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死神 Danse de la faucille  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第八幕  乱気流 ~Le Prince du monde~
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ジャニスお嬢様

  潮の濃い匂いのする水面を走る風に髪をとかれて、

 私は今、羽衣を纏った天女の様にゆらゆらと空中を漂う。


 ジャニスは、私の前の泉ちゃんの番になってから、なかなか帰ってこなかった。

 何か手間取る事でもあったのだろうか?

 しかし、悩んでもしょうがないのでジャニスが来るまではやる事も無く、 

 私と、安藤さんは眼下に海に沈んでいる先程まで乗っていた飛行機を見ていた。


 196人もの亡骸が入った棺桶だけど、

 魂の方はジャニスが持って行っているので、今は本当の肉塊だけだ。

 ああ、これは私が言ったわけでなくジャニスが言ったことだから私を嫌な目で見ないでね。

 

 私は個人的には葬式や墓が大事だし、

 残された亡骸にも魂の欠片や残留した思念が残っていると思っていたのだけれど、

 ジャニスにさっき聞いたところは結構衝撃的だった。


” へええ、そうなんですか?

  魂が抜ければ…ただの肉片ですよぉ… ”

 

 と、死神のくせに全ての宗教を否定するような見解を披露してくれたのだ。


” まあ、残された人が何を思おうが個人の自由ですし、

  大胆に言えば魂の行き場に不安視している方が大元の宗教を作ったわけですし。


  ああ、ただですね、

  故人が生きていた時の事を忍んで、お別れの為に皆さんが集まって

  お葬式を行うという事は、人間だけが行う崇高な儀式だとは思いますわよ。

  まあ、死後の魂に触れている私の目からすれば自己満足に過ぎませんけどね ”


 納得が出来なかったんで、聞いてはみたんだけど…


” いや、その…身も蓋もない。

  でもさっき高木さんに言いましたよねぇ? 死をつかさどる神様って実在してるって… ”


” ええ、いますわよ。でも、それと死体と何の関係が?

  う~ん、あ!そうだ…思い出しました。

  ある意味、死体に関しては、ビルヒテルダ様が管轄していますね。


  転化の神様ですけど、人類には知られていませんわぁ…

  風化するか、土に還るか、はたまた別の生物にの食物となるのか…

  そういうのを決める人ですけどもね。 ”


 つまりは、死の神がいるから魂の管轄はされているけども、

 器であった肉体は物だから、転化するだけの神しか関係無いということだろう。

 ジャニスの答えは、シンプルなものだった。



「 なんだかな~ 」

 

 一応、ジャニスの言葉で納得はしてはいる…神にも匹敵する様な奇跡を見せられたし、

 実際に魂の回収をしているので、それが真実なんだろうとは思う。


「 遅いですね、ジャニス。

  泉ちゃんの番になって2時間はかかってるんじゃないですか?

  時計がゆっくりとしか動かないんでよくは分からないけど。 」


 暫く、ボケっとして会話も無かった安藤さんがそう呟いた。

 

「 お持ちの時計だとどのぐらい経ってます?

  ジャニスの言い方だと、時間の進み方が概念的なんで分かんないんですよ。

  機械的な時間が正しいと思います。

  じゃなきゃあ、太陽があの位置にある訳無いし… 」


「 あ…それはそうか、えっと3分ほどですかね時計だと。」

 

 そうか、それだと単純に、

 正しい時間の40倍の遅さでこの空間内が動いている事になるけど別に、そうは感じなかった。

 先程、海鳥が飛んでいたが特に遅くも無かったし、波の動きも普通だった。

 大体、本当に時間だけ遅れていたら呼吸すらできないからな~


「 いい加減な世界ですね…、ご都合主義の塊みたいな。」


「 はは、なんせ物凄い能力の持ち主ですからね。

  自分の事を神にも匹敵しますわよって言うぐらい自信もある人ですから 」

 

 そうだ、私ら普通の人間から見たらジャニスは奇跡の能力を持っている。

 何か、手違いがあっても多少遅くなっても必ず帰って来るだろう…でも、暇だな~



 その時、いきなり私たちの近くに一人の男が煙の様に現れた。


 白髪交じりの黒髪を丁寧に分けて、実直そうな顔に眼鏡が光る

 50代ぐらいの執事の様な格好をした男だった。

 その男は、高そうな磁器製のティーセットを乗せた銀のトレイを

 両手で支えながら、ゆっくりと私たちを見てから丁寧にお辞儀をする。 


 音も無く、ただ現れたという感じだったので対応が出来ずに、

 私と安藤さんはその不思議な光景に口を呆然と開けていたら、

 その男が、にこやかに笑いながら話を切り出してきた。


「 初めまして、私はビードフェルト家の執事をしております貝沼と申します。

  安藤様と加藤様でございますね? 」

 

 貝沼って言う人は、私たちと同じように宙に浮いてはいたが、

 背筋が通って物腰が柔らかそうで、しっかりしてそうな印象に

 私は少しばかり気押されてしまう。


「 え…ええ。」


 私は思わず答えたが、安藤さんはしきりに貝沼って人を観察している。

 まあ、ここでジャニスの干渉も無く空中に浮いてる執事なんて

 人間でないのは確かだから普通は、そうやって観察するものだけどね…

 慣れたわ、あの巨体のせいで。

 

「 えっと、そのビートフェルト家の執事がなんでここに?

