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死神 Danse de la faucille  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第八幕  乱気流 ~Le Prince du monde~
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加藤 春奈の場合 ~野生児~

  奇跡のような離れた空間をつなげる道…その割にはあっけない感じた。

 まさか〇〇ドアみたいに直ぐに別の場所に出てくるって思ってもみなかった。

 ほら、時空間切り抜いて出るって言ったらさ、

 目もくらむ光の渦や、いろんな映像が押し寄せてくるような演出…

 そう言うのが全くなかったので少し残念な感じだった。

  

 私は周りを見渡した。


 夜になってるので風がやや涼しいく、温まっていた体を心地いい感じで撫でてくる。

 田舎であるのは余分だが、地方の中核都市に張り付いている名もないベッドタウン…

 私の住んでいる住宅団地はそんな所だった。

 ここから数分も歩けば私の実家の小さな家があって、

 その二階の隅が私の部屋だ。


 私はそこで死んだ和幸の事を考えながらも引きこもり続けていた。

 恋人の死に絶望して壁に張り付いているような私を、

 両親は何も言わずについ昨日まで養ってもらってくれたのだ。

  相談したり、憂さ晴らしをすることもなく魂の抜けたような生活だった。

 引きこもって早三年…ここしばらく電話もメールもしていない。

 25を過ぎての女の引きこもり…ほとんどの友達は結婚してしまったし、

 仕事一筋とか、婚姻生活不適合の女の友達も

 既にこの町から出ていっており、

 少し離れた街中のアパートかマンションに潜んで人生を楽しんでいる。


「 へええ、ここが春奈さんの住んでいる街ですか。

  本当に普通な郊外の住宅街ですねぇ…ちょっと意外だけど。 」

 

 急に安藤さんが私の顔を覗き込みながらそんな事を呟いた。


「 安藤さんの思う私って、どんなイメージなんですか? 」


 少しきつい口調で思わず聞いてみた。


「 う~ん、なんかこうもっと大自然の中で、自然と戦いながら成長してさ、

  自由気ままにのびのびやって来たような逞しい感じ?

  ジャニスさんの様な異形と会っても、特に自分を見失うことなく

  対応してみんなに指示を出したりしてたし、ジャニスさんと平気で交渉するわ、

  怖いもの知らずで文句言うわで気も強いからね。


  こういうのって普通に暮らしてきた30前の女の人では…いや、

  それに博識だし、冷静で思慮深いし…その頼りがいありましたよ 」


  30は余分だし、最後の方は取ってつけたようなフォローのように感じた。

 それまでは、ただの気の強い剛腕姉ちゃんって感じの印象だ…失礼だわ。


「 いや、それ褒めてないし…

  別に、平気で死神と渡り合ったわけじゃないですよ…一応は怖かったし。」


 思いっきり嘘を言った。

 正直な話、この件では驚いたことはあったけど怖かったことは一度もない。

 特にあの巨体のドジ娘など見ていて可愛いと思たぐらい…

 

「 そうですか?まあ、いいですけど。

  その性格は好きですよ、それに年の割には可愛いし綺麗だし、

  女房がいなけりゃ、是非お付き合いしたいところですね。 」


「 はあ、と…年の割ね…それ失礼ですね。

  あとから可愛い綺麗って言われても正直皮肉にしか聞こえないですよ 」


 ちょっときつく言うと、


「 まあまあ、そんな意図なんかありませんよ。

  ただ単に、貴方に思った印象を素直に伝えただけですって。」


 安藤さんはこんな感じがこの人の本性だと思う。

 生死がかかっていた機内では慎重で頼れる人だったけど、

 今は、もうすぐ家に帰れるという安堵感があるのだから。


「 春奈さん…ご自宅に戻る前にお話があるんでそこの公園にでも入りましょうか 」

  

 回復したのか、ジャニスは安藤さんの肩から離れて私たちに向かってそう話した。

  そうだ、和幸の話を聞かないと…私は、大事にしまっていた懐の手帳を取り出した。

 念のため少し開いて確認する。

 大丈夫…まだ、ちゃんと和幸の言葉が残っている…


「 さっきの話もちゃんとしますからね 」

 手帳を取り出した私のジャニスはそう言って微笑んできた。





 両親が相当な苦労の末やっと手に入れた、山を切り崩して出来た田舎の建売。

 私が小学校低学年だった時だな。

 鬼の様なローンを抱え夜遅くまで共稼ぎの両親を待ちながら

 公園のブランコを漕いでいたのを思い出す。

 

 街中の人口の多い便利な住宅地なら、

 幼い女の子が日が暮れても遊ぶというのはかなり危険だろうけど、

 この公園はそんな心配など要らなかった。

 当時…今でもそんな感じだけど、

 通勤には車が必須で一家に2台も3台も車が停まっているような弩田舎だ。

 

 子供が普段に遊ぶ場所はここぐらいしかない山の中。

 星降る夜になっても何も心配はない…人間に対してはだけど…


 逆に動物はたくさんいる…というかいた。

 猪やサル、カモシカに蛇にイタチ、キツネ、タヌキ、ハクビシン!

