王と賢者
暗がりの部屋で一人の老人が震えた手で、赤子を抱くように優しくそして強く完成した瓶を抱きしめた。
涙を零しながら痩せこけた脚を動かし部屋を出る。守衛についに完成したと伝えると喜びの声をあげ、用意された馬車に、亀のような足取りで乗りこみ一息つくとそのまま眠りに落ちた。
朝、目が覚めると既に宮殿についており服も着替えさせられたようだ。そしていくつもの金で飾り付けた扉を開くと、宮殿には似つかわしくない筋骨隆々の槍を掲げていた兵士の「石像」が部屋の中心においてある、常に近衛兵が警備しており石像が一片でも欠けないよう細心の注意を払っている。
『プリアモス様、お待ちしておりました』
額にある傷が特徴の大男がプリアモスに頭をさげる。
「よい、これより始めるがこの部屋に私一人だけにしなさい。」
『しかし……』
プリアモスが冷たい眼差しを送る。大男が石像を護衛していた兵たちに目線をあわせ一言も発することなく兵達が部屋から出ていった。
「ああ、王よ……今すぐ呪いをこのプリアモスが……」
嘆きが口から洩れる。
老人が石像に語り掛けるように唱えだす
「災いなるかな、彼らは悪を善と呼び善を呼んで悪と言う、悪し者はその道を捨て、正しかる人はその思いを捨てよ、この忌々しい石から我らが王を解き放たれよ。」
石像の口に瓶の中身を注ぐ
すると一瞬目が動いた、プリアモスは笑みを浮かべ石像から離れる、手足から徐々に暗い灰色から健康的な褐色に戻ってゆく。
甲冑は元の美しい金色を取り戻し、目は海のような鮮やかな青に戻り始めている、そして髪がきらびやかな金髪に戻ると、その石像だった物が雄叫びをあげる。
まるで獣が檻から解き放たれたような雄叫びだった
その叫びは壁に当たり谺する、部屋の外で待機していた兵士達はその声を聞き一斉に扉を開け目にしたものは
再び石化し始めるかつての王と槍で腹を貫かれた賢者プリアモスの無残な姿だった...




