第9話 大橋へ
しばらく馬車は平坦な街道をゆっくりと進んでいた。
少し早歩きすれば追いつけるぐらいの早さだったので、共に徒歩でついていくため、ソーンとアイリは気がつけば並んで歩いていた。
そのため、隣に並んだことで、道すがら、ソーンは何度も助けてくれた騎士見習いに感謝のお礼と、凄いとか、格好いいとか感嘆の言葉を何度も投げかけていた。
すると、あまりにキラキラとした目で見てくるソーンを、どう説得しようか悩んだ末に、アイリは自分のことを少し話し始めた。
「うーん、ソーン君は、私をおだてるのが楽しいのかな?騎士みたいって、まだまだなんだよ本当に」
アイリの家は代々騎士を輩出している家系で、アイリの父親も立派な騎士だったらしいが、早くに亡くなった関係で、苦労したそうだ。しばらくは父のような騎士を目指して騎士の訓練学校へ通ったりしていたそうだが、ちょっとした理由があって、現在は修行の旅にでているとのことだ。今回の護衛任務は修行に丁度いいと思って参加したそうだ。
ちょっとした理由については、それ以外は楽しそうに話していたアイリが口ごもってしまったので、深くは聞かなかった。
代わりにソーンも村で住んでいることや、森を探索していることなどを話して、クーマとの出会いを話そうかというところで、馬車の動きが止まった。
どうしたんだろうと、近くまで歩いていくと、原因が判明した。このあたりは、両側の森からの斜面がおおきく道へ張り出してきており、大きな谷間のようになっている。この先を抜けてしばらく進むと、記憶が正しければたしか大きな川があり、目的地の橋があるはずだ。
その谷間に白いベールのようにみえるものがいくつも掛かっている。よくよく目をこらしてみるとどうやらそれは、糸のような細い紐が大量に垂れ下がっていることから向こうが見えないくらいに白いベールに見えているようだ。それを見てアイリは、すぐに引き返すようにソーンに伝えた。
「これは、どうみても噂の生物が作ったものだと思う。ここから先はきっと、危険が伴うことになるから、ソーン君はここまでにした方がいい」
何か言いたそうなソーンだったが、アイリが目をみて真っ直ぐにそう伝えてきたので、ぐっと拳を握ったあと、素直にうなづいた。
すると、馬車のほうで動きがあった。火をつけた松明をもった騎士が白いベールを焼き払いながら、前に進み出した。
それを見たアイリは、ソーンに振り返り、手をのばして頭を、ぽんっとなでると、馬車へ向かって走っていった。
その場でアイリを見送りながら、ソーンは、ずっとその景色を見ていた。
馬車が進む音が聞こえる。パチパチと火が燃える音と、何かが焦げるようなにおいが漂ってきた。
クーマは、ソーンの背中から離れて、するすると空へとあがっていく、上から見たら橋ぐらい見えるかなと思っての行動だった。
_____すると突然、大きなドーンという音がしてビリビリと衝撃が空気を伝わってくる。少し先の幾重にも重なる白いベールの丁度真ん中ぐらいのところから、白い煙があがっている。
焦げた臭いがより一層強くなり、馬のいななきのようなものも聞こえる。するとクーマがおおっと声をあげた。
「馬車がでてきたのぉ、1、2、3台、あと騎馬がいくつか。かなり急いでおるの、ふむこれは」
その後の報告がないので、不安になったソーンが急かすように言った。
「アイリさんは、まだでてこないの?馬車と騎馬だけ?」
空にうかんだ、クーマがじっと馬車が走っていく方角をみている。
少し考えた様子で、すっと下にいるソーンの方に向かって降りてきて答えた。
「ほう、アイリか、アイリは今、丁度、でてきて馬車の後を追っていったようじゃ」
空からするするとクーマがおりてくると、尻尾を捕まえて、目の前までおろしてきたところで、ソーンがクーマをぐっと掴んで尋ねた。
「本当に、アイリさんはでてきた?嘘いったりしてない?」
「なんじゃ、信じられんのか、立派な騎士じゃ、大丈夫じゃろう」
すると、ボロボロと涙を流しながら、ソーンはクーマを強く握った。
「嘘だ、さっきは馬車も見ないで適当に言ったよね、本当はどうなのクーマ教えて」
ソーンが真剣な目で見てくるので、ふぅとため息をついてクーマが、言いにくそうにぼそぼそと答えた。
「でてきておらんの、馬車と騎馬だけじゃ、まあそういうことじゃろう」
「そういうことって、何が?どうなの」クーマをぐっと握って更に聞いてくる。クーマはやれやれという顔で、渋々答えた。
「護衛任務というやつじゃ、誰でも参加可能ということは、こういうときに囮にして逃げるための依頼じゃろ、まあうちらは先に離脱したがの」
やっと気がついたという顔で、ソーンがクーマにお願いした。
「そんな、あの中は今どうなっているの、クーマ教えて」
「ふーむ、中はよく見えんが、なんか白いベールが燃えているのと、激しく動いているところがあるの、運がよければまだ無事におるかもしれんな」
それを聞いたとたんにソーンは走りだした、馬車が入っていって今は白いベールも燃えてなくなっているところだ、白いベールを焼いたときに転がった松明を拾い上げて奥へと向かう。それを追いかける形でクーマも仕方なくついて行く。
「ふむ、思い違いをしておったか?意外に勇気があるの」
白いベールの正体は、中にはいるとすぐに判明した。
いつも読んでいただきありがとうございます。今回ちょっとリアルが数日旅行にでる関係で途中ぽいところで、すいません。つづきもまた読んでいただけると嬉しいです。