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死神 Danse de la faucille  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第八幕  乱気流 ~Le Prince du monde~
90/124

緋村 信二の場合 ~魔法少女まらまら~

 遠くで何かの音がしている…

 意識はその音で回復したと思うが、今はまだ目も見えない。

 さっき、確かに死んだはずなのにまだ感覚があるのかと嫌になったが

 ちょっと様子がおかしい。


 何故かって?

 タタ…ン キ…ャンタン タ… って音は明らかに何かの曲だからだ。

 病室で戦争の様な慌しさで処置されているはずなのに

 そんなものが聞こえてくる方がどうかしているが、

 漠然とどこかで聞いたようなって思っているとその音は徐々に大きくなってくる。

 

 ダダダダン! ダダアア! ダンダン!!

 

 頭がいたくなるような大音量で聞こえ始めた時には、意識がはっきりした。

 こ…これは、

 聞いているのも物凄く恥ずかしい賑やかな少女アニメのイントロ

 小学校の時にテレビで見てる、これはよく知っている曲だ。

 

「 これって…”魔法少女まらまら”…のイントロじゃねえ? 」

 

 僕は何も無かったかのように若々しい声でそう叫んだのだ。


 慌てて目を開けると( 瞼が開くとは思わなかったが )

 大量の光が目に飛び込んで来て、目を細くしてしまう。

 見えなくなっていた目だったが、信じられない光景が出迎えてくれた。


 澄み切った青空に、流麗な雲が流れて、

 幾羽かの鳥たちが、その雲を横切って飛んでいるのが目に入った。

 細部まできっちり見える健康的な視界だった。

 

 驚いていると更に体全体を柔らかく包む感触がしてくる。

 動くはずがなかった首を意識して力を入れると、望んだとおりに動いてくれた。

 その目で見えたのは若草色に染まる草原だった。

 目と鼻の先にある草の匂いが少し懐かしく感じる…臭覚も戻ったようだ。


 でもこの音楽…糞うるせえ… 

 これって、魔法少女まらまらのオープニングで間違いないよなぁ。

 スゲー勇気ある名前だなあって小学生なのに感じた事あるから間違い無い。


  もう、3か月もう寝た切りだったのに信じられないが半身を起こす事が出来た。

 そして僕は呆然と周りの景色を見回して息をのんだ。


 そこには日本とは思えない景色が広がっていた。


 右手には、自分のいる草原の丘を下った先に、

 鏡の様にその奥の雪を抱いた大きい山々を映している湖があったし。

 

 反対の左手には針葉樹が立ち並ぶ大森林と大きな川が見えた。

 

 両方ともその奥は霞んで見えないほど山々も森も壮大な大きさだった。

 映像ではよく見るカナダやアメリカの自然公園の様な雄大さだった。


 ともかく、ここはどこかを確認する必要があるだろう。

 ひょっとして立てるかなぁ…と思いながらもすんなりと立つ事が出来た。


「 どこだよ、ここ…それにこの音楽どこから聞こえる?

  近くに機械らしきものも無いのにさぁ 」


 呆然と立ち尽くしていると…大森林の方から人の呼ぶ声が聞こえたので振り返る。

 

「 えっと…? 」


 森から伸びている小道から川沿いに

 赤い服を着た女の子が大きく手を振って、

 軽快なリズムで大きなスキップしながら近づいてくるのが見えた。

 遠目で見るとひらひらとしてなんだかカラフルな服だなぁ…と思ったが、

 その姿が近づくにつれ僕は頭を抱えたくなった。


 真っ赤な超ミニで、お臍近くまであるハイウエスト。

 裾がチューリップ形で大きく膨らんでいた。

 その下から覗くのは、折りたたんだ何枚あるんだ?と思う様なレース生地

 踝に羽の生えた、膝上まである特殊な真っ赤なブーツ。


 真っ白なブラウスに、首元には真っ青な細いリボンを蝶結び。

 スカートと同色の赤い上着には、ひらひらとした襟と、短い袖に臍あたりまでの丈

 その上、陽気がいいのに肘の上まである赤い手袋…

 極めつけは遠くからは、ただの鍔広の帽子かな?って思っていたが、

 真っ赤で、薔薇のコサージュがついて…白い羽もある魔女っ子風の帽子。


 魔法少女まらまらの格好その物だ…

 なんで、こんな自然豊かなところでコスプレ?って思ったけど、

  コスプレというには、いい生地使ってるし凄く上質で仕立てがいいので、  

 思わず、本当の魔法少女が立ってるの?って思うぐらいの出来だと思う。


 でも、恥ずかしくないのか?

