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第100話 天幕の中で

ソーン達と分かれた、ミリアとアイリが道沿いにある色とりどりの屋台に心惹かれながらも商会へ到着するとすぐにファルが出迎えてくれた。


「こちらの施設ですが、指定の作業場と天幕の中に必要な素材を保管しているので、自由に使ってください、それと作業中は外に見張りをつけますので作業に集中いただけるかと思います」


 案内に従って、一通りの備品を確認したミリアがお礼をいってファルと分かれる際に合わせてアイリに提案があった。


「アイリさっき商会前の屋台に興味ありそうだったから行ってきていいよ、こっちはあたし一人の作業になるし暇だろうから。あぁでもお酒はダメよ、帰り道はしっかり護衛してもらわないといけないからね」


「お酒はダメかぁ。そう、じゃあその提案のっちゃおうかな。お土産は串焼きでいい?タレの奴でいいよね」


 いつになくご機嫌のアイリを見送ったミリアは気持ちを切り替えて、商会の中庭に用意された施設へと向かう。



 天幕の入り口から少し離れたところに、先ほど説明を受けた際に紹介のあった見張り役の護衛がすでに控えていた。お世話になりますと挨拶したミリアが中へと入っていく。


 分厚い布の天幕により指定通り外から中は見えないつくりとなっている。全体を覆われていて明りとりも塞いでいるためか、少し薄暗いがこれからの作業に支障があるほどではなかった。足元は舗装もなく地面に直接触れているが、これも指定通りだ。


 手早くテーブルに、傍らの木箱の中から取り出した薬の制作に必要な材料を並べていく、中には貴重な薬草も含まれていたが流石、クラール商会というか高品質な品が準備されていた。


「これも手配してすぐに手に入るって師匠に教えたら喜んでくれそうね。後でいくつか譲ってもらえないか交渉してみようかな」


少しリラックスした面持ちで呟いた後、綺麗に磨かれている空の薬瓶を並べはじめる。


「そんなにたくさんは要らないかな、症状が出た時に飲む分だからこれくらいで」


 薬瓶の蓋の嚙み合わせの具合を試した後、再度天幕の入口が閉まっていることを確認して、位置についた。


 ミリアが腰のポーチから黒い筒状の物を取り出してその筒のような蓋を取り外すと、中から頂上が尖った螺旋状に蛇が連なるような細工をされた品が現れた。


 それをそっと平らな地面に置くと、尖った部分に左手の人差し指をのせて、一呼吸おいてから、ぐっと力をいれた。



___今日は、先日訪れていた冒険者達ががまた来ていると聞いて、グレーの髪をした少年が興味深そうに中庭に急遽設置された天幕を見つめていた。


 なんでも魔素症の薬を作成するに際して、製法は秘密らしく、見張りをつけて隔離されているそうだ。


「ふーん。でも秘密といわれちゃうと気になったちゃうし、ちょっとぐらいはいいんじゃないかなぁ」


年相応な悪戯心を備えた少年がそっと見張り役に近づいていく。


それに気づいた見張り役が、少し身を屈めながら早速声をかけてきた。


「ルルト様、こちらはミリア様が現在作業をして居られますので、邪魔にならないようにと人払いを命じられております」


 やんわりと近寄らないようにと伝えてくる見張り役に、前髪を手で持ち上げてにこやかな笑顔でルルトが答える。


「そう、分かったよ。邪魔をしないようにするから大丈夫だよ、君の仕事は邪魔をしないから安心してて」


 そう答えるルルトを正面からみた見張り役が一瞬硬直するように体を震わせたあと、元の位置に戻りしっかりと正面を見つめて呟いた。


「異常は御座いません。引き続き見張りを続けます」


「そうそう、それでいい・・・」

 その横をグレーの髪の少年が、細目に笑みを浮かべながら何事もなかったかのように通り過ぎる。


天幕の入り口付近に重なった布を慎重にずらして少しだけ中が見えるように動かしていく。

中は光が遮られ薄暗くなっていたが、昼間の建物の影を想定していたルルトは、思わず声をあげそうになった。



天幕の中央で虚ろな目をした少女が跪き左手を何やら螺旋状の装飾物にのせて、だらりと差し出した右手の指先を伝って紫色の液体が宙に浮いた薬瓶へと流れ落ちている。


その少女を覆うようにして囲んでいる影の中にひと際巨大な姿が浮かんでいる。


それは影の中に、光が吸い込まれるように黒く浮かび上がる複数の翼を有した女神のような姿をしていた。


 女神の表面は黒い濁流が留めなく蠢き地面の影に落ちていく、その黒い女神の口元の動きにあわせて、少女が何かを呟いている。


その刹那、ルルトの足元の影がずぶりと沈み込んだ。


「ひっ!」

驚いてその場から飛びのいた少年はそのまま一心不乱に自室へ向けて駆けていった。


それから間もなくして、薬瓶が地面に落ちて砕ける音が響いた。


___見張り役が天幕の外から声をかけている。


「何か割れる音がしましたが、大丈夫ですか、ミリア様」


それに対して少し咳き込みながら少女が答える。


「大丈夫です、手元が狂って瓶が割れちゃって、お騒がせしました。それとちょうど作業も終わりましたのでもう少しお待ちくださいね」



その後、何度か大きく息をしながら、ミリアが呟いた。


「・・・ダメって言ったんだけどなぁ」


 口元へよせた左手の指先を舌でからめながら、赤い液体が少しづつ流れていくのを名残惜しそうに喉を鳴らして飲み込んだ。


いつも読んでくださりありがとうございます。続きも読んでいただけると嬉しいです。


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