なんだかんだ
はじめまして。
学校の文集に寄稿した作品をこっちにも載せてみました。
めちゃ短時間で書いたやつだし、小説書くのもほぼ初めてなので低クオリティです。
が、温かい目で読んでもらえると嬉しいです。
タイトルは適当に考えたので、変えるかもです。
内容もとても薄いのでもうちょっと書き足せたらなと思います。
(前書きで自己紹介するスタイル)
朝、目が覚める。
布団の中で起きる。 布団はあたたかくって、布団はやわらかい。 だけど朝だ、起きなくちゃ。 布団から出よう。
少年は目を開けた。 ・・・・・・あれ?何も見えない。見えるのは一面真っ黒の世界。いつも起きたら視界に入るはずの天井の模様が見えない。
目をこすってみる。やはり視界に映るのは闇。真っ黒い闇。
ただ、暗闇の中にうっすらと少女の姿が見える。少年は立ち上がって近づこうとしたが、左手に鉄のような重みを感じてうまく立ち上がれない。
まさかと思った。そのまさかだった。彼の左手と少女の右手は手錠でがっちりとつながれていた。少年は困った。どうしようもないほど困った。
これは、もしかしてよくテレビや小説とかで見る「監禁」ってやつじゃないのか?
日常生活ではまず出てこない言葉が頭に浮かんで、さらに困惑した。
夢かと思ってほっぺをつねろうとしたが、こんな怖い夢はたぶん、気弱な俺は受験に失敗した時ぐらいにしか見ないだろうと思って、考えるのをやめた。
とりあえず、自由に使える片手だけで隣にいる少女を起こしてみる。
トントン、「あのー、ちょっと起きてください」
ムクリ・・・「・・・あー、おはよ・・・えっ・・・だr・・・」
初対面の二人の間にコンクリートぐらいかたい空気が流れる。何も知らずにこの光景を目にした人は思わず笑ってしまうかもしれないが、無理もない。なんせ、彼らは初対面でかつたった二人で監禁されているのだ。落ち着き払っている方がおかしいというもの。
少年はなんと言えばいいのか分からず、
「あっ、初めまして。なんか、昨日家で寝て起きたらここにおって、手錠でつながれてて・・・君と。よく分からんのやけど、これって、もしかして、ひょっとしたら・・・俺ら、監禁されてるんとちゃうかな?」
と、浮き世離れの台詞をしかし驚くほどすらすらとしゃべった。
少女もまた驚くほど素直に彼の言ったことを受け入れ、
「監禁!? 夢? 夢じゃないよね? えっ、ヤバッ、しかも見知らぬ人同士が!? えっ、これ閉じ込められてるの!? うわーっ!」
と、地震が起きて喜ぶ子供みたいな表情でいった。
「ちょっと、どうせなら、こんな体験これから先あるかどうかわかんないから、楽しもうよ! どうせ多分きっとおそらくすぐに誰かが迎えに来るよ、多分。 だから、ね?」
少年は、こいつは天然なのかもしれないと思った。
ひとまず、監禁されているのは確かだろうし、誰かが迎えに来るとも思えないから、二人は閉じ込められているこの部屋―言いたくないけどここから先は牢屋と呼ぶことにする―の中を物色することにした。
思ったより牢屋は狭かった。千利休の茶室ほどではないが、売れない芸人のアパートぐらいもないなと思った。
そして、案の定とでも言うべきか、牢屋の中にはドアや窓や電気はもちろん、パンのかけら一つさえ落ちていなかった。
圧倒的な殺風景。気が滅入ってしまいそうだ。
少年はわかりやすく落ち込み「あぁ、もう死ぬ」と言ったが、これは最近の若者がよく冗談で言う「死ぬ」ではなく、真面目なやつだと少女にさえ分かった。「大丈夫だよ、監禁するんだったらエアコンとか電気とかそんぐらいあるはずだよ。でもないんだから、多分誰かが迎えに来るんだよ、きっと。ね?」と少女は言った。少年は確かにと思った。
が、同時に彼は電気はともかくとしてエアコンはいらないなと思った。なんせ、1月のはずなのに部屋の中が暖かいのだ。
何となく、監禁する場所というのは寒くて暗いイメージだったが(暗いのはあってる)、ここは妙に暖かい。
それに、ここはドアも窓もなくて、完全な密閉空間で、酸素が足りなくなっても不思議じゃないのに、そんな気配がない。
もしかして何処か開いてるのか?
