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死神 Danse de la faucille  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第八幕  乱気流 ~Le Prince du monde~
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山野 泉の場合 ~緋村 信二という男~

「 ここですか? 」


 私はジャニスさんに抱っこされたままの状態で、

 眼下に広がる大邸宅を目を丸くして呟いた。

 

「 ええ、重い暗黒エネルギーが充満していますから犯人は間違いなく中にいますわね。

  泉ちゃんはこの場所に心当たりは? 」


  いきなり、暗黒エネルギーって言われても…でも、知らないよ~!

 あ、でも門のあたりには見覚えがある、塀の向こうはこうなってたのか。


「  そうですね門のあたりは通学の時によく見かけましたけど、

  中がこんな大きくて広いなんて思いませんでしたし心当たりはないですね 」


 ジャニスさんは足場となっている緑色の光の円盤に立って、少し足を広げていた。


「 これだけの構えの家や土地を維持できる訳ですから、相手は大変なお金持ちですわね。

  これなら、呪いにかけた千万単位のお金を用意するのも可能な事でしょう 」


 土地の値段なんてよく知らないけど、

 私の住んでるお家に関しては分かっている…5500万って聞いてるわ

 親子二代ローンだからなって、お兄ちゃんをお父さんが脅してたからよく分かる。


 あんな小さい家でその値段なら…10億は軽く超えるんじゃないかなぁ。

 レベルが違いすぎてわかんないけど。


「 大体、あれだけ濃い呪いなら泉ちゃんの関係者で間違いないですが。

  泉ちゃん、お知り合いで裕福そうな同級生とかいませんかね?

  普通なら飛行機の中からでも相手の正体が分かるはずなんですけど、

  場所だけで、どうしてもよく分からなかったんですの。

  

  誰かが邪魔してるのか…普段感じない壁のような物を感じますね 」


 今までの経緯からジャニスさんの能力でも分からないってのは少し信じがたいが、

 困ったような顔をしているので真実の様だ。


「 裕福な生徒?って、うちの高校は市では一番の高校なんで

  引っ越してでもって人が多くいし、特に、お金持ちの子供はかなりいます 

  しかし、ここまでのお金持ちって記憶にないですけど 」


 実際、公立なのに大企業のご令嬢や御子息が平気で通っている。


 私の住んでる県の企業は製造業メインでグローバル企業が多いから、

 実力本位、能力主義が徹底している。

 馬鹿じゃあ幹部の子供たちでも自分の企業に入社も出来ないし、

 そこそこぐらいじゃあ、他の同僚と区別もしてもらえない世界らしいからね。


「 そうですか…ちょっと待ってくださいね。」


 ジャニスさんの目の色が少し赤くなったが、一瞬で元の黒色に戻る。


「 どうやら、あそこの離れが呪いの中心みたいですけど…

  一人じゃないみたいです。 何か、禍々しいものがありますわね 」


 そこまで言って、急にジャニスさんが黙り込んでしまった。








 天井に禍々しい黒い雲の渦が見える。

 僕は半年近くもこの布団に寝てそれを見上げている。

 今日は少し機嫌はいい…

 泉は飛行機事故で確実に亡くなっているはずだからだ…

 海に墜落した飛行機に生存者って言うのはあり得ない。

 流石に死体が見つかれば確実だろうけどそれは無理だろうな。


 それに生き死には足元で立っている女なら…分かるだろうと思っていた。


 しかし、さっき聞いたところ

 ”よくは分からんのだよ…反応が消失してな…”って言葉には恐れ入った。


 それって、死んでるのと同義じゃないのかって思ったけど、

 こいつが認識して、納得しない限りには先には進めない。

 まあ、いい…あと数カ月ぐらいはこの体も持つだろうし、

 呪いの反動とやらも別室でお経を唱えている生臭坊主がいるから大丈夫だろう。

 なにせ、5000万も後払いの契約だしな。


  僕の名前は緋村 信二…まだ高校生だ一応。


  小さいころに一回だけ虐められた事がある。

 腹を蹴られて当たり所が悪かったんだろうな~入院するはめになった。

 3日間の短い検査と観察入院で出てきたら虐めた子は5人も全て居なくなっていた。

 なんでも、緊急の海外赴任という事で家族が丸ごと移住したらしい。 

 うちの家が親の会社に圧力かけたらしい。

 それ以来、僕は虐められなかったけど、ず~と監視の目がついて回った。

 学校側にも報告の義務を課していたらしく寄付金も馬鹿にならなかったのが大きいんだろう。

 虐め騒ぎで担任も校長もついでに処分された。

 教師は当然、生活もあるし何も言わなかったし同級生も親からきつく言われ、

 僕が舌打ちしたり不機嫌な顔をするたび飛び上がるように驚いていた。


 僕の親は、凄い金持ちであるし世界的企業の創始者でもあるので地位もある。

 この町で僕の家に逆らうことなど自殺行為みたいなものだ。

 

