仮に
今日も朝から雨が降っていた、おそらくはお昼時はとうに過ぎてるはずなのだが雨雲のせいで森全体は薄暗く雨の影響もあり視界が悪い。
そんな雨の降っている森の中、うっすらと光が見える。
その光は森にある洞窟の中から漏れだしていた。
洞窟の中には焚き火をしている一人の人物がいた。どうやらこの雨の中で服が濡れてしまったのだろう、ほぼ下着姿の状態で濡れた服を乾かしている、洞窟の壁に写し出された影は若い女性のものだった。
短く切ってある銀色の髪に火よりも紅い瞳、奴隷の証である首輪をつけている。浅黒い肌の至るところに痛々しい傷痕があり、さらに顔にある大きな十字傷は彼女の美しい顔を台無しにしている。
「さっきまでは順調に王都に向かって歩いていたはずなのに……」
そう言ってちらりと傷だらけの少女は後ろに視線を向ける。
「……むにゃ………むにゃ……」
そこには人の寝袋で寝る女性がいた、ついさっきまで傷だらけの少女に「寒い!」や「お腹が空いた!」等など。結果的に傷だらけの少女の食料全てと寝袋を生け贄に捧げなんとか眠ってもらった。
「はぁ、これは野宿確定ですね……」
そう言って傷だらけの少女はもう一度深いため息をつき火に薪をくべつつ再び外の景色を見るのだった。
時間を巻き戻すこと数時間程前、『レナ』は山道を歩いていた。王都へ向かう為の山道は土砂崩れのため使えなかったためにレナは仕方なく遠回りすることになった。
「とりあえずこの道を行けばあと二時間くらいで王都への道に出れそうだ」
地図と数分間にらめっこしたあとに、レナは王都へと歩きだした。
「確かこの辺りって野盗とか化け物とか出るって話だけど大丈夫かな? 流石に勘弁してほしいな」
しばらく歩いていたが、ふとレナは足を止めた、嫌な予感は的中してしまったらしい、数メートル先に馬車だったものを見つけた、立派な馬車だったのだろうが今では見る影もない。
レナは慎重に馬車に近づく、近づくにつれ匂いが強くなり、雨の音の中でもその音ははっきりと聞こえてくる。
喰われていたのは御者だった者と、複数名の騎士と思われる男達の残骸と馬だ。
地面には骨やら武具の破片やらが落ちている、幸いな事に相手はこちらに気づいてない。このままやり過ごすかと思案していると少し離れた所で悲鳴が聞こえた、声のした方に視線を向けると華美なドレスを着た女性がいた。
雨の中で把握は出来ないがこの惨状の唯一の生存者だ。
レナはゆっくりと地面に荷物を置くと、相手の怪物の一頭に狙いを定める。
ふぅ、と息を吐き身体の力を抜く。その間にも化け物は哀れな獲物に近づいていく、奴らからすれば丸腰の相手はただのオモチャに等しい。女性は来るはずのない者に必死に助けを求めている。
レナは自分の胸の中央を押した。その瞬間、地面を蹴る音と同時にレイの姿は消え目の前にいた怪物の一頭が谷底へと落下していった。
フィムリアは王女である、王女でも武芸の類いを教わっており、そこら辺のチンピラ相手には遅れはとらない、しかし今フィムリアの目の前にいるのは町のゴロツキやチンピラの類いではない、人類を主食にし悪意を持って襲って来る正真正銘の怪物なのだ。
持っていたレイピアは怪物の皮膚の前で折れ警護の騎士達もことごとく怪物達のオモチャにされ最後は殺された。屈強な騎士達も死ぬ間際には助けを懇願しているのを見てフィムリアは心の芯が折れてしまったのだろう、自分の悲鳴を聞いた怪物達がいやらしくニヤリと嗤った気がした。
フィムリアは必死に叫ぶ。
――――助けて、誰か私を助けて…………と。
嗤う怪物の一頭がフィムリアに手を伸ばす。
――この女は孕み袋として上等だ、怪物達の肉体が熱くなる。
次の瞬間、怪物達の一頭が消え失せた、フィムリアは緊張がついに限界に達した、薄れる視界に写るのは黒い何かが怪物達の前に立ちはだかった所でフィムリアはついに気を失ってしまった。




