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死神 Danse de la faucille  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第八幕  乱気流 ~Le Prince du monde~
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ジンギ

  ジャニスは先程の雷撃など無かったかの様に満月の明かりの中で立っていた。

 雷撃は音や光が強烈な割には大したダメージも無く、服にも擦りキズすらつかなかった。

  ただ、飛行の方は止めざるをえなかったので、

 ジャニスは、少し不愉快そうにパタパタと黒のロングドレスを叩きながら、

 目の前の黒い雲を見つめる。


 首をかしげながら、再び飛行体勢に戻ろうとすると、

 同じように雷撃が飛んできた。

 今度は、流石に予想してジャニスは反転しながら避ける。

 雷撃は傷つけるというよりもそこで立ち止まっていてくれって

 言っているように思えた。


( ああ、この感じ…昔あったわねぇ。

  しかも、この黒い雲…こんなふざけたことするのあの人以外ないわね。 )


「 ねえ、ジンギさん!馬鹿な事やってないでさっさと出て来なさいよ!

  こっちは急いでいるんですから! 」

 

 ジャニスは大きな叫ぶ様な声を上げながら、黒い雲の方をキツイ目で睨らみつける。


「 よう、久しぶりだなジャニス。

  そう声を荒げるなよな、こんなもんただの挨拶だろ? 」


 調子のよさそうな軽い声とともに雲の中から一人の男が

 ひょいっと一っ飛びでジャニスの前の空間に現れた。


 男の印象は、綺麗に櫛の通った長い茶髪に軽薄な感じのする二枚目で、

 ほっそりとした体型、身長もジャニスと同じぐらいあって脚が凄く長い…

 生活力の無い男ってこんな感じ?というのを体現した様な、

 キザったらしい、見た目は20代半ばの知性が低そうな男だった。

 …注、ジャニスの感じている印象が入っています…


「 相変わらず、失礼な方ですわねぇ。

  雷撃で脚を止めさせて挨拶ですって?常識あるんですか、あなたは。」

 

 ぷりぷりと怒り顔でジャニスが男を問い詰める。


「 いやだって、普通にや~久しぶりって声かけても、

  はいはいって言いながら、追いつけないほど加速して逃げるじゃないですか。」


「 ええ、当然でしょ?

  貴方の話って長いし、中身無いし、直ぐにどっか行かない?って誘うだけでしょ?

  私は、そんなに暇じゃありません。現に仕事中です!

  業務命令で動いているんですから邪魔しないでくださいよ!


  貴方の上司のバールさんは、こんな所で業務妨害してるって聞いたら怒りますわよ。

  それとも、ベルカー係長に報告上げましょうか?ジンギさん。」


 物凄く迷惑そうな顔でジャニスはそう答える。


「 ベルカーの兄ちゃんに報告は嫌だなあ、すっ飛んで来るからなぁ…あの人。


  なんだかんだと言ってベルカーは、

  あんたの事出来のもの凄く悪い妹みたいに思っているから

  あんたに手を出したって勘違いしたら、たちまち八つ裂きだからなぁ。」


 何が可笑しいのか、口元には笑みが浮かんでいるし

 目つきもいたずらっぽくジャニスをジロジロと見回してくる。


( ああ、こいつ…何も変わっていませんわね。

  かっこつけて、話が異様に長くて実が無い…その話余分でしょ?

  それになんですか、出来のもの凄く悪い妹って何?…失礼しますわ! )


「 何の用ですか?手短に要件を言ってくださいよ、

  まだ仕事中ですから急いでくださいね、待たせている人もいますからね。

  ああ、それと私の邪魔なんか出来ないでしょ?

  力ずくでどうにかならないのは昔で懲りていますよね。」


 まだ、ヘラヘラと笑顔を浮かべているジンギに対して、

 こめかみに血管が浮きそうなほど顔を赤くしながら吐き捨てるようにそう話した。

 

「 まあね…ベスにヒラリー、ジャニスにヒルダ

  昔、声かけた連中は桁外れだからなぁ…もう、そんな気はないな。」

 

 割りと真顔に戻ってジンギは答えた。


「 へええ、女将にあの二人にも粉かけたんですか?

  といっても相当古い話ですよねぇ、

  ヒルダさんが結婚する前だもの…30年ぐらい前かしら?

  それにしても、命知らずですわね~

  流石”はぐれ雲のジンギ”って言われるだけありますわね…尊敬しますわ。

  で、どうなりました?ちょっと興味ありますわ。 」


「 あのさ~その異名いい加減忘れてくれないかな~。

  あれは、学生時代と無職でふらふら遊んでた時の異名だろ?

