ジャニス
私はジャニス・ミカ・ビードフェルトと申します。
今は、超高速で太平洋上から大周りで日本海へと出る為に飛行しています。
泉ちゃんの家からだと、はっきり言ってアルプス越えしてもいいんですけど、
物理的に音速を遥かに超える飛行なんで、
わざわざ港まで戻って、障害もない海上の方が安全なんです。
時間的にも速度を落として飛行するより遥かに短いし、
高度300メートル程度だったら、飛行障害物も鳥程度ですしね。
ま、ぶつかった鳥は可哀想ですけど焼き鳥になって蒸発しますから。
なるべくそう言うのも気をつけて飛びますけど、なんせ速度が速度ですから…
ベスの様に力技で時空間に干渉して、飛行機まで戻る事も出来ますけど
既に、そこの時空間維持でかなりの能力を消費していますから
二重に空間を捻じ曲げるのは能力的にキツイんですよ。
やって、やれない事は無かったんですが、
チンピラ程度の赤目のお迎えとの戦いでも能力使っちゃいましたから、
今はこの方法で向かうしかありません。
まだ、取りこんだ魂の暗黒エネルギーも多いですけど節約しないといけません。
なんせ、まだ仕事は終わっていませんしあの男もいますしね、
それに無理やりだとベスの時と同じで何が起きるか分かりませんしね。
この人間と呼ばれる種族の住む世界では、死神と呼ばれる事が多い私ですけど。
単純に、ここに棲む人間よりはるかに多くの事が出来る能力があるからに過ぎません。
私達程度では、その能力も有限で高次元の生き物ってところが正確なところです。
せいぜい人と私たちの差なんて類人猿と人間との差ぐらいしかありませんわね。
それに、間違っても私たちは厳格な死の神にはなり得ませんわよ。
だって、凄い俗物ですわよ私たちってね!
でも、この世界の人間には負けますわね、欲望の為なら同族だって八つ裂きだもの。
神様の話を出したからついでだから言っておきましけど、
人間に本物の神様と呼ばれた人たちは、
もっと高次元でのんびりと暮している人たちがモデルですわね。
当然、能力だって私たちを超越した文字通りの奇跡ですし、
意味もなく人々を不幸に陥れたりは絶対にしない人格?だし、
苦労して頑張っている人には手助けしたくなるような人情家が多いですから、
神様って呼んでも差し支えないでしょう。
こちらの名前だと…ブッダ・メシア・イブラハム・ガルーダ・イザナミ・アンモン
なんて言われている人たちですか。
ただ、同一の人をさまざまに読み変えたり、
人間は自分の都合でその人の教義や身上をコロコロと変えますから、
あ!悪魔じゃん!そいつって名前だけで決めつけないでくださいね!
別にそんな事をするような人ではありませんからね。
例えばキリスト教の悪魔と言われるバアル…
この方、同じ48の悪魔で戦士長ベルゼブブと同一の方ですし、
それよりも、他宗教では慈悲深い善行の神とも言われていますわ。
矛盾してるし、意味が無いのでしょうけど、
きっと、そうすることで得をする人間が勝手に書いたものでしょうね。
それと、他にも私たちと能力的に近い方たちがいます、
私たちの先祖と同じ種族から枝分かれした人達ですから、
能力の発動や方向性がかなり違いますが力の大きさ自体はそうは変わりませんかね。
それと、親しいってわけではありませんけど、
私たちとも行き来や、交流もそれなりにあります。
特に、さっきのベス、ヒラリーというのが有名ですわね。
昔は二人とは仕事上よくぶつかって戦った事もありました。
まあ、死闘ではあったけど何とか引き分けでしたね。
私だって戦闘能力だ!け!なら私の世界でも指折りですから…
まあ、その他は
頭はあまり良くないし、ドジで感情に振りまわされる情けない女で、
上司のベルカーさんが匙を投げる事務所の平社員にしかすぎませんけどね。
実際に私たちの事務所が、どういう存在で
どういう形で私たちが存在しているかなんて言うのは、
説明するだけで半日ぐらい潰れそうですから今はやめておきましょう。
そうそう、
ジンギさんが言っていたあの男も当然、この世界の住人ではありませんね。
私たちは”ジュールス”って呼んでいます。
説明するのは難しいですけど、私達とは違う考え方や価値観を持った生き物です。
断層次元という特別な別宇宙で生息していますわ。
神と呼ばれる人たちの次元より遠い世界なんで詳細な世界観は分かりませんが、
なぜか、この世界によく来るんですよ。
一部はこの星では邪神や悪魔…神とも言われていますね。
神と呼ばれる人ともダブりますけど、
人間って、遥かに優れた力を持つものを盲目的に崇めるから仕方ありませんが…
職務上、彼らの実態も教育は受けています。
