仮に
とある世界にて。
何度も戦いを繰り広げてきたが、その日初めて黒色の邪神は完全敗北した。
かつての邪神達の戦争の中で唯一封印から逃れ、忌々しい炎野郎に家をを燃やされても逃げることが出来た。
それなのに、この裏切り者に負けただと……ッ!!
黒色の邪神は自分を見下ろすしている一柱の邪神を睨む。その邪神は黒とは反対の銀色の身体をしていた。
その銀色の邪神は黒色の邪神を見下ろす。この黒色の邪神にはもはや抵抗する力は残ってはいない。しかしたとえ瀕死とはいえこのままにすればこの黒色の邪神は必ず復活する。
だからこそ銀色の邪神は何の躊躇いもなく黒色の邪神に止めの一撃を下した。それが呼び出された銀色の邪神の役目だったからだ。
そして黒色の邪神はこの世界から消滅した。
……一つの貌すらも残さずに。
・ ・ ・
その石造り部屋の雰囲気は薄暗くじめじめしているというのが一番合うだろう。部屋の所々には蝋燭がか細い火を灯し、室内の様子をかろうじて視認する事ができた。
部屋には様々な道具があるが、その全ては人に苦痛と絶望を与える為の道具でありその形状とこの部屋のあらゆる場所についているおびただしい染みを見れば誰もが察してしまうだろう。
天井からいくつもの鎖が垂れ下がっておりそのいくつかは哀れな奴隷達の四肢を拘束している。
いわゆる拷問部屋。希望から最も遠く、苦痛と絶望しか存在しない世界。
そんな世界に乾いた炸裂音が響く。
その音はどうやら人体から発せられたいた。
そこには鎖で天井から吊るされた少年とその少年に鞭を振るう初老の男がいた。
少年の瞳には生気は無く、身体の至るところにあるみみず腫がより痛々しさを感じさせる。少年はそれでも男の振るう鞭を一身に受けている。何度も鞭を振るって男はようやく満足したのか、少年を吊り下げている鎖を緩め少年を地面に落とすと、部屋の扉を閉めた。
少年は倒れたまま動かなかった、動く体力も気力も無いからだ、幾度と繰り返された拷問に、多数の男達に慰み者にされ続けた結果、少年は心を閉ざした。
――今日で死ぬかもしれない
少年は思った、最後の時なんて意外とあっけない、周りにいる奴隷達も生きてるのか死んでるのかそれすら怪しい。
身体から熱が抜けていく感覚を味わいながら少年は呟く。その思い、その言葉は誰にも届かずこの地獄で人知れず消える………………はずだった。
――この貌はずいぶんとまぁボロボロだな。そんなに死にたくないなら生きれば良いじゃないか。
返ってきた言葉、少年は僅かに視線を動かして言葉の主を探した。
――――違う違う、もし貌を探しているならお前の目の前だ。
言葉の主に従って少年は視線を自分の正面へと戻しても人はいない、見えるのはいつもの風景と地面に転がっている黒い石ころのみである。
――――やっと見つけてくれたか。そうその石ころだ、情けない姿だがな。
言葉の主は少年に語りかける、少年はその石ころを拾おうと、必死に手を伸ばす、幸い石ころは少年の手の届く所に落ちていた。
「……アッ……タ……………ア………」
少年はもうまともに喋る事が出来なかった、だがそれでも拾った石ころを握り話かけようとする。
――――たく……無茶すんなよ、お前死にかけてるんだからよ。まぁいいオレの質問に答えてもらおう、お前ぁさっきの言葉に嘘偽りはないか? おっと、返事は心の中でかまわないからな。今死なれたらこっちもヤバイからな。
少年は目を閉じた。心の中でその問いに答える。
――――なら確認だ。オレはお前に生きる力を与える、知識も経験も力も全てだ。その代わりお前にはオレが復活するまでオレを護ることいいな?
少年は閉じていた目を開ける。
――――話が早くて助かるぜ、ならこの石をお前の胸に当てろ。
少年はゆっくりとその石を自分の胸に持っていく。
――――覚悟はいいか?
「デ……キテ…………ルヨ……!」
少年はその石を胸に押し当てた。