  貴方は、多分人間じゃないと思いますけど…いったい何者です? 」

 

「 ビートフェルトは、ジャニスお嬢様の実家でございます。

  それと、安藤様のおっしゃる通り私も人間ではなく

  異次元の住人でございますが、死神とかそう言うものではございませんね。

  まあ、能力的にはジャニス様よりだいぶ落ちますが。


  ここに来た要件ですけども、手違いがあってジャニス様は少し遅れるそうです。

  そうですね~体感だとあと3時間ぐらいですか…

  そこで、退屈していてもという事で私が呼ばれましたのでございます。


  それはそうと、お茶でもいかがですか?

  主人は、子供っぽいんで、苺のロシアンティーが定番なんですけども

  どんなのがいいですか? あ…コーヒーでもジュースでもかまいませんよ。

  多少の事なら、力の行使で可能ですから… 」


 私は、両肩の力が抜けた。

 お嬢様?あの巨体が~何かに合わないな~。

 涙眼で上司に叱られて、目の泳ぎまくってた人がいい所の?

 それにしては、言葉使いがメチャメチャだったけどな~。


 ま、いいや丁度、喉渇いていた所だしね。

 細かい事気にしてもしょうがないんだし、例えこの人がどんな人であっても、

 私たちが抗える様な人物じゃあない事は確かなんだし、黙って、状況に流されるか…


「 えっと、喉が渇いたんでコーラって出来ます? 」

 

「 氷は多めですか? 」


 そう言いながら、まるでテーブルでもあるかのように銀のトレイを脇に置く。

 落下せずにそこで浮いたまま静止した…。

 その上で、貝沼さんの両手に柔らかそうな木のトレイに乗ったグラスとコーラの瓶が降りてくる。

 

「 お任せします。」


 カランカランとグラスに3個ぐらい大きめの氷が落ちてくる。

 そして、私の前にトレイごと置いて行った。


「 勝手に浮いてますから大丈夫ですよ。」


 そう言って手を離す…言葉通りトレイは落ちずにそこにとどまった。

 私は、グラスを取って喉を潤す。

 

「 私は、紅茶だな…品種は? 」

 

「 なんでも、直ぐに用意できますんで。」


「 じゃあ、アッサムでミルクたっぷりって感じでお願いします。」


「 はい、分かりました。

  ビスケットはいかがですか?ケーキや御煎餅も用意できますけど… 」


 小腹がすいていたので、二人とも軽い食事…サンドイッチも頼んだが、

 コーラと一緒で、直ぐに用意されて空中に出てくる。


「 これじゃあ締まりませんな。テーブルと椅子も出しましょう。」


 手の込んだローズウッドの椅子が3脚現れて、

 ガラス天板をマホガニーかなんかで組んだ骨組みで支える高そうな机が現れた。


「 こりゃあ、いいですね~ 」

 ゆったりと腰を下ろした安藤さんが、紅茶を飲みながらそう呟いた。

 コーラじゃあ、ちょっと雰囲気は出ないけど、

 眼下に広がる大海原で私たちは、

 夏の日差しと潮風に揺られながらゆっくりとお茶を楽しむ事にした。

 


  

 もう…遅くなっちゃいましたわねぇ…

 泉の背中が、二階建ての普通の民家の玄関に消えて行くのを見てから、

 ジャニスは俯くように溜息を吐いた


 あ~あ、ベスを呼んだは良かったんですけど、

 流石、特級ですわね~

 まさか、次元連結を超重力干渉で瞬時に行うって思ってもいませんでしたわ。

 おかげで、私の干渉フィールドまで影響出ちゃって…

 

 その瞬間に私の干渉能力が弱まったから、あそこの時間がずれちゃいましたわ。

 まあでも、単純に10分程度ですし、

 体感なら2~3時間ってとこでしょうから心配ないでしょう。

 貝沼にも連絡入れて相手してもらってるし、

 いざ、不測の事態が起きたとしても少しぐらいは持ちますしね。


 ああ、ただ部外者の助けを借りたってしったらまた何かいいそうですわね

 ベルカーさんが。

 ここは、なるべく早く帰ってですね本題の春奈さんを送っていかないといけませんわね。


「 でも、こんな夜更けですからゆっくりと飛びますか、

  既に、フィールドを補修したんで、ここからは時間は関係ないですからね。

  いきなり、音速出して皆さんを叩き起こすような真似も無粋で嫌ですしね。」


 誰も聞いてはいないが、声を出して行ってみる。


 ジャニスは、口元で高速で詠唱を唱えると、

 ゆっくりとその巨体が、螺旋運動を描いて空へと浮かび上がって行った。

 青い保護フィールドを纏って低い雲を貫いていく。


「 この辺でいいでしょう…、じゃあ帰りますか。」


 高度があがり、さっきまでいた泉の家の前も米粒ほどに見えたところで

 ジャニスは水平飛行に移って、月下の空を滑るように飛び出した。


 徐々に速度を上げ、音速を超えて更に速度を上げて行く。

 飛んでいると急にジャニスの視界が暗くなっていく。


「 おかしいですわね~、なんですかこれ?

  空間密度と、重力波動が乱れてるように見えますわねえ… 」


 ジャニスは、暗くなっていく視界の先に月の光に照らされて怪しく光る雲を見つけて

 急に立ち止まった。


「 あ!? 」


 ただならぬ気配を感じてジャニスが眉を寄せて怪訝そうな顔をした。

 すると、凄まじい雷鳴が鳴り響いて、無数の光が雲の中から飛び出してきて、

 その光は、ジャニスの体を派手に貫くと、

 ジャニスの体を中心にして、四方八方に光の飛び散っていった。

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