 ニコニコ笑いながら近づいてくる魔法少女もどきをよく見て見ると、

 160半ばの、遠目から見てもすごい美人だと…外人さんかな?

 スタイルのメリハリもしっかりした女の子だった。

  

「 もったいないな~ 」


 女のコは、僕の居る場所へとスキップのままで近づいてくると、

 最後の一歩は大げさなモーションで兎の様にジャンプする。


 両手を横に広げながら両脚着地して、首を傾けながら思いっきり万歳をした。


 その瞬間に、音楽が止んで、代わりに派手なファンファーレが鳴り響く。

 女の子は、猫の様に握った両手を可愛く顔の前で目を瞑りながら笑顔で振り続けた。


 ファンファーレが鳴りやんだ瞬間に背中から、

 ハートマークやら星型の飾りがデコデコ張り付いたピコピコハンマーを、

 取り出して体の前で構えながら、大きな声で叫んだ。


「 ようこそ、いらしてくれまひたニャン! 」


  物凄く作った様な、猫なで声でちょっと気持ち悪いぐらいだった。

 あまりのわざとらしさに開いた口が半開きになる。

 そこまでやる必要があるの?と思わず固まってしまった。


 え~と、これは…夢かな?

 でも夢なら、こんなわざとらしさなんて感じないんだけど…。


 あ、でもさっきまで死にかけてたし…って、もしかして僕、死んでるんじゃあ…

 現実をうまく受け入れる事が出来なくなったけど、

 これは恐らく死んでいるんだろうとは思う。


 女の子は、同じ体勢で暫く目を瞑ったまま耐えていたが、

 僕が反応しなかった時間が長かったのもあるだろうが、

 そのうち唇がわなわな震えて冷や汗をダラダラ流すと、

 ハンマーを下ろして大きく両肩を落とし

 無言でごそごそと長い手袋を外してその場に座り込んだ。


「 はああ~、やってらんねえ~ 」


 と、大きなため息をついてガクッと俯いた。


「 あんたが、勝手にやって勝手に盛り下がってもな~、え~と…あんた誰? 」


 馬鹿みたいな恰好で馬鹿な事をしている間は心の底からこの女が怖かったが、

 投げやりなため息で安心した。


「  私か?私はリンド…リンド・ベスグランド・ヒラリーって言うんだよ 」


 無気力そうな言葉でそう呟いて、今度は僕に向かって


「  ここは死後の世界だよ、それも辺鄙度も高い国グランドって世界さね。


  私は、そこの管理人のひとり。

  言っとくけど、今の挨拶は着た全員にだな業務命令で仕方なくやってるんだよ。

  やらないとさ…体を舐めまわされて、精気を吸い取られるから…いやいやだからな!!


  で、あんたこそ誰だ?死んだから来たのは分かるけど。

  普通は、業務命令書と詳細な資料が送って来るから、

  名前や性格や、履歴も分かるんだけどなぁ。


  なんでか知らんがベスの奴が、

  私の知り合いが来るから好きにしてって言われてから来たんだけども。


  あんたの事…覚えていないんだよねえ…誰だっけ?


  ま、ゆっくり思い出すか…時間は腐るほどあるからさ、暇だしな。

  それに仕事だからここらは案内はしてやるか。

  辺鄙な村だけど、私の任された村だしそんなに悪いところじゃない

  

  あんたの家もちゃんと用意してあるし 」


 一から十までよく分からない話だが、どうやら僕は死んだ事だけは分かった。

 でも、このふざけた魔法少女もどきだけど懐かしい感じがする。


 でもそんな事があるはずが無い、

 こんな魅力的な外人さんなど、一度見たら忘れる訳ないんだけど…


「 そういや、ベスの奴は確か言葉をかけろって言ってたなぁ。

  借りは、返すのが当たり前だからって言いながら変な紙を渡してさ 」


 リンドって女は、上着の懐から小さく丸められた羊皮紙を取り出して広げる。


「 ガルガゾン シャーデェン ファツファーテル ?

  聞いた事も無い呪文だなぁ…ってあれ?あれ~お…お前知ってるぞ!? 」


 リンドとやらは、急に真っ赤な顔で僕の方を見つめてきた。


「 ん~と、ああ、久しぶりだなあリンド…2年ぶり? 」

 僕は、思わずそう声をかけた。

 目の色はちがうが、この雰囲気は間違いない…どうして忘れていたんだろう?


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