  今は真面目に仕事やってる社会人なんだからさぁ…

  

  まあ、興味があるなら教えてやるか…ジャニスの場合は、相手にしてもらえなくてさ、

  意を決っして肩を抱きよせてくどこうとした瞬間に、

  高速の垂直落下式バックドロップでコンクリに叩きつけられて昏倒だったよな。」


「 ええ、あんまりしつこいし…貴方さ~下半身まで擦り寄せてくるんだもの、

  まあ、でもタンコブ程度で済んだんだし、大した事は… 」


「 音速の三倍を超えて、コンクリにめり込む前に衝撃波で深さ10センチも穴開けたのに、

  大した事は? 俺じゃなかったら、確実に死んでたぞ! 」


「 自業自得でしょ?私の事はいいからさ、他の人はどうなったのよ? 」


( 私のバックドロップだけで懲りずに、粉かけてもう諦めるぐらいの

  体験って聞きたいじゃないの…

  この人、ナンパで女の子落とすの生きがいみたいな人だったものね。)


「  ああ、ジャニスの次はヒルダだったなぁ…

  おっと、その間に2~3人いたか…勿論食っちまったけど…

  んで、調子に乗ってたんだよな~ 俺よりかなり低いんで後ろから肩を抱いてくどいたら、

  ひじ打ち食らっちゃって、

  高速詠唱で多重凍結魔法をかけられて氷柱になっちまったなあ…

  体液まで全部凍ったけど、ヒルダ親切だったよな~

  夏だったんで、外で日干しにしてくれて…2~3日?

  どうにか解けたわ…霜焼けにはなったけど。


  んで、懲りてさ~他の女の子食ってたけど…飽きちゃってさぁ。

  いい女の子探して、グリムリーパー側へも遠征してさ~ 」


「 へええ、相手を探しに次元を超えてですか~馬鹿じゃないの?

  勝手に行き来すると、当局に拘束されるじゃなかった? 」


( 確か、拘束して12時間釜茹でじゃなかったかしら… )


「 そうなんだけど…あの頃は、別に怖くなかったし、

  それより、お迎えの女って興味あったし…でも、何人か食っちまって直ぐ飽きちゃって…

  超有名人のあの二人に手を出したんだけどさ。 」


「 あなた、欲望に忠実だったんですね。

  異性と仲良くなるためなら、捕まって煮られる事などなんとも思わない

  自分の好みなら別種の生物、別次元の生き物でもお構いなし…ある意味尊敬しますわ。」

 

 開いた口が塞がらないといった顔でジャニスはジンギを見つめた。


「 べ…ベスの奴には、普通に声かけたら笑いながらキスされて…

  気がついたら大蛇の形態になられて抱きつかれてさ…

  全身の骨を砕かれたっけ…痛かったなぁ~。


  ま、でも必死に笑ってしゃべり倒してたら

  お茶には付き合ってくれたな…意外と優しかったぞ。

  秘伝の軟膏とかもらって…2時間で治ったけか。

  まあ、よくよくしゃべってみるとお姉ちゃんて感じでさ…今でも只の友達って感じ? 」


( まあ、ベスは大人ですからねぇ…昔から。

  絞め殺す事もできたでしょうけど…この馬鹿に興味が出来たんでしょうね。

  だって、馬鹿ほど可愛いって言いますもんね… )


「 ヒ…ヒラリーはさ、

  にこやかに近づいて行ったら…スゲー迷惑そうな顔されて、

  超高速連続ビンタで記憶も何もかも喪失しちゃったなあ。


  んで、そのまま川に叩き込まれてさぁ…気を失って流されている所を

  ベスに助けてもらったけ…ヒラリーは、昔の男以外は興味無いらしくて、

  同性が好きだよって、笑われたっけかな~ 」


 顎に人差し指を当てて、間の抜けた顔でジンギは呟いた。


「 よ…よく生きてますわねぇ…いくら半分不死身の私たちだって

  度を越せば死んじゃいますわよぉ… 」



「 うん、でもタフネスなのが僕の特性だし、復元力も飛びぬけてるからね。

  その分、能力はみんなより落ちるけどね。


  あ…でも、この4人の時は心底死ぬかと思ったけどさ。」


 ジンギはまたまた、ニヤニヤと笑いながらジャニスの体を舐めるように見る。


 ジャニスは、哀れな愚か者を見つめる様な顔で思った。

( どうして、こんなにへらへらしていられるのかしら

  ある意味凄いわね…この馬鹿って。 )

  

「 ああ、そうそう、要件はさ、あいつの始末の事さ。」


 ジンギはそれまでとは打って変って急に真面目な顔で、

 ジャニスの目を見ながら落ち着いた声で話した。


「 し…知ってたんですか。あの男の事を… 」


「 うん、スゲー奴なんだろあいつ…多分正面切ってやりあったら

  ジャニスだって無事に済まないんじゃないの? 次元圧縮とか使える化けもんだからさ。  


  んで、本当言うとさ、バールの命令で俺がここに来たってわけ…

  目的は、あんたの警護ってとこかな。

  まあ、あんたほど力がある訳じゃあないけど、単純に足し算になれば別だろ? 」


( そう言う事ですか…バールさん結構心配性ですわね )


「 大丈夫ですわよ、それに、これがありますし… 」


 そう言って、背中に張り付いている舞踊の鎌を右手で軽くたたく。


「 まあ…そいつは確かにすこぶる強力だけど、

  相手が相手だろ万が一ってこともあるだろう? 」

 

 心配そうに見つめてくるジンギに少し驚くが、



「 へええ、心配するんですか?

