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初めての作品になります。温かい目で見ていただけると幸いです。
由緒正しい貴族の令嬢───アイネアは物心ついた頃から度々、不思議な夢を見る。
その夢に登場する人々は、皆一様に黒色の髪と目をしている。おかしな事はそれだけに留まらない。屋敷の造りが全然違うし、部屋の中には用途不明の家財がたくさんあった。髪型も服装も、アイネアからすれば変なものばかり。聞こえてくる言葉は馴染みの無いもののはずなのに、理解できてしまうのも奇妙だった。
そうは言っても所詮は夢。不思議なのが当たり前だと、初めのうちは思っていた。ところがこの夢を何度も繰り返し見たとなれば、アイネアも考え直さざるをえなかった。夢の中で行なっている事、出会う人々、風景など場面はまちまちだったが世界観とでも言うのだろうか、雰囲気のようなものはいつも同じだった。
夢の内容を最初から最後まで鮮明に覚えている訳ではない。朝、目が覚めたら大半は忘れている。とはいえ、これだけ繰り返せば嫌でも印象に残るものがある。
母が存命だった時分には、アイネアが見た夢の世界について、拙い言葉でたどたどしく語ったものだ。だが、母が亡くなり、少しずつ成長していくにつれ、アイネアは無闇に夢の事を口にしなくなった。父をはじめ使用人達の話を聞いていると、熱を出した時やイライラが溜まった時といった一定の条件を満たさなければ、普通はそうそう同じ夢を見たりしない事に気が付いたからだ。
どうして自分だけ?と心配になったこともあった。けれども悪夢に魘される訳でもないし、アイネアが言いふらさなければ気味悪がられることもないと、そのうちに割り切って考えるようになった。
むしろ今ではまったく逆の問題に頭を悩ませているくらいである。それは───
(いったいあの、のびる食べ物はなんだったのかしら?)
(それにまた見たわね。絵ばかりの書物!とてもおもしろそう!)
(今回は変わったおもちゃがたくさんでてきたわ!)
夢の世界は、夢で終わってしまう。その儚い事実が、今のアイネアにはとてももどかしく感じられるのだ。眠っている時にしか現れない幻を、もし実現することができたなら。
(なんてすてきでしょう!!)
アイネア・バラダン伯爵令嬢、もうすぐ八歳。天蓋付きのベッドの上で、その愛らしい顔をきらきらと輝かせていた。