 うじゃうじゃいた。

 今は、見た目は普通の郊外の住宅地でも、

 20年近く前は、本当に山の中の大自然がこの町を囲んでいた。


 安藤さんの私への印象もあながち間違いじゃない。


 幼いころは蝮を素手で捕まえたこともあるし、

 スズメバチを箒で叩き落したこともある。

 山に向かえば、今でも普通に農家や田んぼもある。

 昔は、水路でヒルに食いつかれながら、ザリガニ取って遊んでた…


 テレビもインターネットも電話もケーブルテレビ…

 開発が遅いと弩田舎では結構普通だ。

 ケーブル一本で済むから効率がいいし、

 電気と一緒に通せば電柱だってそうはいらないからね。

 

 でも、私はそう言うのには興味はなかった…

 蛇の尻尾をもって振り回したり、

 イタチやハクビシンを追っかけるのが好きな田舎の女の子だった。


 怪我も病気も自分持ち、今思い出すと命の危険を伴う遊びもしていた。

 鉄塔上り、川泳ぎ、なんのセーフネットもないむき出しの危険。

 特に怖いとも思わなかった。

 夜は暗いのが当たり前!って生活でお化けや妖怪は怖いわけなかった。


 唯一恐ろしい経験といえば…

 月も出ていない夜に、この公園で猪と対面したことがあった。

 ものすごく怖かった…

 奴らは軽自動車ぐらい体がデカいし、鼻息は恐ろしいし何せ臭い!

 あらぶる野生の前で私は、ただ涙目で後ずさりしながらゆっくり逃げた。

 10歳にもならない時だったけど今でも思い出しても総毛立つ記憶だ。

 私はそれ以降、あまり恐怖を感じたことは無かった。

 そんなこんなの体験をした私は、

 田舎の自然で鍛え上げられた野性児のようだった。

 安藤さんはかなり正確に私を把握していたのだろうと思う。


 住宅街には珍しいほど大きな公園に入ると、

 そこには周りを照らす緑錆(りょくしょう)が蛇の様に巻きついて浮いた様な

 年代物の電燈が何本も立っている…多分もう部品もない様な骨董品だ。

  明るいと寄って来る虫たちは鬱陶しいけど、

 猪や猿が入るよりマシだと町内の大人たちが立てた電燈だ。

 もう、20年近く経っているだろうな…流石に動物が這い出てくることは少なくなったけど、

 公園の中を照らすぐらいは出来るのでまだ現役で点いている。

  その下で、何度もペンキを塗り返されたベンチに男の人が座っていた。

 こちらに気付いて、手を振ってくる…

 私よりは年下のような雰囲気ではあるが、

 地元の私には、ここの団地や近所の人間でないことはすぐに分かった。


 へらへらした笑いを浮かべて、ひょうひょうとした雰囲気…

 ジャニスぐらいありそうな長身で脚の長いイケメン

 清潔な雰囲気で引き締まった体付き…で…多分、人間でも無い

 なぜなら、気軽にジャニスに声をかけてきたからである。


「 やあ、ご苦労さん。結構待ったよジャニス 」


 柔らかそうな雰囲気の十分すぎる男前。

 ジャニスの恋人かしら?って思ったが、直ぐに頭を振る。

 こんな女性に慣れてそうな手の早そうな男が彼なら、

 ”私…男の人とはまだ”

 と真っ赤な顔で化石の様な事をのたまう訳が無いからだ。


「 そう?あれから1時間もかかってないって思うけど。

  別に春奈さんを送った後でも…よかったんじゃないの? 」


 物凄く投げやりな口調でジャニスが答えた。

 傍から見ていると、幼馴染か腐れ縁の友達いて感じの雰囲気だった。

 

「 いやいや、なんせ春奈さんとは直に会ったわけじゃないんで、

  顔ぐらい見たっていいかな?って思ってさ。


  どうせ、あとで記憶を消去するから彼女には影響ないわけだし…

  紹介してくれないかな?ジャニス。」

 

「 は~~、春奈さんはそこそこ可愛いし綺麗ですからね、

  女性に目の無い貴方ならこうなってもしょうがないわけですか…


  ああ、春奈さん…と安藤さん、こちらは私と同じ事務所のジンギさんですわ。

  警戒しないでいいですよ、本当に春奈さんの顔を見に来ただけで

  特に意味は有りませんから 」


 ちょ…ジャニス!あなたそこそこって何よ!

 それって本人のすぐそばで言う言葉じゃないですよ!


「 お初にお目にかかります。

  ジンギって言います、よろしくね春奈さんと…安藤さん。」

 

 彼は私には満面の笑みを、安藤さんには社交辞令の乾いた笑みしか浮かべず

 その場で頭を下げて来た。

 男と女でこうも態度が違うとは…しかも瞬時に顔つきが変わるのが凄い。


「 よ…よろしくね 」


 私が差し出した手をジンギさんは両手でしっかり握って、

 大きな目を糸の様に細くして幸せそうな顔で私に笑顔を振りまいた。


「 いや~残念だな~、会った直ぐ後に別れになるなんて勿体ないな~

  ジャニスがいなけりゃ、ちょっとこっちの世界に遊びに連れてって… 」

 

 こん!っとジンギさんの頭に舞踊の鎌の柄が落ちてくる。


「 馬鹿な事は言わないの。

  生きている人間なんて連れていける訳ないじゃないですか! 」


 鋼鉄の柄で音が出るほど結構強めに頭を叩かれたはずなのに、

 軽く頭を押さえただけでジンギさんは笑顔でジャニスを振り返る。


「 やだな~冗談に決まってるじゃないか、

  あんまり可愛いからつい言っただけだろう?それともヤキモチかな? 」


 全く屈託のない笑みだった。

 ジャニスや安藤さんの様に皮肉もなく単純に可愛いって言われて

 悪い気がする訳が無い…たぶん本心だろうと思う。

 見ていればわかる、

 ジャニスとは違うタイプの脳天気、本当に女が単純に好きなだけだろう。

 それは、次に手を出してきた安藤さんへの態度で直ぐに分かった。


「 安藤です… 」


「 はあ、ジンギです 」


 軽く指先に手を触れただけで会釈して終わり…

 私との差に思わず苦笑いの安藤さんだったが、何か小声で言っているのが聞こえた。


「 聞いていた通りだな… 」


 私は少し首を捻った…聞き間違いだろうと思った。

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