  弟は跡継ぎ候補として厳しく育てられて遊ぶ暇などなく勉学にいそしんでいるが、

 僕は体が弱く後継ぎとしては失格ではあるが勉学は出来たので

 いざというときのスペアとしては過干渉せずにカードだけくれたので金だけは唸っていた。

 気楽ではあるが、所詮はスペアなので親もあまり会いに来ない。 


  中学の時…僕は女神に会った。

 名前は、山野 泉…今、僕が死んで貰いたい女性だ。

 正直、誰にでも優しいし、容姿も抜群で頭も運動神経もいい。

 中学じゃあ、ちょっとしたアイドルみたいな感じだった。

 三年生まではその存在は知ってはいたが、特には関心が無かった。

 なにせ、女の子なんか掃いて捨てるほど寄って来たからだ。


  吐いて捨てるっていうのは、その程度の子しか寄ってこないってことも差す。

 三年生になる前には、キスどころか童貞を簡単に捨てたし、

 何人もの女の子とも関係を持った…ちょっと贅沢な事をして見返りがあれば

 10代のガキでも平気で股を開くって現実さえ知った。


 正直、彼女に出会う前はそんな感じだったので、

 女というものに幻想も夢想もありはしないし好きという感情もついぞ無かった。

 ただの性欲のはけ口程度の認識だった。


 三年生の時に同じクラスになっても、ああこいつが…てぐらいにしか思わなかった。

 中間テストのときには学年2位…僕の直ぐ下。

 成績なんて気にした事は無いけど、僅か数点の差だったから気になった。


「 泉?ああ、あれですよ完璧超人ってやつですよ。

  普通に頭いいし、家で勉強するだけって聞いてますよ。」

 と聞かされて、興味が出来た。


 体育の授業も飛びぬけて能力が高かったし、

 保健委員としてもテキパキと仕事をこなしていたし、

 男連中の中にはわざと授業中に仮病を使って泉の手を煩わせていた事もあった。

 舞い上がった奴らが何度か告白したが玉砕。

 でも、距離も置かずに普通に接してくれるらしく男子についてはすこぶる人気が高かった。


「 信二さんが相手でも、泉が絡めば敵にだって回りますから… 」

 ってマジ顔で取り巻きにも言われたぐらいだった。

 それから、少しずつ泉の事が気になって来たんだけど決定的な事が修学旅行で起きた。

 この町では親の力が唸っても遠く離れた旅行先なら話は別だ。

 自由時間に取り巻き連れてATMで金を下ろして皆で羽目をはずしていたら、

 地元のDQNに絡まれた。


 相手の人数も多かったのもあるけど、取り巻きの連中は

 所詮、親の力と金の力で結ばれただけだから僕など見向きもせずに逃げ散った。

 

  これからどうなるんだろうって、

 馬鹿で凶暴そうな顔を見て途方に暮れていると、

 僕とDQNの間に、震えながら泉が割って入って手を広げた。

 僕も相手もびっくりしたが、一歩も引かず黙って立つ女の泉に

 DQNも恥ずかしくなったのかバツの悪そうに泉の肩を軽く叩いて去って行った。


「 だ…大丈夫… 」

 って、ちっとも大丈夫そうもない泉に僕は心を奪われた。

 

 それから、僕は取り巻きを解散して、女どもとも縁を切った。

 既に、十月になっていたが残り少ない中学生活を友達の一人として泉と仲良くできた。

 それからは、泉と一緒にいるだけで楽しくて本当に幸せだった。


 しかし…同じ高校を受けて当然合格したけど急に病気になって体が言う事を聞かなくなった。

 結構、高名な医者にもかかったけどどうにもならなくて休学。

 それから長い間、死んだようにこの布団で天井を見上げる生活だった。

 そのうち、自分が決して治る事の無い免疫系の病気だと知って愕然とした。

 5年生存はかなり難しいらしく、徐々に体が衰えて死んでいく病気って事だった。

 それからは…退屈な毎日。

 少しずつ死んでいくように感じる絶望な日々を半年ほど過ごした時に

 

 足元にいる、こいつは現れた。


 真夜中…絶望で眠れない僕の目の前、

 星灯りが天窓から差し込むこの部屋の一角に突然現れた。


 炎の様な真っ赤な赤い髪で、真っ白な雪の様な肌。

 輝くような白いロングドレスに長い手袋…

 背中には、巨大な長剣を差していて足元は珍しい形の白いブーツ

 全身白ずくめの天使の様な格好…そこまでは出来の悪いコスプレの様だったが、

 全て真っ赤な瞳は彼女が人間でないことを如実に表していた。


「 このまま死にたいか少年? 」


 いきなりそう告げられた。


「 あんた…誰? 」


「 私は…リンドって言うの。

   "グリム リーパー”って言われているいわば死神ね 」

 

 

 ああ、そうか…僕は死ぬんだと思った。

 まさか、泉を死に追いやる事になるとはその時には思いもよらなかった。




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