典型的な封建社会で、この世界で言う中世の貴族制度が敷かれています。
カーストよりも厳しい身分制度もある息も詰まるような社会らしいですね。
能力は、私たちと同等か、それ以上で貴族以上なら1対1では抗し難いほどです。
彼らは時空間ごと切り取ったり圧殺したりできる高次の力を持っていますから。
それにしても今日は月が綺麗ですわね…
長々と話しては来ましたけど、ここからは慎重に飛行しないといけませんから
失礼しますわ。そろそろ、関門海峡ですわね…
「 ねえ、ジャニスってどんな子供だったの? 」
ふとそんなことを貝沼さんに尋ねてみた。
「 さぁ、どうでしょうか…随分昔の事ですから、あまり記憶が無いんですが。
ただ、可愛かったのは覚えていますね。
近所の男の子は良く門の前で覗きに来たもんですよ…
甘いものが大好きで、良く鼻にクリームが付いていて笑っていましたね。
基本的にはお優しくて、友達も多かったですね。
動物も好きでしたよ、猫とか犬とか…良くこの世界から拾ってお渡ししてましたし、
ただ…いつもしばらくするとお屋敷からいなくなりましたね。
学校はまあ…勉強や習い事は得意じゃなかったですね。
家庭教師が何人もついて必死に教えても成績は中の中だし、
バイオリンは使用人全員が旦那様に頭を下げてやめてもらう様お願いするレベルだし、
ピアノも駄目だったし、造園も…後から直すのは至難の業でしたし…
運動も大したことは無かったですね…特に走るのなんか…なんせあの体で胸が…
ただ、能力は凄かったですよ。
あまりに凄すぎて、自動結界を旦那様が施して置かないといけないぐらいにね。
子供だったから、善悪や調整って言葉もあまり意味が無かったですから。
それと、筋力も並外れていましたね…
高校生の時は、よくちょっかいかけてきた男子を血祭りに上げていましたから…
それで、何度も何度も私が謝りに行きましたね。
治療包帯でぐるぐる巻きになった方をよく見ましたね。
女性にやられたんで、地面に潜り込むほど落ち込んだ顔も見飽きましたね…
1年もしないうちに、彼女が歩くと軒並み生徒が左右に散って
腰ぎんちゃくのような生徒が後を我が物顔で付いていくのを見ると、
よく頭を抱えた物でしたね…
そ…それくらいですかね…た…大したことは無いでしょう?
だって、短いんですよ幼い時っていうのは、だからそれ以上の事は…
人間も同じでしょう?全体の寿命に対してね。」
よく覚えていないという割に、額に汗が浮かんでるし、顔も青い…
貝沼さんは苦虫を噛みつくしたような顔で私から目を背けた。
きっと、物凄く詳細に覚えているのだろう…
それは多分、人に言えない事なのか、
思い出すのもはばかれる酷い思い出なのかも知れなかった。
まあ、あのドジさ加減や巨体を見ても容易に私にも理解できるけど…
「 ジャニスは今いくつなんですか? 」
素直な疑問だ…
「 う~ん、人間に時間軸で考えると数百年近い?ってところですか…
殆ど永遠に生きる私たちから考えればお嬢様もまだまだ子供みたいなものですけどね。」
そうですか…
私達からしたら100まで生きたら干し柿化してミイラみたいじゃん。
それが、馬鹿でかい身長は別として、
形の崩れないボディラインに、20代でも前半にしか見えない顔。
白人にありがちなサメ肌や、紫外線に弱い肌からくるシミやそばかすも無いし、
日本人の10代の高校生より瑞々しい肌をしている…しかも、透き通るような白い肌だ。
「 へええ、嫌味な生き物ですね…羨ましすぎてね… 」
私なんか、28だぞ!!
毎日、鏡見てため息ついて長い時間使ってスキンケアしてるんだぞ!
どこをどう見ても私よりかなり下の女の子にしか見えない!
しゃべったところで、小鳥のようにかわいい声だし…
「 まあまあ、興奮しないでくださいよ。
見た目なんてあまり意味が無いんですよ私たちにとっては…
好きな年齢で止めれますし、後悔すれば18ぐらいまでの容姿にも戻れますし… 」
「 へえええええ… 」
羨ましいを通り越して怒りさえ感じた。
きっと、そんな意味で言ったわけではないと思う。
絶対優位の立場の人間が、劣位の人間に説明するときはこんなもんだろうと思うし。
「 え~と…おやおや、お嬢様が来たようですね。 」
しまった!という顔をしていた貝沼さんは、冷や汗を流しながら
何か言おうとしていたが、ジャニスが近づいてくるのを知ると安堵の顔となった。
貝沼さんの向いた方向を見ると、
ジャニスが旋回して高度を下げながら向かってくるのが見えた。
やがて、少し焦げた匂いのする服とちょっぴり疲れたようなジャニスが
目の前へと降りてきた。