なんでだろうと思い二人は捜索を続けてみた。
壁の外側から何か音がする。よくみると壁にはザルの目ほどの小さな穴が開いていたのだ。
穴に耳をあて耳を澄ませてみると、コケコッコーと鶏の鳴く声がした。
「誰かいませんかー」と二人で試しに叫んでみたが、鶏たちがよってきて穴の所にしきりにくちばしを突っ込もうとして来るだけのようで人の気配はしなかった。
少年は、監禁するにしてもなんでこんなニワトリの群れの中でやるんだ、と思った。
何かおかしいことには二人とも気づいたが、よく考えたら監禁されていること自体おかしいのでこのぐらいのことはあるのか、とも思った。
今はただ、これがやんちゃな友人の仕掛けた意地悪な遊びか、はたまた自分が受験に落ちたかを信じるしかなかった。
その夜(時間なんか分かるわけないけど多分夜)二人は、しばらくここからは抜け出せないことを悟って、お互いのことを聞きあった。もちろん二人は恋人同士ではないが、彼らはこの閉鎖された空間でお互いのことを認め合い、慰め合う関係になっていた。
「君は普段どんな曲を聴いているんだい?」
「ジョン・ケージの4分33秒かな。知ってる?あれいい曲だよね。」
「正気か」
牢屋の中とは思えない会話。笑い声。
このごろ受験勉強ばかりしていた高3の少年には、この牢屋生活が皮肉にも天国のように思われたのだった。
何日かして、二人はすっかり仲良くなっていた。
「国名分けっこしようよ」
「え?何それ?」
「ちょっとやってみよう」
「イン」「ド」 「アル」「メニア」 「オース」「トリア」 「中」「華人民共和国?おもろいなぁ。」 「・・・なんか面白くない」
他に何もすることがないから、こうやって時間をつぶしていた。そうしている間に二人の間の緊張は解け、徐々にお互いのことを大切な存在だと思うようになっていた。
これから何が起こるかとか、ここからいつか抜け出せるのかとか、考えてもどうしようもないから、そっぽを向いて見ないふりをしてやり過ごしていた。
もう二人とも、こいつが隣にいるだけで十分だ、とさえ思い始めていた。
それから何日、いや何ヶ月たっただろうか。
少年は、もうすべてをあきらめていた。
「はあ、本当だったらもう俺も大学に通い始めていた頃なんかなぁ・・・」
「大丈夫だよ、ここから脱出したら受験勉強して、それから大学に入ればいいじゃない。」
「・・・おまえ、まだここを抜け出せると思ってるのか? ずっと、これからどうなるか考えるのが怖くて逃げてきたけど、やっぱり、俺ら、もう無理だぜ。」
「あきらめたらそこで試合終了だよ!?」
「そんなこと言って、どこに根拠があるんだ? 実現できない夢を見るより、あきらめた方が楽だぜ? な?」
「なによ、なんであんたはそんなに悲観的なの?」
「宇宙飛行士になりたいとか東大に受かりたいとか、そういうんじゃないんだ。そういうのはちょっと頑張れば実現できるかもしれないけど、俺たちはもうここから出られないんだ。もう何も出来ないんだ。もう長い間ここにいるけど、何かいい兆候もなかっただろう?」
「何よ、信じなければ何も進まないじゃない!」
「もっと現実を見ろよ! そろそろまじめになるときだぜ!?」
もう二人は出会った頃の二人ではなかった。
ガタッという音と共に、急に牢屋が持ち上げられた。
「どこへ行くんだ!? え?」
「・・・救いの手がきたんじゃないの!?」
少女がこれ見よがしに叫ぶ。
牢屋はぶんぶん揺れ、無造作に動かされる。
「何だ、何かに乗せられたみたいだな」
二人を乗せた車は音も立てずにどこかへと向かう。
「どこに連れて行かれるんだ!?」少年がかえって嬉しいんじゃないかっていうぐらいに吠える。
「知らないわよ!がたがた揺れて何も見えない、怖すぎるよ! あと何回こんな仕打ちを受けなきゃならないの!?」
トン、軽やかな音と共に牢屋は地面に置かれた。
「はあ、どうやら終わったみたいだ。やれやれ」
「よくあんたそんな飄々としていられるわね!?」
「もう、どうしようもないだろ!この半分死んだ世界でこのくらいの仕打ち、死ぬよりはましじゃないか!?」
「何よ、それ? もうこの牢屋の生活が終わらないみたいな言い方じゃない!?」
「そうだよ!終わるわけねえだろ、こんなもん!!」
二人は「監禁」というありえない形で出会い、半ば強制的に一緒に暮らしてきた。しかし彼らはそんな境遇を慰め合い、励まし合って生きてきた。次第に芽生えてきた二人の愛。