  自分が一番好きなジンギさんが?別に今はまだ、心配しなくてもいいですって。

  なにせまだ、春奈さんがいるじゃないですか。

  私が彼女を家に送り届けるまでは何もしませんわね。


  問題はその後になりますか…もし、私の手に余るようでしたら、

  最悪は女将さんに一時的に応援してもらう手筈ですし、


  それでも駄目なら、交換条件はキツイらしいですけど

  ベスやヒラリーも応援に入ってくれるよう上の方で話は出来ています。」


( まあ、まだ二人とも知らないとは思いますけどね。

  でも、あの限界突破コンビがそろって参戦は好ましくは無いですわね、

  下手したら、東京壊滅ぐらいの被害が出そうだしね。


  女将さんもすっかりこっちの人だし、出来ればそのままにしたいし。

  何とか一人で始末したいんですけどね。)


「 は?…よく決断したなぁ…上の方が。

  しかも特級の両巨頭を貸し出すって、普通あり得ないぞ? 」


( 信じられないという顔でジンギは私を見て来た。そうね、私だってそう思いますわよ。)


「 それだけの相手でしょ?

  もし、しとめる事が出来ないなら被害はあちら側にも行きますからねぇ、

  そりゃそうでしょうね…時空ごとねじ切る化け物相手だもの。」


「 ちょっと心配だけど、ジャニスさ~あいつに目的ばれてないのかな?」


「 さあ、でもあの4人の時にはうまく誤魔化す事が出来ましたし、

  ちょっとした障害は有りましたけど、全て解決しておきましたしね。

  あとは、春奈さんを無事に送り届けるだけですわね。

  多分、あいつも一緒に連れて行く事にはなりますけれどもねえ…

  そこからは、キツイ展開にはなると思いますけど。 」


 ジンギは顎に手を当てて、暫く物思いにふけたが

 意を決したかのように真面目な顔でジャニスの方に手を乗せる。



「 そうか、じゃあ俺はその春奈って子の家で先回りしてるわ。

  一緒に行くって選択して、あいつを警戒させて戦闘にでもなったら

  いくら春奈ちゃんでも巻き込まれて蒸発しちゃうからな。

  

  多分、あいつが相手だと俺なんか大した役には立たんけど、

  少しぐらいなら時間を稼げるしな。 」


 ジャニスが不思議そうな顔でジンギの顔を覗き込む。


「 えっと、私たち一応、不死ってことにはなっていますけど

  下手すれば死んでしまいますわよ… 」


「 ま、ひょっとしたら古い顔見知りが亡くなっちまうのも嫌なもんだし、

  俺が行ってどうにかなるかも分からんけど後悔したくないしな 」


 ジンギは、ジャニスと同じ職制にもかかわらず、

 若干の恐怖とから元気の為に、汗をびっしょりと掻いていた。


「 そんなに汗かいて、無理しなくても大丈夫ですわよ。

  まったく人の生き死にには無頓着で、自分がとなったら尻尾巻いて逃げるあなたが、

  命がけって似合いませんわよ。」


「 いやいや、ここで尻尾巻いて逃げたらず~と言われるし… 」


「 私が、喋ると思いますか?そんな事には興味ありませんわよ、

  それに、誰だって相手が相手ですから誰も責める事なんかしませんわよ。 」


「 いや、そうだとしても…お前には何かあってもらっては俺が嫌だし… 」

 

  ジンギはジャニスの目を瞬きもせずに見つめた。

  どんなに鈍いジャニスでも、それがどんな意味かは十分に分かったが、

  プイと横を向いて体を捻りながら、

  ジンギの視線を切るように、やや上空へと飛び上がった。


「 ま…まあ、ありがたく聞いておきましたわ。」


  いい加減見えなくなるまで飛び上がって高度を取ってから、

  真っ赤になった顔を舞踊の鎌の刃で隠しながら、

  消え入るような声でそう言うのが精いっぱいだった。 


  それでも、異次元の住人であるジンギにはよく見えたし、よく聞こえた。

  恐らくそんな事はジャニスも承知の上だが、

  面と向かって言うよりは、少しは気が楽なのだろう。


  ジャニスは、そこから超高速で春奈たちが待つ海上へと飛び去って行った。


  その様子を、ニヤニヤと見ていたジンギだったが、

  ちょっと俯いて、大きくため息をついた…。


「 ふ~ん、少しは脈がありそうじゃんか…って、

  あいつと渡り合って死ななければ…か…難しいなぁ~ 

  ま、いいさ、目の前であいつに死なれるよりよっぽどいいし。 」


  ジンギは、そう言うと再び黒い雲の中へと戻って行き、

  完全に中に入ってから雲は凄い勢いで収縮していき、一気に消え去っていった。

  

 

  

  

   


  

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