足のない軍師の偉業ー帝国の無敵精鋭ドラゴン騎兵部隊を全滅せよー
不歩の軍師は実在した。
古代中国に孫臏という人がいた。
その人は他人の罪をかぶって足を切断されてたのだという。もしくは膝を削られたという。
いろいろ諸説あるが。私が言いたいのは。
異世界に来てまで足が無くなって、車いすで戦場に立たなければならないのかという点だ。
「軍師! 敵は精鋭ドラゴン騎兵を先頭に突っ込んできます! このままでは全滅してしまいます!」
「慌てるな! ドラゴンも倒し方がわかっていたら臆することは無い! それに、今は彼がやるのを見ておこう」
俺の見ている戦場は広大な範囲。
感覚としては衛星写真を立体視してそこに敵味方のカーソルが出現している感じだ。
相手は鍛え上げた精鋭ドラゴン騎兵。
突撃は空中で来る。
それがわかっていればこっちは手を考えておくのも苦ではない。
「距離、方位、到達時間も順調……投石部隊に魔導部隊用意! 演習通りにと伝えよ!」
「はッ!」
「向こうの軍師というか、指揮官は機動だけに目を行き過ぎている。そこの弱点を徹底的に付かせてもらおう」
「敵ドラゴン騎兵まもなく射程内です!」
「よし! 各員射程に入り次第投石開始! 軌道修正は随時、魔導部隊にかかっている! みな、よろしく頼む!」
号令の下、次々に投石が射撃を開始していく。
巨大な石の弾丸。無誘導では当たらないため、少しでも命中率を上げるため魔導部隊による魔導誘導システムを構築、訓練し今の戦場に間に合わせた。
これでドラゴン騎兵は手も足も出ない、ブレスも届かない距離で撃墜されていく。
近づくにつれて精度は上がるが、やはり、次弾装填が間に合わないか……。
「ドラゴン騎兵第三警戒ライン突破!」
「よし! 砲兵部隊射撃開始!」
城壁の上に直接照準で叩く砲兵を配備。
これも魔導部隊と組ませることで命中率向上を図っている。
おまけに砲兵は再装填技術を向上させているため速射が可能だ。
これでさらにドラゴン騎兵の数は減ってくる。
「第二警戒ラインも突破されました! 残りは約半数です!」
「よし! 弓兵部隊、魔導部隊も攻撃せよ!」
第二警戒ラインまで来ると弓での狙撃が可能になる。同時に魔導部隊の魔法も広範囲で使用できる防御魔法が展開可能となる。
ここまで来ると、弓の狙撃と魔導部隊の連携が大事となる。
最終ライン。つまり第一警戒ラインを突破されるとドラゴンのブレスで焼き尽くされてしまう距離になる。
そうなると、防ぐ手段はない。
あとは肉薄による白兵戦のみだ。
なんとしても第一警戒ラインまでに全部撃ち落としたい。
ただ座って見ているだけだが、手に汗握る展開となってきた。
「続報です! 敵の後方部隊。おそらく騎兵隊と思われます一団が突撃してきます!」
「そっちは無視だ! 敵の本隊はまだ見えないか!?」
「見えません!」
「よーし。将軍には予定通りと伝えよ!」
「はッ!」
機動力が高いと攻撃力も高くなる。ドラゴンなど元々の攻撃力が高いのを組み合わせるともはや最強の騎兵になる、が。
兵器が普及すると一変する。
目の前の戦場一覧では、ドラゴン騎兵はどんどん撃ち落され、その後方に騎兵部隊が三角の陣形で突撃中。さらにその後方では鈍足の本隊に補給部隊。
その敵本隊の左右から挟撃しようと狙っているのが、我が軍の精鋭騎兵隊。
この戦いの雌雄はもう決し始めていた。
「報告ッ! ドラゴン騎兵部隊をぜ、全滅させましたァ!」
「おっしゃあ! 全防衛部隊に連絡! 目標を突撃してくる騎兵部隊に変更せよ!」
どうにか第一警戒ラインまでに全滅させることには成功したな。
これで士気が上がらないほうがおかしい。
「軍師! ありがとうございます!」
「おいおい。まだ戦いは終わっていないんだぞ! 礼を言うのはまだあとだ!」
無敵の帝国ドラゴン騎兵隊を打ち破った歩けない軍師として大陸にその名を轟かした。
以後、防衛陣はこの戦いの陣形が参考にされていくのであるが、それを打ち破るのもまた彼である。