毒味をさせられた日
「これを飲んでください」
いや、飲んでくださいってなんなの?学校でとは言えども怪しすぎるだろう。
隣の子もすごく困惑している。
それもそのはず急にスーツを着た強面な男がSPらしき人を引きつれて教室に入ってきたのだ。
「私たちは某飲料メーカーの開発課のものです。今日は学生さんからのお声を頂くべくまいりました。」
こう告げた彼はSPらしき人達に合図を出し、一人一人に試飲用紙コップに水をそそいだ。
「これを飲んで後ほどアンケートにお答えしていただきます。匿名ですので思うままに書いて下さって大丈夫です。」
怪しい、怪しすぎる。
なぜ某飲料メーカーと言うの?会社名は名乗らないの?
細かいところにうるさい私は気になって仕方がない。
隣の子は未だ迷っている。後ろの子は…って普通に飲んでるじゃん!?
「どんな味がしたの?」
「え?なんかふつーの水だったぞ。でも地味に苦いかな。」
まあ、教師もなにも言わないし大丈夫かな。
よし、せーのっ
─ごくん
どこかで味わった事のある味だ。甘い香りが口の中に漂う中微妙に苦さもある。
「レーズン」咄嗟に出た言葉だった。
あいつの言ってた味と違う。苦いのは苦いが甘さの方が勝っている。
それぞれ違うのか?いや、それはない。
同じ容器から出てきたものだ。違うものが出るはずなど到底ない。
「なにこれにがっ。」
「ブラックコーヒー以上に苦いよ〜。」
なぜみんな苦いと言うの?私の味覚がおかしいのか?もう一口飲んでみよう。
─ごくん
さっきと同様、甘く感じた後に微妙に苦さだ。
「みなさん飲んでくれたようですね。ありがとうございます。では今から紙を渡すのでそこに記入をお願いします。」
渡された紙にはこう綴られていた。
『どちらかに丸をしてください。』
選択肢は『甘い』と『苦い』だけだった。
もちろん私が丸をしたのは『甘い』の方だ。
周りの子は苦いに丸をしている。
その後、アンケート用紙を集めた男は「失礼しました」とだけ告げ、SPらしき人を連れて帰って行った。