、ソーンを守るのはボクの役だからナ」
そう言って、荷台に差し込んでいた槍を引き出して、軽く回しながら御者台から飛ぶように降りた。
同じく御者台から降りてきたソーンも棍棒を構えて臨戦態勢だ。
「早速くるみたいだ、皆気を付けて、とくに尻尾の棘に毒があるらしいからね」
道を挟んでの正面の谷の壁面が、ばらばらと剝がれるように茶色の塊が離れたかと思うと、こちらに空を滑るように向かってくる。
まだソーン達が居る場所からは、少し距離があるところで、
轟という音と共に丸い塊が空を薙ぐようにして、飛来してきた岩魚を数匹まとめて地面に叩きつける。
みると、ユキヒメが糸を繋いだ金属塊を四肢で上手くコントロールして振り回している。
『・・・ん。適当に数を減らしておくから、残りはソーンお願い・・・』
「ありがとうヒメ。じゃあ近くにきた奴は僕らで撃退する形でいこう」
頷いたアルフが、槍の穂先で撫でるようにして、迫ってきていた岩魚を撃墜する。
馬車の後方では、アイリが剣を素早く繰り出して撃ち落としながら、尻尾の棘は盾でうまく弾いている。
地面に撃ち落とされてピクピクしている岩魚に止めとばかりにソーンが棍棒を振り下ろす。
つづけて、馬車の真上付近から急襲してきた岩魚が、荷台付近で突然見えない壁に弾かれのち、のたうち回りながら地面へ墜落していく。
「上は、結界でカバーしてあるから前方に集中してもらっていいかしら。近くに寄ってくると怖いから馬車にいるけど、働いてるから安心してね」
馬車から顔をだしたマイがそう告げると、ソーン達がそれぞれ了解のサインを返した。
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