愛し合うことでこの狂った世界を生き抜いてゆくつもりだった。生き抜いてきたつもりだった。でももう限界が来たようだ。とうに二人の仲は冷え切っていた。
その時だ。
轟音と共に地震どころでは済まない揺れが二人を襲った。
「やめろっ! なんだ! 殺す気かっ!! おまえのことは死んでも恨んでやる!!」
少女は何も言わない。
突如、ものすごい衝撃と共に牢屋が破壊された。
すると、二人の目の前には、暗い部屋に閉じ込められてずっと忘れていたモノ、「景色」が広がった。
この瞬間だけを目指して生きてきたのだ 。
彼らにはもはや「景色」というものはよく分からなかったが何となく花いっぱいの草原に蝶が舞っているというような、いわゆる「桃源郷」をイメージしていた。
しかし、目の前に映るのは凶器で溢れた世界。どうみてもそれらは仲間ではなかった。 彼らの目には明らかに敵に見えたのだった。
「これが今までずっとあこがれていた「景色」なの?・・・もう少しいいものだと思っていたのに・・・」
「俺たちはどうやって生きていけばいいんだ?外の世界だけに唯一の希望を持っていたのに、いったい俺らは何のために産まれてきたんだ!?」
しかし、悲しみに暮れる二人にさらなる悲劇が襲いかかる。
上空から迫り来る巨大な手。いままで彼らの入る牢屋はこいつによって動かされていたようだった。
それによって、二人の手を繋いでいた手錠がほどかれ、別々の部屋に隔離された。
今まで二人をつないでいた「絆」のようなモノが音を立ててちぎれてゆく。
二人は身も心も離れていった。こんなにも長い間連れ添っていたのに一回離れてしまうと何の感情も失ってしまう。
少年と少女はそれぞれが五、六人はゆうに入れるであろう大きなボウルに入れられ、大量の粉をまぶされる。
もう彼らは何も感じない。
「外に出てもいいことは何もなかった」
「もとから神に見放された存在だったんだ」
そんな感情が、彼らの身体の中を走馬灯のように駆け巡る。
あたまがぐるぐる、からだもぐるぐる、なにもかもがぐしゃぐしゃ。
気がつくと、彼らは粉や油や砂糖と一緒にぐしゃぐしゃに混ぜられ、練られ、原形をとどめなくなっていた。
もう彼らは死んでしまったのだ。
それから何時間かたった後、 少年は甘いにおいと共に目が覚めた。
あたりを見渡すと部屋がきれいに飾られてクリスマスツリーが置かれている。 彼は部屋の真ん中の机の上に置かれているようだった。
なつかしいにおいがする。
見るとすぐ隣に少女がいた。二人はぱっと目を見開いて再会を喜んだ。
二人はくっつき合って、やはりあの大量な粉や油や砂糖をまとい、こんがりと焼かれていた。 頭には苺と生クリームをのせて。
二人は立派にケーキになったのだった。
机の下のゴミ箱には彼らの入っていた牢屋―卵の殻―の屑が見える。
少年―卵白―は言う、「黄身黄身はとってもきれいだ。きみのおかげでこのケーキの見た目がよくなって、味もまろやかになったよ。」
「なに、君のことを黄身って、駄洒落じゃない!」と少女―卵黄―は笑った。
「この台詞を書きたかったから、この小説を書いたんだ」
「えっ?小説って何?」
「いや、なんでもない」
「白身君こそきみ(ここは黄身ではない)のおかげでケーキが膨張して食感がよくなったわ、白身君の起泡性のおかげよ」
「期末の家庭のテスト範囲だったな。俺、気泡性って書いてペケされたんだった」
「えっ?家庭のテスト?さっきから何の話?」
「いや、なんでもない。とにかく、これからはずっと僕たちは一緒だ。ずっと、
殻の中で生きる意味が分からなくなっていたけど、やっとみつけたよ。」
「うん。私たちはおいしく食べられることに生きる意味があるんだわ」
「そう、おたがいいいところも悪いところもあったから、それを補い合って一つの作品を作り上げたんだ。
はやくみんなに食べてもらいたいな。」
「うん。楽しみだね、本当に。」
クリスマスの夜、部屋の真ん中でケーキは明るく輝いている。
オムライスを食べているそこの少年。
茶碗蒸しを作っているそこの奥さん。
あらあら、ピ〇コちゃんお使い帰りにこけて卵を割っちゃって(出典:ブ〇ック〇ャック)。
あなたが食べている卵の中にもこんな物語があるかもしれないよ。
今日も命に感謝して、いただきます!